【第28回】国際結婚:夫婦と事実婚 |私、国際結婚します!! でもちょっとその前に知っておきたいお話
むかしむかし、夫婦とは「婚姻届を提出した男女」のことのみを指していました。
時は移り「夫婦」の定義から法的な要素が影をひそめてしまったようです(男女である必要もなくなったことに関しては、別の機会に触れましょう)。
夫婦に対する考え方が大きく変わったことに伴い、社会のシステムも変わりました。
そこで今回は、オンタリオ州における事実婚について考えてみましょう。
事実婚と内縁関係の違い
「同棲」という言葉にうしろめたい響きがあった時代を覚えている人は少ないかもしれません。むかしむかし夫婦が「婚姻届を提出した男女」だった頃のことです。当時、同棲とは、結婚できない理由を抱えていることを暗示しており、このような関係は、「内縁関係」と呼ばれていました。
大辞林によると、内縁関係とは「婚姻の届出をしていないために法律上の夫婦とは認められない男女関係」で、事実婚は「婚姻の意思がない点で内縁と区別」さるのだそうです。
例えば、同棲関係が「経済力がつけば、前の配偶者が離婚に承諾すれば、今抱えている問題が解決すれば、結婚しよう」という関係だとすれば、事実婚はライフスタイルそのものであるのでしょう。
カナダの事実婚
カナダでは、コモンロー・リレーションシップと呼ばれる事実婚が定着しています。社会的に夫婦として認められ、互いをパートナーだと紹介し、冠婚葬祭などの正式な席にも夫婦として招待されます。
事実婚の社会的な位置付けを反映して、事実婚パートナーは社会生活において様々に優遇されています。確定申告の際、配偶者控除を受けたり、パートナーの社会保険の配偶者枠で、OHIP(オンタリオ州の公的医療保険)でカバーされない医療費が支払われたり、というのがその例です。
また、カナダ人と事実婚関係にある外国人は、パートナーがスポンサーとなることでカナダの永住権を申請することもできます。
しかしこれらはあくまで事実婚パートナーに与えられた「社会システム上の特典」であり、法的な婚姻関係にある場合の「自動的な権利」とは異なるのです。
この特典と権利の違いを完全に理解するのは至難の技ですが、ここでオンタリオ州の場合の一般情報を紹介しておきましょう。
オンタリオ州のコモンロー・リレーションシップ
まず注意したいのは「コモンロー・リレーションシップ」の定義です。
カナダの所得税法では、コモンロー・リレーションシップ=同居する配偶者、だとしています(ちなみに「配偶者」という言葉も法的婚姻関係とは無関係に使われます)。また、事実婚パートナーがファミリークラスで永住権を申請するには、一年以上の事実婚関係を証明する必要があります。
これらに対しオンタリオ州の家族法は、コモンロー・リレーションシップを「三年以上の同居期間、あるいはカップルの間に子供が誕生していること」であると定義しています。
しかし、この条件をクリアしていても、事実婚パートナーの法的権利には限界があります。
事実婚を後悔する時
法律に縛られない新しい形の夫婦が、その法律によって不本意な立場に追いやられる可能性もあります。もし経済的に自立できていなかった場合、事実婚であったことを後悔する日が来るかもしれません。
まず、事実婚カップルが万一その関係を解消する時、法的配偶者に自動的に与えられる財産分与の権利が発生しません(オンタリオ州、2018年8月現在)。
事実婚カップルの間に生まれた子供に対する「養育費」や二人の経済力の差が大きい場合の「配偶者サポート」は受け取れますが、共有していたと思っていた自宅、車などの財産は、各々名義人の物となります。つまり、オンタリオ州の事実婚は、現在のところ「経済生活、社会生活の上で協力する親密な関係が成立してない」と言えるかもしれませんね。
さらに、もし事実婚カップルの一方が先立ってしまった場合、配偶者名義の財産は、事実婚パートナーではなく、配偶者の子供や親、兄弟に残されます。万一、事実婚パートナーに法的な婚姻関係が解消されていない相手がいた場合、財産がそちらに行ってしまう可能性すらあるのです。
事実婚をライフスタイルとして選ぶならば、同居同意書の作成は必須でしょう。きちんと先を見据え、責任ある選択肢を選びたいですね。
(カナダの家族法は州によって異なります。以上はオンタリオ州に関する一般情報です。事実婚に関する問題については家族法の弁護士にお尋ねください。)
国際離婚経験者のピアサポートグループAPJW(NPO)
野口洋美 心理学名誉学士(HBA)、コミュニケーション学修士(MA)
オンタリオ州公認パラリーガル、国際離婚経験者のピアサポートグループAPJW(NPO)理事
別居や離婚を経験することになった日本女性の相互支援(ピアサポート)団体(web:apjw.info)の代表として、自立に向けての様々なテーマで勉強会を毎月開催。国際離婚関連の執筆多数。離婚駆け込み寺(日加タイムス)、ひとり親のつぶやき(mamma、日系ボイス)など連載。2014年、国際離婚とハーグ条約をテーマにヨーク大学にて修士論文を発表。法律通訳としても活躍中。