【第17回】ハーグ条約のおさらい|私、国際結婚します!! でもちょっとその前に知っておきたいお話
国際結婚とハーグ条約の深い関わりに関しては、これまで何度もお話してきました。しかし、国際結婚を考えている女性たちが皆、ハーグ条約の全容を把握しているわけではないようです。結婚間近の幸せいっぱいの女性たちに「離婚することになった時のことも考えろ」という方が無理かもしれませんね。
しかし、ハーグ条約が日本でも施行されてから3年半が過ぎた現在でも「なぜ離婚しても子供を連れて日本に帰れないのか」を理解しきれず悩んでいる女性は少なくありません。
そこで今回はハーグ条約のおさらいです。
夫婦が暮らす国
国際結婚を決める時、「夫婦が暮らす場所をどこにするか」について話し合うことは、とても大切です。けれども、ワーキング・ホリデーなどでカナダを訪れていた女性が、滞在中に出会った男性と結婚することになった場合、当然のように妻がカナダに移住することになるようです。
しかし、この時の「当然のように決めた移住」が後々の人生にどのような影響を与えるかについては、結婚前に理解しておきたいものですね。
ハーグ条約と夫婦が子と暮らしていた国
ハーグ条約とは、「両親の離別に伴う子供の親権や監護権などは、両親が子と暮らしていた国の法律に従って決める」ことを国家間が約束する国際条約です。日本もカナダもこの条約の加盟国です。
ですから、カナダで暮らしていた夫婦のうち、一方の親がもう一人の親の許可なく子を伴って日本に戻った場合、残された親は、日本国政府(外務省)に対してカナダへの子の返還を求めることができます。これは、妻も夫も日本人であった場合でも同じです。
親権と監護権の違い
さて、親権と監護権は共に「権」が付いているため、どちらも親の権利であるかのように思われがちです。しかし、親権が「医療や教育など、子に関する重要な事を決める親の権利」であるのに対し、監護権とは、「子と同居し、子の日常を監督し保護する親の責任」です。言い換えれば、監護権は「親の監護を受ける子の権利」なのです。
カナダをはじめ欧米では、「子は双方の親から保護、養育される権利を持つ」という規範に基づいた共同親権(Joint Custody)、共同監護(Co-parenting)が一般的です。つまり、離婚した両親がどちらも子の親権を有し、子は、母と父の家を行ったり来たりし、両方の親と暮らしながら成長するのです。
離婚後、子どもが両親の家を行ったり来たりすることに対し、日本人の多くは、「子供のためにならないのでは?」という疑問を抱くようです。
ハーグ条約と子のベスト・インタレスト
しかしハーグ条約は、すべてのケースに適用されるため、それぞれにとって何が一番よいかが考慮されることはありません。また子自身の意見が聞き入れられることも稀です。そのため、たとえどのようなケースであっても、子は双方の親と密接な関係を保ちながら成長することになります。
結果、カナダで国際離婚した場合、日本人の母が子供の成長をそばで見守りたいと望んだなら、カナダで暮らし続ける以外の道は閉ざされてしまうのです。
子供と一緒に日本に戻ったら誘拐?
にもかかわらず、国際離婚に瀕し「子供と日本に帰るにはどうしたらよいでしょう」「単独親権が取れれば日本に戻れますよね」と尋ねる女性は少なくありません。
確かに、子に対する直接的な暴力などが立証された時、単独親権が与得られる場合もあります。しかし、親権を持たない親が行方不明であるなどの特別な状況を除いて、ほとんどすべての親にアクセスと呼ばれる面会交流権が与えられます。
従って、それが子の単独親権を持っている親の行為であっても「子の連れ去り」は、もう一方の親の面会交流権を侵害することになるため、犯罪であるとみなされてしまいます。これが、子を連れて日本に戻った女性たちが「誘拐犯」と呼ばれる理由なのです。
いかがでしょう。国際結婚を控えた国際カップルにとって、国際結婚とハーグ条約の深い関わりについて理解することは、結婚生活への覚悟を育てる大切なプロセスではないでしょうか。
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野口洋美 心理学名誉学士(HBA)、コミュニケーション学修士(MA)
NPO法人APJW代表:別居や離婚を経験することになった日本女性の相互支援(ピアサポート)団体(web:apjw.info)の代表として、自立に向けての様々なテーマで勉強会を毎月開催。2015年、APJWはオンタリオ州のNPOとして承認される。国際離婚関連の執筆多数。離婚駆け込み寺(日加タイムス)、ひとり親のつぶやき(mamma、日系ボイス)など連載。2014年、国際離婚とハーグ条約をテーマにヨーク大学にて修士論文を発表。法律通訳としても活躍中。