雇う側から見た就職へのヒント|バンクーバー在住の人気ブロガー岡本裕明
日本では新卒採用のあり方について様々な議論が展開されている。いわゆる一斉採用の是非だ。また、中途採用においてもジョブ型となり、業務内容を双方合意したうえで雇用関係締結に動く企業も増えた。これから就職をする方、転職を考えている方に日本、カナダ問わず、就職へのアプローチについて雇う側からみた今後の展望を見てみよう。
私の新入社員時代
日本の新卒の一斉採用は非常にユニークな仕組みだ。学生の就職活動は会社名を頼りに様々な企業訪問をし、いくつもの面接を乗り越えてようやくつかみ取る栄光だ。だが、実際に内定をもらい、就職してもその会社で何の仕事をするのか全く分からない仕組みだ。
私もゼネコンに入社後、オリエンテーションが始まる際、百数十人の新入社員を前に人事課長が一人ずつ赴任希望先とその理由を全員の前で述べさせた。1週間後、オリエンテーションの終わりに再び全員を前に人事課長が一人ひとりの赴任先を発表した。希望通りの配属になるのかドキドキものであったが結論からすれば爆笑ものだった。北海道といった者は九州に、関西出身の人間は関東にといった具合に希望のほぼ真逆となった。
私は土木工事の現場に住み込み勤務となった。土木系の新入社員と同じ現場となったのだが、問題は彼と6畳一間をシェアしなくてはいけない点だった。大学を出て従業員3千人の上場会社に入ったのに田舎の現場で住み込み、6畳一間で2人暮らし、共同便所に共同風呂に住むのには痺れた。こんなはずではないと思ったものだ。ただ、それでも一生懸命仕事をしたおかげか1年後に私の社会人人生の決め手となる人事があった。社運がかかる自社開発のゴルフ場現場勤務に推挙されたのだ。この時は所長以下7名編成だったが人事について社長の特別承認が必要ということで若造で実績もない私のために支店長が社長に推挙説明に行ってくれたのを覚えている。
そのあとはバルブ真っ只中の不動産開発本部、海外出張年間200日の秘書室勤務を経てバンクーバーの不動産開発事業担当と運命は変わる。さらにはアメリカ、ワシントン州のゴルフ場運営、シアトルの日本食レストラン経営、バンクーバーの自社ホテルでは日系向け営業も兼任とマルチタスクというか、体よくこき使われた。トロント、オンタリオ湖に面する某有名ホテルは私が管理を任された会社がほぼ100%所有していた時代もあり、わかりもしないホテル事業にまで首を突っ込まざるを得なかったこともある。
メンバーシップ制度からジョブ型へ
日本の従来の採用方法は「メンバーシップ制度」と言われている。何かの専門性をもってその会社に貢献するというより、〇〇株式会社のメンバーになり、その会社のために努力をするという発想だ。一方、「ジョブ型」というのが北米で一般的なジョブディスクリプションに基づく採用で自分の業務内容がはっきりわかっている。今、日本の再就職戦線はこのジョブ型に移り始めている。そしてもう一つは新卒の一斉採用から通年採用への移行である。
これは何を意味するかと言えば就職する際には「あなたは何ができますか?」「何を経験してきましたか」「あなたのどんな才能がこの会社に役立つと思いますか?」ということに他ならない。これを論理的にプレゼンし、採用担当者がうなずけるような説得ができるだろうか?
大学生時代にクラブ活動、バイトで遊び惚けていた人には厳しいだろう。事実、カナダの大学に通う人たちをみたらどうだろう。試験が始まる頃になると必死にもがく。アルバイトをやる余裕がある人はどれぐらいいるだろう?そしてその程度の問題もある。多くの学生ビザでアルバイト時間が週20時間に限定されているのは稼ぐために学校に行くのではない、勉強するためなのだということを強制するためだ。
ただ、私は日本型のメンバーシップ制度が必ずしも悪いとは思っていない。何故ならジョブ型は時として専門領域の深掘りをし過ぎてビジネス全体とのバランスが取れなくなることもあるからだ。また最近の新規事業は往々にして複数の業種にまたがるものも多い。例えば自動車はエレクトロニクス化とハイテク化が進む。教育や金融はITとの相性が良く、eラーニングやフィンテックといった分野の成長が著しい。これらを吸収するには組織の中を渡り歩きながら様々な専門的知識や能力の武装をしたうえで事業の勘を養うものだ。
会社はいつまでもあなたの面倒を見てくれない
私は今、AIに興味を持っている。それは私どもが当地で高齢者向け介護施設の開発運営の準備を進めている中でAIとの親和性に興味があるからだ。認知症の人が完全に忘れる前にクローン脳をつくり、本人の認知症が進化してもクローンが記憶をつかさどり、さらに本人に代わって判断するという利用方法がいつかはできるのではないかと考えている。
就職は企業名で決める傾向が強い。誰でも知っているコマーシャルに出てくるような会社から内定をもらうと周りから「おまえ、すげーな!」と言われてうれしくなるものだ。しかし、それに浮かれているのは大学を卒業するまでのわずかな期間で、会社に入ると何も自慢することはない。それより自分がその会社で何をしたいのか、明白なビジョンを持たないと時の流れゆくままにいつの間にか人生の半ばに差し掛かっているものだ。もう会社はあなたの面倒はいつまでも見てくれない。そして50代になれば急激に給与は下がる。その時、焦っても時遅しだ。今が人生の岐路にあると思ってよい。頑張ってほしい。
了