世界屈指のベアリング製造会社「NTN」 President & CEO Paul Meo氏 インタビュー|カナダで飛躍する日本企業研究
ミシサガを拠点にカナダで事業を開始してから50年。
オンタリオ州における日系企業の進出と繁栄の礎を築いてきた世界屈指のベアリング製造会社「NTN」の軌跡
日本でも創業100周年を迎えた世界屈指のNTN株式会社。カナダ社も昨年11月に創業50周年を迎えたことを機に記念式典を開催。長年の産業界への功績を讃えてジャスティン・トルドー・カナダ首相やヘーゼル・マカリオン・元ミシサガ市長らも参列した。ミシサガ市と日本企業の長年に渡る良好な関係のパイオニアであるNTNカナダの歩みやコミュニティなどに対する社会貢献の姿勢についてカナダを統括するポール・メオ社長に話を聞いた。
品質管理における権威ある「デミング賞」をベアリング製造企業として初めて受賞
ーカナダで取り組んでいるビジネスやプロジェクトについて教えてください。
NTNカナダは幅広い種類の玉軸受(ボールベアリング)やころ軸受(ローラーベアリング)を多くの産業に向けて製造・販売しています。今年、NTNは創業100周年、そしてカナダにおいて設立50周年を迎えました。現在ではカナダにおいて二つしかないベアリング製造会社の一つとしてミシサガを拠点に事業を展開しています。
主に自動車産業向けに提供している製品はホイールベアリング、等速ジョイント、そしてボールベアリングです。ホイールベアリングとボールベアリングの二つは、ここミシサガにある施設にて製造されています。ボールベアリングは主にOEMを行う下請業者に提供されています。自動車の一部として私達のベアリングが使用され、完成した自動車がお客様に提供されています。一方でホイールベアリングは北米にあるNTNの拠点に提供され、そこからさらにOEMを行なっている業者へ提供されています。
1918年の創業以来、NTNは世界屈指のベアリング製造会社として地位を築き、その品質は業界でもトップレベルです。カナダにおいてNTNの軸受は自動車、航空機、鉄道、そして電子モーターなど、様々な分野で使用されています。さらに、農業、建設、製紙などの分野でも、多くの機器にNTNの高品質な製品が使用されています。ただ、製品の品質のみでお客様の満足を確実に得られることが出来ないことは確かですので、信頼出来るアフターサービスやテクニカルサポートを含む様々なプログラムを提供することにより、お客様のニーズに常に応えています。
ーNTNの強みを教えてください。
弊社は丈夫な製品と深い産業知識により競争率の高いベアリング市場において常にトップを走り続けています。1918年より、NTNはお客様から信頼されるベアリングのOEMとして生産性と効率性に優れた商品を作り続けています。
ベアリングの製造企業として初めて「デミング賞」という名の品質管理における権威ある賞を受賞したこともあり、自動車・鉄道・建設機械・航空機・医療機器など様々な産業において世界を代表する企業から長年に渡りパートナーに選ばれています。
私たちのビジョンはカナダのベアリング産業における顧客満足度トップの企業になることです。スローガンである「DRIVE NTN100」はこの思いを含め、これからさらに向上していくという決意を言葉にした、向こう三年の経営計画の中心となるメッセージです。
NTNそして多くの日系企業をカナダに誘致したヘーゼル・マカリオン・元ミシサガ市長という特別な存在
ー昨年末には創業100周年とカナダ設立50周年を記念して式典が開催されました。当日の感想をお聞かせください。
記念式典を開催した理由は三つあります。一つ目は、顧客への感謝です。式典に出席した方の多くはNTNカナダの50年間の大半を共にしてきた大切な方々です。顧客というよりも家族や友人のような存在です。二つ目は、従業員と共に歩んできた50年を讃えるためです。信頼できる従業員がいなければ、弊社は成り立ってきませんでした。一人一人の従業員のおかげで私たちは50年という長い間、産業のトップを走り続けることが出来ました。そして三つ目は、50年と100年という長い間を支え続けてくれている政府の皆様との関係を祝福することです。
NTNカナダはカナダでの製造・販売をするために1968年に設立されました。以来50年間、最先端の技術と研究開発によりNTNはカナダにある様々な産業におけるキープレイヤーへと成長しました。この50年間、様々な人がNTNの成長を支えてくださった中、特に大きな存在だったのがヘーゼル・マカリオン・元ミシサガ市長です。
彼女は日本の親友と言っても過言ではないと私は思っています。NTNとの関係も長く、当時のNTNカナダの社長だった鈴木泰信氏と協力し、ミシサガ市と日本の愛知県刈谷市の姉妹都市関係を築いたのも彼女でした。まだNTNがカナダに設立されて間もない頃、マカリオン氏はNTNの発展に大きく貢献してくださいました。
NTNはカナダに拠点を置いた二番目の日本企業でした。製造業にとって海外に拠点を作ることは決して簡単なことではありません。住宅地の開発が進んでいたミシサガ市では特にそうでした。そんな中、マカリオン氏はNTNが工場を拡大するにあたり許可を得るプロセスにおいて手助けをしてくださるなど、事業発展には欠かせない存在となりました。彼女のおかげで私たちの成長が阻まれることなく今日に至っているのだと思います。ミシサガにおいて各ビジネスが成長できるような環境を作ることにとても積極的に取り組まれ、成果を出されてきたと思います。
マカリオン氏はジャスティン・トルドー首相とも交友関係にあり、記念式典にも彼女自身が首相を招待してくださいました。そして首相はイベントにてNTNの企業理念を出席された皆様に明確に伝えてくださいました。私たちがカナダ、従業員、そしてお客様を大切にしているということ、そしてこれからもその情熱を絶やすことなくカナダにおいて事業展開を続けていくことを発信していただいたことはとても光栄なことでした。
製造業界への貢献と未来に対する取り組み
ー50年という長い期間にわたりカナダで事業を続けられた背景や今後における成長継続にはどのようなことが必要だとお考えですか?
