インフレ下のプライシング戦略と、経営判断のよりどころ|カナダのしがないラーメン屋のアタマの中 第62回
カナダのインフレがとまりません。6月、7月と二度の政策金利の引き上げをおこなってなお、7月のCPI(消費者物価指数)は、2%の目標に対して3.3%増という結果にいたりました。10月には、オンタリオ州の最低賃金の15・50ドルから16・55ドルへの引き上げも控えており、多くのレストランがさらなる値上げを検討していることでしょう。
しかし、原材料費や人件費が高騰しているからといって、必ずしも値上げに踏み切らないのもまた戦略です。
EVメーカー・テスラにみる値下げ戦略

2023年の4月から6月、EVメーカー・テスラの第二四半期決算は、販売台数が前年同期比1.8倍、売り上げは1.4倍と過去最高を更新しました。その理由の一つとして、値下げを実施したことで販売台数が伸びたという見方があります。
もちろん、大幅な税控除や、原材料価格が下がったことで値下げを敢行できたなど、複合的な要因の結果ではありますが、実際、テスラは今年に入って6回の値下げを実施しています。車の需要にたいして供給が追い付かず、中古車の高騰や新車不足が叫ばれるなか、相当な勇気と決意が感じられる逆張りの決断です。
というのも、値下げをするということは、当然、利益を圧迫します。事実、利益「率」は下がっていますが、そこは数を売ることでカバーして、利益「額」で見ると、最終利益は1.2倍増、つまり「増収増益」という結果でした。
テスラの場合、充電規格の覇権争いや、自動運転のデータ収集、その後のプラットフォーマーとしての収益を見据えた長期的な戦略ではあると思いますが、短期で見ても必ずしも値上げだけが正解でないということを裏付けています。
単に逆張りをすればよいというわけではないのもまた然り
作業服専門店のワークマンが、商品を変えずに陳列方法やレイアウトを変え、ワークマンプラスというアウトドアショップに変貌して、急成長をとげたのは記憶に新しいところです。
2019年10月、消費税率が8%から10%に引き上げられた際、ワークマンは価格据え置きを宣言し、実質的な値下げに舵をきりました。結果は「増収増益」、売り上げは2020年3月まで17カ月連続で前年比2桁成長を継続し、コロナによってアパレル企業が総崩れとなった中、ワークマンは順調に収益をつみ上げました。
しかし昨年、円安・原料高・輸送費の高騰により、各社が値上げを断行する中、ワークマンはまたも主力製品の価格据え置き宣言を発表します。結果は、今年の3月期の決算では売り上げは増加したものの、やはり原価の高騰による利益の圧迫は避けられず「増収減益」となりました。
つけ加えておきたいのは、必ずしも価格据え置きが結果的に誤りだったと言いたいわけではありません。それは、もし値上げをしていたらという検証が出来ないことに加え、単なるプライシング戦略というだけでなく、「機能と価格に、新基準」というワークマンの存在意義を体現することが、同社にとって売り上げや利益を創出するのと同等に大切なことであるということです。
テスラにしてもワークマンにしても、目の前の選択において、短期的にどちらが儲かるかという単純な話ではなく、長期的な視野に立った上で経営理念やヴィジョンのあらわれとして経営判断を下しているのは明白です。
飲食店においても、不断の努力なしでは永続的なビジネスの存続はありえないという前提に立ち、利益が出ないから値上げをするという短絡的な思考に陥らず、日頃からコストダウンを模索し、常に収益構造の改善をはかるなどして、時代の荒波を乗りこなしたいと思う次第です。






