人々はなぜ不動産がそこまで好きなのか?
カナダの住宅価格は庶民の手が届かないところまで上がっている。それでも人々は物件探しの手を休めることはなく、次々と新しい建物が生まれていく。人はなぜ、そこまで不動産が好きなのか、考察してみたい。

カナダ生活24年目にしてつくづく思うのはこの国の不動産市場はまれにみる右肩上がりだということである。特にバンクーバーの住宅市場は大雑把にいえば1986年の万博からずっと開花したままである。
このマーケットはそれぞれの時代の主役たちが支えてきた。初めは李嘉誠のバンクーバー投資に触発され、多くの香港デベロッパーが我先にと土地を取得し、97年問題を抱える香港人のハートをくすぐった。その次に来たブームはアメリカ人のカナダ不動産への投資である。当時カナダドルは対米ドルで4割ぐらい安くウィスラーの豪華な戸建てが飛ぶように売れた。
そのうち、エンプティネスターと称する子供が巣立った夫婦がライフスタイルの変化を求めてコンドミニアムに住み始めた。実は不動産を学問的に見ればこの新たなる市場開拓が今のカナダの不動産市場のベースを作り上げたといってもよく、アメリカのコンドブームよりも5〜10年近く先行していたのである。
その後、いわゆるコンドミニアムの投機ブームも起きた。これは建築着工前のプリセールで物件を取得し建築完成引き渡し前にその購入権を売却するものである。あの頃、投資のリターンからするとこれほどぼろ儲けできる仕組みはなかった。
私が携わった開発事業の場合、例えば頭金が15%必要な50万ドルの物件の権利を完成直前に60万ドルで売ったケースだと7.5万ドルの頭金(投資)が17.5万ドルと2.3倍にもなったのである。ちなみに私の事務手数料はわずか3000ドルだったが。
では不動産がなぜ、投資対象としてそれほど多くの人にとってアトラクティブなのだろうか?それは案外、値動きが見えにくい高額商品であり、買う対象は世の中でたった1つしか存在しないからではないだろうか?
コンドミニアム1つにしてもユニットの向き、それぞれの階高からの眺め、レイアウト等、同じものは1つもない。中古市場に於いては部屋のリノベをしていることも多く、売り手と買い手はまさに相対で取引をしなくてはいけない。
私は普段、株式市場とも向き合っているが、株式銘柄の売り買いをする人はゴマンといるがその取引する会社の顔、形は誰が売っても買っても同じものである。違いは売買単価と取引株数だけである。これは言い換えれば多くの人が1つの顔を争い、思惑が入り乱れ、投機的でギャンブルのような動きを呈してくる。それゆえに1日で10%も株価が動くことがごく普通に起きている。
それに比べ不動産市場の値動きはそうならず、需給関係のファンダメンタルズの上に売り手と買い手の嗜好が加わる相思相愛の関係であることが大きな違いである。
よって不動産価格が急落しても売り急ぐ人はローンが払えなくなる人に限定され、普通の人は価格がいくら上がり下がりしようが持ち続けるはずだ。なぜなら住むところが必ず1つは必要だからである。これが不動産価格の下支えである。
日本人が海外の不動産マーケットを理解するうえで最も大きな違いは日本が農耕民族で大陸人は狩猟民族である点から類推できる。農耕の日本人は引っ越さないが大陸の人は獲物を求めて移動する。ライフスタイルに合わせて引っ越しを繰り返すことをヤドカリ族と私は呼んでいるが、これは大陸人のフットワークの良さとも解釈できる。これだけでも不動産市場が活性化し中古市場は大いに潤うのである。
不動産市場のもう1つの特性は人が住むところだということである。株式ならどれだけの銘柄をどれだけ持っていてもネット口座に記録されるだけでコンピューター画面をみれば何十銘柄だろうが瞬時に把握できる。しかし、家は物理的に存在し、管理をし、固定資産税を払い、愛着を持ち続けなくてはいけない。だから別荘として住むところを2〜3軒持つ人はいても業とする場合は別にして10軒持つ人はまずいないだろう。
つまり住宅ほどすべての人々の生活や経済や環境に平等に接するものはなく、その社会密着性はそう簡単に変わらないのである。株式市場では四半期決算ごとに泣き笑いがあり、経営者は短期決戦の経営を目指すが、住宅所有者はどんなに短くても4〜5年は所有し長期的な関係を維持しなくてはいけない実にエネルギーを要する代物なのである。
こう考えてくると不動産は第2の家族のようなものかもしれない。リアル家族が集い、泣き笑いがあるそのドラマは家のリビングやキッチンやベッドルームで日々繰り広げられる。アメリカの多くのバラエティ番組はリビングルームがそのメインセットであるのは不動産が投資やマネーだけでは割り切れない愛着を伴っているといえそうだ。
但し、今回の話の顛末として所有物件に限った話ではない点を最後に付け加えておく。賃貸で何十年と住み続けている人たちにとってもその住居は愛情を伴った第2の家族であることに違いはない。アメリカでは若い人の住宅所有欲が無くなってきているというレポートもある。賃貸なら住宅の浮気をするにはうってつけである。値上がりを期待しすぎてあまりがめつくなりすぎると思わぬしっぺ返しが待っているかもしれない。
了
岡本裕明(おかもとひろあき)
1961年東京生まれ。青山学院大学卒業後、青木建設に入社。開発本部、秘書室などを経て1992年同社のバンクーバー大規模住宅開発事業に従事。その後、現地法人社長を経て同社のバンクーバーの不動産事業を買収、開発事業を完成させた。現在同地にてマリーナ事業、商業不動産事業、駐車場運営事業などの他、日本法人を通じて東京で住宅事業を展開するなど多角的な経営を行っている。「外から見る日本、見られる日本人」の人気ブロガーとしても広く知れ渡っている。