カナダにおける成長の要因はまず従業員にあると考えています。彼らの献身的で熱心な姿勢のおかげでカナダにおいて常に革新的な商品を提供することが可能になり、これはNTNの競争力の高さにも大きく貢献しています。
続いて、NTNが築いてきた様々な産業との関係もカナダにおける成功の要因の一つと考えています。私たちのセールスチームは素晴らしいカスタマーサービスと深い専門知識を通してお客様との協力的かつ互恵的な関係を築いています。私たちの目標はお客様の革新のパートナーとなることです。お客様のニーズに耳を傾け、課題を見つけ、共に革新的な解決策を提供することによりお客様の成長と発展に貢献する。これが私たちの目標です。
カナダとの関係はこれから先もさらに強固なものになるでしょう。NTNカナダは1968年よりカナダの製造業界において貢献し続けています。そして、これからもカナダの経済の発展のために新しく革新的な商品を提供し続けたいと考えています。
未来を見据える企業として、私たちは最先端技術を用いた商品やプロセスの研究開発の投資に重点を置いています。
「DRIVE NTN100」は次の100年の長期経営計画で、中でもデジタル化・研究開発・最新技術の革新・最適化など、私たちが重要とする「改善スピリット」をもとにビジネスを変えていく思いが込められています。
グローバルで推進する市場ニーズを先取りした新技術の研究開発
ーテクノロジーの発展に伴いMaaS(Mobility as a Service)に代表されるドライバーレスカー時代が到来してきています。そのような新しい産業革命の中でNTNのイノベーションはどのように変化していくとお考えですか?
自動運転車の技術に関してNTNはとても前向きな姿勢をとっています。その例として、三重県に再生可能エネルギーに特化した研究開発センターを設けたり、「Q’mo(キューモ)」という名の電動自動車の開発を手がけたりしました。NTNではすでに自動運転に必要な技術とマインドセットが備わっていると考えています。
しかしながら、自動運転などの社会転換は弊社にとっては良いことだけではありません。自動運転車に代表される電気自動車ではこれまでクルマに使われてきた150個のベアリングのうち、およそ半分が不要になります。ですので、製造者として残りの半分をサポートできるような部品を開発するのが現在の大きなミッションです。
また、センサーの開発もとても重要だと考えています。センサーは自動運転車にとっても欠かせないパーツですが、私たちはさらにその技術を応用しようと考えています。例えば、日本の大阪大学に「NTN次世代協働研究所」を設立し、AIを駆使しベアリングの損傷や寿命を判断するという技術を研究しています。このように、部品の異常を感知するセンサーや診断技術を開発することにより、問題にいち早く気づき、迅速かつ的確に対応することでお客様の機械を止めず、効率的な生産や安全に貢献できます。
現在、製造業の多くの企業が抱えている大きな課題の一つが技術者の高齢化です。部品の知識や修理する技術を持っている方々が減少しているのが現状です。しかし、この先お客様から求められているものは今までと同じレベル、またはそれ以上のものです。そこで若い技術者にとって不可欠となるのがデータです。データを駆使することにより技術を補うことが可能になります。このデータを頻繁に、そして効率的に採取するためにもセンサーを開発することが不可欠となるのです。
カナダにおけるCSR・日系コミュニティへの貢献
ーNTNは環境問題、社会的課題への取り組みなどCSRにも積極的な姿勢と伺っています。カナダでの活動や実績について教えてください。
企業が持続的な成長を維持しながら環境問題や社会的課題にどう取り組むかということは事業を展開するにあたり常に考えていることです。NTNが誇る点は何かと問われたら私は「人」だと答えます。NTNは「人」のおかげで産業のトップを走る企業に成長しました。NTNの従業員は長年NTNで勤務している方が多く、離職率もとても低いです。会社に対する誇り、そしてチーム精神もとても高いと感じています。製造や製品の方面からはもちろんですが、私たちは「コミュニティ」における社会的責任や社会的価値という観点からも産業を牽引していく存在になりたいと考えています。
「コミュニティ」というのも社内のコミュニティとカナダのコミュニティの両方を意味しています。「なめらかな社会」を実現するのが私たちの目指すところです。これを元にどのように両方のコミュニティに貢献できるかを常に考えています。
