石川まりこさん 特集インタビュー
ツアープランナー、ガイド、トラベルライター、旅行業翻訳者 石川まりこさんの特集インタビュー
その後、いつかは移民したいと思い描いていた未来を現在バンクーバーで実現中。
〝バンクーバー〟および〝旅〟の世界と関わるきっかけを教えてください。
30年ぶりに中学の同窓会に出席した時、「昔からどこかに移民したいって言っていたけど、本当にしたんやね〜」と久々に会う友人たちが迎えてくれました。当時はドイツやフランスのガイドブックを読んで現実逃避していただけですが、それが外国や英語への興味につながり、初めて選んだ仕事は海外添乗員。11歳の頃から国内を一人旅していたので、当然すぎる職業選択だったと思います。カバン専門商社に転職してフランスやトルコにも駐在しましたが、出張や引越しが多くて常に旅をしているような日々でした。カナダには1992年に結婚移民しました。翌年には長男が、その2年後には次男が相次いで生まれ、初めて落ち着いた暮らしができました。北米有数の貿易港があり、すぐ北に千メートル級の山々が並ぶバンクーバーは、故郷の神戸にどこか似ていて親しみが湧きました。以降、引越しすることもなく、バンクーバーに住み続けて24年になります。
旅のスペシャリストとして、バンクーバーの魅力を教えてください。
街の人々がなんとなくやさしいことでしょうか。見知らぬ人々とすれ違う時に交わすはにかんだ笑顔やちょっとした言葉かけに日々癒されています。バンクーバー周辺の21市町村を合わせた都市圏メトロバンクーバーは、東京都の1.3倍と面積は広いのですが、人口は245万人で東京の2割しかいません。トロントの都市圏と比べたら、面積も人口も半分以下です。高層ビルが立ち並ぶダウンタウンは大都市に見えますが、そこに暮らす人々のメンタリティーはまだ「大きな村」といった感覚で、人と人との精神的な距離が近い感じがします。また、バンクーバーほど都市と自然が共存している街は世界的にも例がありません。ダウンタウンは横3㎞、縦2㎞ほどの半島に収まっていて、その先には東京ディズニーランドの8.6倍もの広さを誇る市民公園スタンレーパークがあります。海水浴ができるビーチはダウンタウンや住宅街に10か所あり、海沿いの遊歩道は30㎞も続くのでジョギングやウォーキングに最適。北の山々には吊り橋のかかる深い渓谷があり、森林浴をしながら手軽にピクニックやハイキングが楽しめます。
フードトラベルが近年注目されていますが、バンクーバーはまさにぴったりの場所だと思います。いかがでしょうか?
私が暮らし始めた1992年頃は、どこへ行ってもハンバーガーにフライドポテトばかりで、バンクーバーの食文化はお世辞にも上級とは言い難いものでした。それを変えたのは、1995年頃から急増した香港移民です。香港の人々は一日三食、外食するのが当たり前。香港返還で共産圏に組み込まれることを恐れた富裕層が腕のいい料理人も多数連れてきて店を開かせたのが始まり。中華料理だけでなくフランス料理やイタリア料理のレベルも引き上げられ、21世紀を迎える頃にはバンクーバーは美食の都になっていました。バンクーバーの近郊には農業地域フレーザーバレーがあり、朝採りの野菜や果物、ベリー類が産地直送で手に入ります。近海ではダンジネスクラブやボタンエビ、ギンダラなどがとれ、フレーザー川にはサーモンも上がってきます。新鮮な地元食材の風味を生かした料理はウェストコースト・キュイジーヌと呼ばれ、あっさり仕上げた味つけは日本人の口にもぴったり。バンクーバーの高級レストランでは、ウェストやホークスワースがウェストコースト料理で有名です。 また、バンクーバーから車で4~5時間、山を越えて東に約400㎞入った内陸部には、ワインの一大産地オカナガンがあり、ワイナリーツアーも大人気です。南北200㎞のエリアにワイナリーが190以上も点在し、そのほとんどが小規模で個性的。北は冷涼な気候なので、ドイツのライン川流域のようなリースリングやシャルドネ、ピノ・グリなどスッキリした味わいの白が多く、南は半砂漠の地中海性気候なので、カベルネ・ソーヴィニヨンやメルロー、シラーなどフルボディの赤が中心。各地で気候や地形、土壌の違いを活かした様々なスタイルのワインが造られています。澄み切った青空にオカナガン湖の深い青。なだらかな丘陵に延々と続く緑のブドウ畑。地元の食材を駆使した料理と芳醇なワインの味わい。オカナガンはまさにフードトラベルにぴったりのデスティネーションです。
