日本をカナダに紹介しよう! | バンクーバー在住の人気ブロガー岡本裕明
遅ればせながらバンクーバーにもMUJIとユニクロがオープンし、大盛況のようだ。トロントやバンクーバーのラーメン店は今や日本の代表的食文化として紹介されている。そんな日本には2017年、2900万人近い人が訪れた。日本ブーム再来なのだろうか?そして我々にビジネスチャンスはあるのだろうか?
バンクーバーのダウンタウンに隈研吾氏が設計する超高級コンドミニアムが建設される。デベロッパーはKengo Kumaの名前をマーケティングそのものにし、当たったようだ。物件の完成はあと4年ぐらい先だと思うが、噂ではほとんど予約済みだという。
バンクーバーでは広告に隈研吾氏の名前が躍り、MUJI、ユニクロのオープンも重なれば当然JAPAN再発見という機運は出てくるのだろう。
MUJIとユニクロには共通するコンセプトがある。それはNo Frillである。MUJIはもともと西武の堤清二氏が生み出したコンセプトであるが後年、堤氏は経営幹部を叱り飛ばしたことがあるそうだ。「MUJIがブランドになっている」と。堤氏の発想はよりよいものをより安く、であり、日本的シンプルライフの勧めの走りだったかもしれない。
ユニクロは「高品質でベーシック」がブランドコンセプトにある。その安い価格には高級素材を使いながらも大量に作ることで安く提供できる。ファッションを外見のデザインという見方ではなく、インナーとして「他人と同じものでも見えないから大丈夫」という安心感で売ったのが同社のそもそもの原動力だろう。
MUJIやユニクロが高い話題性を持つのはカナダを含む海外で「メイドインジャパン」とか「フロムジャパン」の神話が残っているからだ。
アメリカでは緑茶のカフェが流行の兆しがあるそうだが、抹茶を使ったラテなどのドリンクやデザートは今や、当たり前のおしゃれ感覚としての地位を確立している。
こちらの人を小粋な日本食レストランに接待するとき、驚かれるのはそのプレゼンテーションである。器の美しさ、そこに盛られる刺身から小鉢一つに至るまでアートと食文化の世界が折り重なり、食するものを圧倒することだろう。
日本の文化は決して一つだけの深堀ではなく、複数の文化、伝統的要素を取り込んで熟練の域を通じて作り上げたものが多い。それは食べ物から衣服、生活用品、住宅まであらゆるものにそれを見出すことができる。
日本人は無から有を生み出すのは不得手とされる。だが、有を改良、改善し、全く違うものを作り出す能力については世界の中でも類をみない才能を持つ。
日本国政府は日本酒の輸出に力を注いできた。確かに10年前に比べて日本酒の種類は増えた。ワンカップ日本酒ですら酒屋で売られている時世である。但しあれに7ドルを出す勇気はないが。
ただ、日本酒が爆発的に売れているかといえばそんなことはないだろう。なぜなら日本酒が酒税の関係で大変高いこと、それ以上に飲み方をほとんど教育していないからだろう。いまだに白人と和食店に行けば日本酒=熱燗と思いこんでいる人もいる。熱い酒は珍しいからだろうか?獺祭を熱燗で、と言われれば「おい、ちょっと待った!」と思わず一言二言、述べずにはいられない。
日本が海外に商品や製品、文化や食を紹介するとき、そのステートメントは圧倒的に足りない。MUJIはなぜMUJIなのか、ユニクロはH&Mとどう違うのか、なぜクリアに説明しないのだろうか?
政府共催の日本酒紹介イベントではそれぞれの出展者が日本酒を注ぐだけだ。私は違うと思う。日本酒カクテルの作り方をプレゼンするとか、おいしい日本酒の飲み方といったコーチングはなぜないのだろうか。
白人社会は学のある人が論理性をもって理解し、これは、と思うものがあるとそれを口コミ(ワードオブマウス)で広め、大衆の世界にも浸透させるという王道的なマーケティングがある。このルートに乗せることがジャパンを広く強く売り込む大事なステップなのである。
私が支援している事業を通じて高齢者向けに脳トレをカナダに取り入れる準備を進めている。世界で唯一、科学的に効果が証明されているこの脳トレプログラムが初めて海を渡ることになる。だが、予告紹介した時、初めの反応は「脳トレっていろいろあるよね」だった。これはこのソフトが仮に世界唯一でも勝手に売れるものではないということを意味している。私は日本的ホームケアサービスと脳トレの組み合わせという他人が真似できない仕組みで展開可能と考えている。
日本には面白いものが山のようにある。それ持ってくれば売れそうに思っている方もいるだろう。だが、世の中はそれほど甘くない。必ず、物まねが出来ない高次元な組み合わせの世界を提示することで圧倒的な世界が展開できる。
日本旅行に行った外国人が温泉旅館に宿泊して感動するのは何故だろうか?テーブルの上に所狭しと並ぶ料理も、圧倒するような景色の見える大浴場も、仲居さんのマンツーマンのサービスも、畳と布団の寝心地も全部その重要なエッセンスである。こんな組み合わせサービスを持つ宿泊施設は世界広しとも日本だけだろう。
往々にして日本人はその組成する要素の一部だけを海外に紹介しようとする。例えば日本的温泉旅館を海外に作りたい、と思った時、温泉があれば何でもいいというわけではないことは日本人が一番わかっているはずだ。ならばそれを海外に押し付けるのもタブーだろう。
日本を紹介することは簡単だ。日本に行ってもらうのが一番よい。だが、それをいざ、海外に持ってくるとなるとそれは圧倒的イマジネーションと工夫、そしてマーケティングステートメントがどれだけきっちり伝えられるか、これにかかっていると言えそうだ。
了
岡本裕明(おかもとひろあき)
1961年東京生まれ。青山学院大学卒業後、青木建設に入社。開発本部、秘書室などを経て1992年同社のバンクーバー大規模住宅開発事業に従事。その後、現地法人社長を経て同社のバンクーバーの不動産事業を買収、開発事業を完成させた。現在同地にてマリーナ事業、商業不動産事業、駐車場運営事業などの他、日本法人を通じて東京で住宅事業を展開するなど多角的な経営を行っている。「外から見る日本、見られる日本人」の人気ブロガーとしても広く知れ渡っている。