その活動の一環として、私たちは昨年より「The Good Shepherd」という団体が運営するホームレスの方のための施設にて慈善活動を行っています。企業はこのような施設に寄付をするのが一般的ですが、私たちはそれ以上に現地で人々と触れ合うことが大切だと考えました。昨年の8月にはおよそ180名の従業員が現地に向かい、施設で暮らしている方々のベッドを整えたり洗濯物を畳んだりするなどお手伝いをしました。
さらに私たちはこのような活動に「NTN Spirit」という企業理念行動指針を作りました。企業理念は言葉として発したり聞いたりすることはとても簡単ですが、それを行動に移すことはとても難しいことです。ましてや日本語から英語に翻訳される際に本来の意味が失われてしまい、理解にズレが生じるという恐れもあります。しかし日本本社の大久保社長は創業100周年を機にこのプログラムを作り、社員にとってもわかりやすいものとなりました。
この「NTN Spirit」は私たちが大切にしている持続可能な未来への責任の象徴であり、それに向かって行動するためのガイドラインのようなものでもあります。これにより、社員の日々の活動にも意味を与えることが出来たらと考えています。
私たちはNTNの企業理念である「新しい技術の創造と新商品の開発を通じて国際社会に貢献する」という考えのもと、製品の研究開発、お客様や仕事仲間との関係作り、そしてコミュニティのための活動を行なっています。私たちのビジネスを通して環境や社会に貢献することも「NTN Spirit」の重要な一部です。これを実現するために時間、労力、そして情熱を注ぐ従業員達を企業として支え続けていきたいですね。
日系文化会館との協力体制・トロント日本映画祭の公式スポンサーに就任
ー日系コミュニティにおいても大きな貢献をされていますが、その思いはどのようなものでしょうか?
最近では主に日系文化会館(JCCC)との協力を深めています。日系文化会館と共に活動を始めた理由は、カナダのコミュニティ全体と触れ合う機会が多い中で、私たちが特に誇りを感じている日本文化をさらに広めていくためです。「NTNカナダ」で働く従業員は皆、我々が日本とカナダをつなぐ企業の一員であることを誇らしく思っていると考えています。これはとてもユニークなことだと思います。なかなか他の企業ではこのような誇りは見られないのではないでしょうか。だからこそ、もっと日本文化を深く知りたいという思いから日系文化会館との関わりを深めています。現在ではトロント日本映画祭の公式スポンサーも務めています。他にもカナダにおける日本企業の投資や経済的発展に貢献すべく、これからも総領事館を始め様々な関係機関の方々と力を合わせていきたいと考えています。
ーカナダにおいてこれまで時代と社会の様々な変化を目の当たりにしてきた「NTNカナダ」ですが、これからの展望を教えてください。
製品開発の視点から見ると、私たちは常にお客様のニーズに応えるべく製品を開発・改良しています。そのためにもお客様の声は不可欠であり、私たちも常に耳を傾けています。二年ごとに開催するフォーラムを通してお客様からフィードバックをいただき、それを元に製品の質を向上させています。そのためにもお客様との関係は私たちにとってかけがえのないものですね。
そして従業員のニーズにも常に応えているつもりです。特に人事の部分では十分な投資をして、NTNの従業員がNTNにいることで成し遂げたいこと、なりたい姿になれているということ、そしてその過程で尽力しています。こういった持続的な発展を推進する文化を「カイゼン・アプローチ」と名付け、人材育成に取り組んでいます。
また、これから更なる成長のためにも、いかに若くて有能な人材を引きつけるかということが企業トップとして難しい課題です。引きつけるだけでは不十分で、引きつけた人材を保つということも必要です。これは多くの製造業界が直面している課題なのではないのでしょうか。この課題に立ち向かうためにも、先ほど申し上げました「NTN Spirit」が大きな役目を果たしてくれると信じています。社内だけでなく、社外のコミュニティにもNTNの理念を広めていくことは重要です。有能な若手人材を獲得していくことは大変難しいことですが、私たちは「NTN Spirit」をもとに、社員が地域の教育機関を訪れ、コミュニティと触れ合う機会を今後増やしていく計画も立てています。学校訪問という人と人の触れ合いとともにソーシャルメディアなども活用し、アナログ・デジタルの両面から若い人たちにNTNの魅力を伝えていく試みから取り組んでいこうと考えています。