トロントにいる旅慣れた方々に対して、バンクーバーでオススメのモノ・コト・トコロなどを教えてください。
最近は「カナダグース」や「ルーツ」などメイドインカナダが日本でも紹介されるようになってきましたが、バンクーバーのローカルブランドもがんばっています。アウトドアウェアで有名な「アークテリクス」の本社はノースバンクーバー。世界中のヨガ愛好家の間でファンが多いアクティブウェアのブランド「ルルレモン」や、大学生を中心にユーザーを増やしているバッグブランドの「ハーシェル」もバンクーバーが発祥の地。西海岸の個性的なカジュアルウェアやユニークな雑貨を探すなら、ローカルデザイナーやクラフトアーティストの店が集まるメインストリートやキツラノ地区がおすすめ。特にキツラノ地区には、アークテリクスの直営店があり、世界最高品質でおしゃれな防水ジャケットなど品揃えが抜群。ルルレモンの一号店やハーシェルのセレクトショップもあります。自家焙煎カフェやハンドメイドのショコラティエ、オーガニックを意識したレストランなどもたくさんあるので、ショップめぐりの途中に美味しい体験も入れましょう。観光地としては定番ですが、グランビルアイランドも絶対おすすめです。バンクーバーの黎明期から1950年代まで工場や倉庫が立ち並んでいましたが、自動車全盛の時代に入ると工場が移転してしまいゴミ溜め状態に。そのまま放置されていたのを、1972年に州政府が再開発に着手。パブリックマーケットや芸術大学、公団住宅などを建てて、観光客も住民も利用できる街づくりを目指しました。アイランド内にはチェーン店がなく、個人経営の小売店や工房などユニークなショップが並びます。パブリックマーケットでウェストコーストの食文化を楽しみ、隣の「ネットロフト」でクラフト作品やハンドメイドのアクセサリー、先住民がデザインした雑貨などユニークなお土産を探してみてください。
バンクーバーには山・海など自然も豊富で人生が豊かになりそうですが、どのようなライフスタイルが描けますか?
午前中の仕事を終えたら、ランチタイムは鳥のさえずりを聴きながら森でお弁当。海の眺めを楽しみながらカフェランチもいいですね。リフレッシュできたら午後からしっかり仕事して、夕方はイングリッシュベイのビーチでのんびり日光浴したり散策したり。北側にはサイプレス、グラウス、シーモアとスキー場が3つもあるので、冬はダウンタウンから車で30分走ればゲレンデに立てます。会社のロッカーにスノーボードやスキーウェアを入れておいて、仕事帰りにナイターで滑りに行く人もいます。都市型生活をエンジョイしながら自然ともふれあえるライフスタイルは、心身ともにバランスがとれるのでいい感じです。トロントのCNタワーやモントリオールのスモークミートのようにシンボル的なものはありませんが、徒歩や市バスで気軽に回れる範囲に個性あふれるショッピングストリートやレストラン街があり、暮らすように旅するのも、旅するように暮らすのも自由自在。誰にも気兼ねなくのんびり歩けるのが最大の魅力です。街は活発に成長し続けているので、長く暮らしていても飽きることなく、いつまでも愛着を感じるバンクーバーです。
石川まりこ
兵庫県神戸市出身。カナダ専門旅行会社エーアールエー・プロフェッショナル・トラベル(www.arapro.ca)のツアープランナー、ツアーガイド、トラベルライター、旅行業翻訳者として幅広く活躍。主にツイッターで、美味しいバンクーバーや知ってるようで知らないカナダについて、常にポジティブに情報発信する。
ツイッター: twitter.com/Natulive_Canada