四国ってどんなところ? ―(3)愛媛県 道後温泉 ―大島の亀老山|紀行家 石原牧子の思い切って『旅』第74回
道後温泉
四国をよく知らなくても日本育ちなら「道後温泉」を聞いたことがない人はいないと思う。道後温泉は本館(1894年)、別館(飛鳥乃湯:2017年)、梅の湯(別館の隣:1953年)の3つの建物からなりどれも加温、加水なしの源泉たれ流しの湯だ。
木造3階建の本館は日本の公衆浴場として初めて1994年に重要文化財に指定され、ミシュラン・グリーンガイド・ジャポンの最高位、三つ星を2009年に獲得した大御所だ。
現在大修復工事中で、入館は東側(裏)から。格調高い明治の立派な正面は残念ながらカバーにすっぽり覆われていて見えない。しかし工事中も四つある湯殿は人数制限しながら二つが営業中だ。同伴の友が早朝、整理券をもらいに並んでくれた。夏目漱石が常連だった頃の建物は現在の北側の部分だけだった、と工事人の話。完成は2024~2025年だそうだ。
『道後温泉本館』の古くて黒光りした内部の薄暗い木造建築とは対照的に別館『飛鳥乃湯』は飛鳥時代の建物を模写したもので、入口前の広場は花のカラー写真で埋め尽くされている。館内は明るく広々としていて愛媛の伝統工芸で飛鳥の和と近代の和の調和を狙っているかのよう。2階の大広間で和菓子とお茶のおもてなしがあるのは嬉しい。『梅の湯』に入る機会はなかったが素朴で広い湯殿が地元では人気なのだとか。
ハイカラ通り
道後温泉本館、別館(本館から200mほど)、梅の湯、と伊予鉄道城南線の道後温泉駅をつなぐハイカラ通りは観光客で賑わうアーケード。通りの入口にあたる道後温泉駅周辺には夏目漱石の小説「ぼっちゃん」に出てくる伊予鉄の〝坊ちゃん列車(明治21年~)〟や道後温泉100周年を記念して建てられた〝カラクリ時計〟がある。列車は1日3往復、土日祝日のみ。
道後温泉駅と松山駅間を20分で走る。時計は時間になると音楽とともに「坊ちゃん」に出てくるキャラクターが躍り出る仕組みになっているのだとか。スケジュール上、私たちはどちらも体験することができなかったが、商店街はカフェ、レストラン、ギフトショップで十分温泉街気分を満喫することができた。名物鯛飯にもありつけた。土産物店の中でも私のお気に入りは絣の手作りバッグがぎっしり並んだ店。都会に負けない素敵なデザインに私の足が釘付けに。
瀬戸内海を望む最高の場所―亀老山(きろうさん)展望公園
道後温泉から今治にきた。いよいよ大瀬戸内海が視界に入る。「瀬戸内海」とは本州、四国、九州に囲まれた水域だがその間に大小700以上の島が点在する。そして愛媛県今治市に属する大島に隈研吾氏のデザインで有名な亀老山展望台がある。今治の町外れにある〝サンライズ糸山〟のレストランで腹ごしらえをしてから出発。ちなみに、ここで自転車をレントして広島県方面に向かって海道をサイクリングする人は多い(我々は広島県側からすることになるが)。
「しまなみ海道」で一番長い来島海峡大橋は第一、第二、第三の橋からなり最初の出口(南IC)を出て大島内を約10分走れば標高300mの展望公園駐車場へ着く。展望台のユニークなところは設計上「見えない建築」、360度の展望を試みていること。屋根も壁もなく、階段を上ると左はA展望台(伊予灘の方角)、右のB展望台(安芸灘の方角)に分かれ、瀬戸に浮かぶ島々の佇まいが満喫できる。この展望台が公共建築賞で優秀賞を獲得した名作だというのもうなずける。展望公園は年中無休で無料。飲食店はないが駐車場にアイスクリーム屋がある。
〝サンライズ糸山〟から垣間見た4.1㎞の来島海峡大橋をここで遥か下に見下ろすのは強烈にシュールな感じ。海峡の180m上を走るトラックは細くピンと張られた針金の上をゆっくりスライドしている〝点〟でしかない。運転している人間は見えない。そんなちっぽけな人間が作った巨大な橋を見て感動するのは私だけではあるまい。
石原牧子
オンタリオ州政府機関でITマネジャーを経て独立。テレビカメラマン、映像作家、コラムライターとして活動。代表作にColonel’s Daughter(CBC Radio)、Generations(OMNITV)、The Last Chapter(TVF グランプリ・最優秀賞受賞)、写真個展『偶然と必然の間』東京、雑誌ビッツ『サンドウイッチのなかみ』。3.11震災ドキュメント“『長面』きえた故郷”は全国巡回記念DVDを2018年にリリース。PPOC正会員、日本FP協会会員。www.makikoishiharaphotography.com
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