映画「ダゲレオタイプの女」黒沢清監督 インタビュー&密着取材
映画界の巨匠 黒沢清監督の海外初進出作品『ダゲレオタイプの女』トロント国際映画祭にて世界初公開!
9月12日、トロント国際映画祭で公式上映された「ダゲレオタイプの女」。当日上映後には黒沢清監督が主演のタハール・ラハムとコンスタンス・ルソーとともに、Q&Aセッションに出席し、観客から積極的に投げかけられる質問に対してユーモアたっぷりに回答していた。
今回、黒沢監督にとって初の海外作品で、世界初公開となった同作品の上映後には海外進出のきっかけなどが問われ、黒沢監督は「昔から、チャンスがあればどの国でもいいから海外で撮ってみたいと思っていたところ、フランスのプロデューサーの方から撮影のオファーがあったので、喜んでこの仕事を引き受けた」と返答した。
また、「本当にフランスでよかった。わがままも聞いてくれて、とても仕事がやりやすかった。もしハリウッドだったら、僕は完全に壊れていたかもしれない」と述べて観客を沸かせ、映画の余韻が残る中、巨匠・黒沢監督のオーラに多くの人が引き寄せられながらQ&Aがスタートした。
プレミア上映後のQ&A
何に惹かれてこの作品を撮ることになったのですか?
実はこの物語は20年近く前にふと考え、思いついた物語で、なかなか日本では撮ることは出来ず、ずっと眠っていました。しかし、フランスのプロデューサーからオファーがあった際に、なにかオリジナルの物語で海外でやれるものはないかと聞かれたので、昔考えたこの物語を提出しました。また、「死」というのは常にどこかで僕のテーマになっており、今回は幽霊というものが「死」の象徴だと思っています。必ず僕の映画の中には、いろいろな形で「死」が出てきています。
ダゲレオタイプの器具は本物ですか?
残念ながらこれは本物ではありませんが、これぐらい大きなダゲレオタイプがかつて実際に作られていたという記録が残っているので、それを再現しました。
〝ダゲレオタイプ〟をテーマにしようと思ったきっかけは?
この物語を考えた時の最初のアイデアが、〝ダゲレオタイプ〟でした。そういう古い写真に昔から多少興味があり、日本で〝ダゲレオタイプ〟の展覧会を観に行ったのが非常に大きなきっかけとなっています。
そのとき、一枚のダゲレオタイプの写真の少女の表情が苦痛にも、快楽にも見える本当に奇妙な表情で、解説を読むと、彼女は十分間くらい固定されていたため、ものすごく緊張し、一瞬を捉えるのとはまた違う、不思議で見たことがないような表情になっていたということが分かりました。また、横に彼女を固定した器具が展示してあり、すごくその器具に興味を持ちました。
キャストティングや撮影で使用された屋敷はどのように決められましたか?
キャストに関しては、実は日本にいるときから、タハールもコンスタンスも主役にふさわしいのではないかと直感なのですがずっと思っていました。実際フランスに行って、女優・俳優合わせて50人ほどの人に会い、いろいろお話した結果、やはりこの二人しかないと決めました。また屋敷については、パリ近郊は、映画にもありましたが現在は開発が進んでおり、ほとんど古い屋敷がありませんでした。それでもなんとか見つけて、大きく分けて、メインの階段のある室内、温室と庭のある家、そして実際写真を撮っているアトリエ倉庫の三か所で撮影しました。
翌日TORJAスタッフによる突撃取材を敢行
プレミア上映後のQ&Aは多くの質問がでて活発な雰囲気でしたが、どのように感じられましたか?
何度もトロント国際映画祭には来ているのですが、やはりこちらの観客は鋭いというか、気持ちよく反応してくれると同時に、辛口のところが厳しく見ているだろうという緊張感もありました。そのため、エキサイティングと同時に身の引き締まる重要な映画祭だと改めて感じました。
7年ぶりのトロント国際映画祭はどうでしたか?
昔よりどんどん大きくなっていると思いました。試写会が開かれる場所も違いますし、僕がよく映画祭に参加していた20年近く前はもっとブロアストリートの方へよく行っていたと思うのですが、現在はこちら側(キングストリート周辺)に移ってきているのですね。また、今では高層ビルが建っていて、街も映画祭も大きくなっているのだなと改めて感銘を受けました。
最後にトロントの日本人に向けてメッセージをお願いします。
本当に映画祭でしかトロントに来ていないので、普段のトロントのことはちゃんと分からないのですが、本当にインターナショナルで、すべての人種、すべての民族、あらゆる宗教が平等に暮らしている場所だなと実感しました。なので、こちらに住んでいる日本人の方は、狭い日本の中で閉じこもっている人に比べると、ずっと世界に開かれた目を持った人たちだと思うので羨ましいです。
『ダゲレオタイプの女』映画紹介
カンヌ、ヴェネチア、ベルリンといった世界三大映画祭に出品され、ヨーロッパを中心に世界中で高い評価を得ている黒沢清監督。その黒沢監督がオールフランスロケ、外国人キャスト、全編フランス語のオリジナルストーリーで挑んだ初めての海外進出作品。
ダゲレオタイプの写真家ステファンのアシスタントに偶然なったジャン。その撮影方法の不思議さに惹かれ、ダゲレオタイプのモデルを務めるステファンの娘マリーに恋心を募らせる。しかし、その撮影は「愛」だけではなく苦痛を伴うものだった……。愛が命を削り、愛が幻影を見せ、愛が悲劇を呼ぶ。世界最古の撮影を通して交わされる愛の物語、愛から始まる取り返しのつかない悲劇、これまでにないクラシカルで端正なホラー・ラブロマンスだ。