アルバータ州(2)Banff バンフの大自然を自分の足で | 紀行家 石原牧子の思い切って『旅』第12回
長くカナダに住んでいるとバンフを訪れる機会は幾度かやってくる。が、いつも雪山。それで今年の夏は娘を誘い、私の健脚度のテストも兼ねてバンフに向かった。実はこの一年間腰痛軽減のため医者に言われた体操を朝晩しながら生活している。だが動きだせばさほど気にならないので思い切ってハイキングに挑戦することにした。カナダの美しさは大地を踏んで初めて実感できるもの。この大自然と一体になってみたい、カナダに住んでいるのだから。カルガリーからSUVの運転は娘が買って出た。
サンシャイン・メドーズ(Sunshine Meadows)のトレイル:恐竜公園(前回参照)を後に、バンフに到着。その16キロ程先に有るサンシャイン・ビレッジは冬はスキー場なのでホテルまでゴンドラが行く。リフトに乗り継げば360度の視界がひろがる標高2400mのサンシャイン・メドーズが待っている。スーツケースはビレッジホテルの車が運んでくれるので、私達はゴンドラに乗り込み緑の下界にしばし陶酔する。
その夜、星景写真を撮ろうと試みたが、熊が出るからと説得され諦める。朝はいよいよハイキングだ。カメラとランチだけ持って6つのトレイルの中からバテずに戻って来れそうな3つのコースを選ぶ。そびえるカナデイアンロッキーをバックに草原、原始林、池や湖、等7キロの道のりは歩く人の目を飽きさせない。澄みきった川の浅瀬に鱒が日光浴をしているかのようにじっとして動かない。あちこちの穴からリスが出て来てハイカーを迎える。平坦なあぜ道から展望のいい山道まで、目にも足にもエンドレスな楽しみを提供してくれる。赤ちゃんを背にしたパパとママ、リタイヤ風老夫婦、一人旅の人、学生のグループなど皆が大自然にとけ込んでいる。
レイク・ルイーズ(Lake Louise)—アグネス湖のティーハウス・トレイル(Lake Agnes Teahouse Trail):多くの日本人を魅了して来た有名な湖、レイク・ルイーズ。私達が選んだコースは湖岸のシャトー・レイク・ルイーズホテル横の坂道からスタートする。往復6.8キロは最終地点のアグネス湖まで上りだ。
途中標高2025mのミラー・レイク(Mirrow Lake)で休憩し2135mのアグネスめがけて登りきる。ここは初級とされるコースだが、上りなので呼吸に負担をかけないように一歩一歩マイペースで歩かないと厳しい。標高が高くなるにつれ向いの山を見る自分の目線も上がり、自分が山のどの辺にいるのか見当がつく。湖畔のティーハウスが視界に入ると達成感がこみ上げてくる。
ティーハウスはカナダの国鉄が1901年に丸太小屋を建てたのが始まり。1905年から民間人がハイカー達のお茶のサービスを開始し、以来世界中から来た人達の休息の場となっている。テーブルや椅子は当時のままの丸太。アグネス湖畔で飲む熱い紅茶が一気に疲れを忘れさせてくれる。
ジョンソン峡谷(Johnson Canyon):バンフから25キロ、TransCanada Highway(カナダ横断高速道路)と平行に走るBow Valley Parkwayにその入り口はある。目的はLower Falls とUpper Fallsの二つの滝だが、深い渓谷を覗き込みながら、そしてゴーゴーと流れる水の唸りを聞きながら歩くのが醍醐味。トレイルの長さは往復17キロで、写真を撮る時間もいれれば半日は必要だ。スタートから深い森の中を歩く。途中までは車椅子でも行けるほど、誰でもチャレンジできる。
標高1565mにあるUpper Fallsを見るにはキャットウォーク(Catwalks)といわれる岩壁に設置された金属製の狭い道を行く。もし滑って落ちれば奔流に飲み込まれて命をおとすと言われる程、危険な所だ。ちなみにキャットウォークは、高い所にある猫の通り道、というのが元の意味。猫が高い塀をそろりと歩くような感じで歩くところなのだ。
もと来た道を下りハイクを終えると絶対に食べたくなるソフトクリームに出くわす。腰痛のことはすっかり私の頭から消えていた。
石原牧子
オンタリオ州政府機関でITマネジャーを経て独立。テレビカメラマン、映像作家、コラムライターとして活動。代表作にColonel’s Daugher (CBC Radio)、Generations(OMNITV)、The Last Chapter(TVF グランプリ・最優秀賞受賞)、写真個展『偶然と必然の間』東京、雑誌ビッツ『サンドウイッチのなかみ』。3.11震災ドキュメント“『長面』きえた故郷”は全国巡回上映中。PPOC正会員、日本FP協会会員。
www.nagatsurahomewithoutland.com