アメリカ大統領選が生み出す社会|バンクーバー在住の人気ブロガー岡本裕明

 4年に一度のアメリカ大統領選が今年11月に行われる。今回の見どころはトランプ大統領の再選はあるのか、という表面的興味とともに選挙戦を通じてアメリカの分断化した社会、ひいては社会の潮流の行方にある。今回の大統領選の興味深い点を探ってみよう。

 アメリカは二大政党制度が浸透している。共和党と民主党である。共和党はより保守的な中道右派、民主党はより民主的な中道左派で歴史的に政権交代がよく起きている。現在の大統領、トランプ氏は共和党で保守的であり、強いアメリカを標榜している。

 前大統領のオバマ氏は初の黒人大統領で世界の和平を前面に掲げ、G20といった世界が会話する仕組みを進化させた。一方で、対中国など外交に甘さがあり、世界のわがままを許し、各地でその後の問題の火種を作ったとされる。

 トランプ大統領はその真逆の政策で世界を締め上げ、「アメとムチ」的な外交で中国やイランと対峙し、対北朝鮮には金正恩委員長と会話ルートを作りながら厳しい姿勢の外交を行うことで北朝鮮を自由にさせない政策を執っている。

 だが、トランプ大統領自身の強権的政策がアメリカ人にも必ずしも圧倒的支持を受けているわけではない。なぜなら強いアメリカは強者の理論、ひいては国内では富裕者や白人に有利で、マイノリティには不利という連想をさせるからだ。トランプ大統領はそれを見越して、白人の一般労働者層、農家、キリスト教福音派などグループごとの取り込みに精を出しているが「好き嫌い」が簡単に覆るわけではない。

 事実、トランプ大統領の支持派、不支持派は拮抗しており、現時点では不支持派がやや有利な状況にある。ただし、不支持が民主党支持かといえばそうでもないところに今回の分断した社会を見ることができる。

 さて、対立する民主党では大統領候補者を絞り込む党大会が各州で行われつつあるが、有力候補者が猫の目のように変わっている。当初はバイデン氏、次いでウォーレン氏、次にブティジェッジ氏になり、現在はサンダース氏がリードしていると報じられている。更に圧倒的資金力をもつブルームバーグ氏が猛追しており、このコラムが発刊される頃は全く違う状況になっているかもしれない。

 民主党候補者に絶対的候補者がいないことが今回の同党の迷走ぶりの背景である。一時期、20名以上の候補者が乱立し、ほとんど絞り込めなかったその本質とは民主をどの立場から眺めるか、ということだったとみている。つまり、女性なのか、マイノリティなのか、格差なのか、新社会主義的なのか、はたまたもっと中庸な社会なのか、民主党支持者の中で自分がどこに所属し、どの部分に自己利益を感じるか、バラバラなのである。

 こう見ればトランプ大統領が有利に見える。なぜなら少なくとも過去3年強、経済は安定的に成長し、株式市場は史上最高値となり、中国を締め上げ、イランに厳しい態度を取り、貿易の不均衡については世界中に爆弾を落とし続けてきた。一般的な国民は減税措置などで「ボーナス」をもらい、海外に滞留していた企業の資金をアメリカに還流させた点においては剛腕だったといわざるを得ない。

 だが、すべての人がそれを良しとするわけではない。それ故に「反トランプ派」は様々な角度から「トランプ大統領でなければ誰でもよい」的な姿勢に傾注し、現行の政策に最も対立的であるウォーレン氏やサンダース氏といった社会主義的でGAFA破壊派に若者が歓喜の声を上げるのである。

 つまり、そこには政治と対峙し、アメリカのあるべき姿、将来のビジョンといったものが欠落している。大統領選挙という一大イベントをあたかもスーパーボールのノリでエンタテイメント化しているところに外から見ると冷ややかな感じに映るのだろう。

 この4、5年、極端な政策やボイスが世の中を席巻している。フィリピンのドゥテルテ大統領、金正恩委員長、習近平国家主席、ベネズエラのマドゥロ大統領、イランのハメネイ師…と枚挙にいとまがない。欧州では反移民政策、英国はEU離脱、環境問題ではグレタ・トゥーンベリさんといったように強いボイスと今までになかったはっきりした姿勢が支持を受けるようになっている。

 これは社会が妥協しなくなってきているといえないだろうか?その背景は情報化による知る権利の強化、そして偏った情報を信じ込まされる情報弱者の一般大衆が利用されていることにある。

 ところで私は下馬評でいうほどトランプ大統領の再選有利とは考えていない。トランプ氏の強権は実はブッシュ元大統領時代に起きた911直後の支持率90%が頭にあるとみている。ただ、それはアメリカが窮地に陥った際に強いアメリカをぶち上げたことで国民の圧倒的支持を受けた背景がある。ところが現在のアメリカは景気がよく、社会的不満はあるものの幸福の中の不満である点にアメリカ社会が一体化せず、主義主張がバラバラになってしまったようにみて取っている。

 つまり、トランプ大統領にしてみれば良過ぎる景気は自分の支持率を締め上げるという逆効果が生じることになるはずなのだが、この点は多分どんな専門家も指摘していない。私は分断の根源は社会が豊かであることで更なる満足度の追求がもたらした贅沢な悩みであると考えている。

 これは先進国ではどこの国でも陥るはずであり、日本も失われた20年、30年と言われるがそれは失われたのではなく、豊か過ぎて社会が分断化しつつあるのだという視点は一度、検証してみる価値はあるだろう。

岡本裕明(おかもとひろあき)

1961年東京生まれ。青山学院大学卒業後、青木建設に入社。開発本部、秘書室などを経て1992年同社のバンクーバー大規模住宅開発事業に従事。その後、現地法人社長を経て同社のバンクーバーの不動産事業を買収、開発事業を完成させた。現在同地にてマリーナ事業、商業不動産事業、駐車場運営事業などの他、日本法人を通じて東京で住宅事業を展開するなど多角的な経営を行っている。「外から見る日本、見られる日本人」の人気ブロガーとしても広く知れ渡っている。