【特別インタビュー:後編】虐待テーマのドキュメンタリー映画 『REALVOICE』山本昌子さん・ブローハン聡さん・西坂來人さん
仲間はいる
虐待はみんなの問題
虐待経験者がリアルな思いを伝えたドキュメンタリー映画『REAL VOICE』。9月末にトロントで上映会が開かれ、監督の山本昌子さん(まこ)、出演者の1人のブローハン聡さん(BRO)、撮影と編集に携わった西坂來人さん(ライト)が来場者と熱い意見を交わした。
今回、トロントにある社会的養護団体の視察もした3人。インタビュー前編では映画について詳しく語ってもらったが、後編では世界共通課題でもある虐待についてどう向き合うべきか、そして3人の〝リアルボイス〟についてお話を聞いた。
世界と一緒に課題に向き合う

―初めての海外上映会はいかがでしたか?
ライト: 日本人の観客を想定して映画を作っていたので、正直カナダの人にちゃんと伝わるか不安でした。映画を見終わった後にみなさんから良い感想をたくさんいただいて、こんなに共感してもらえるんだとびっくりしましたし、嬉しかったです。
まこ: 今回、カナダの虐待経験者らユース主導の非営利団体「プロジェクト・アウトサイダーズ」のメンバーが映画を見にきてくれたのがすごく嬉しくて、遠く離れた日本にも仲間はいることが伝わればいいなと思いました。また、今回オンラインでオーストラリアの方が映画を見てくれて、ぜひオーストラリアでも映画を上映したいと言ってくれたのには驚きました。海外でも受け入れてもらえる映画になっているとわかって、大きな希望が見えたと思っています。
―「プロジェクト・アウトサイダーズ」とは情報交換などを目的に協力関係を結んだということですが、今後はいろんな団体との連携も考えていますか?
BRO: 3人で「THREE FLAGS-希望の狼煙-」というYouTubeチャンネルを通した発信活動をしていますが、当初から当事者同士の横の繋がりをつくったり世界の福祉の比較をしたりすることを目標にしていました。世界中でどんどん当事者たちが声を挙げて発信していけば、大きなエネルギーになると思います。国を超えて手を繋いでいく姿には希望がありますし、継続的な連携を続けていきたいです。
希望を感じたトロント視察

―今回トロントで社会的養護団体を視察して、印象に残ったことはありますか?
まこ: 先住民専用の児童相談所や若年層妊娠ケアのための機関など見学させてもらい、特に「BOOST CYAC」という児童虐待被害者支援機関では衝撃を受けましたね。例えば日本では、性的虐待などつらい経験を児相、警察など行く先々で何度も話さないといけないという二次被害が問題になっています。しかしBOOSTでは、警察からの事情聴取とインテークワーカーからの聞き取りを一度に同じ場所で行えるようにしていました。しかもこの大きな仕組みが民間主導でされているということに、希望も感じました。
ライト: カナダでは社会的養護にいる子どもが不満や不公平を感じた時には、子ども専門のオンブズマン(第三者機関)が受け付けて調査し、法律に基づいて子供の権利が確保されているかをきちんと指導する仕組みができているそうです。うらやましいなと思いました。日本では子どもたちが苦情を言うという発想がまずないし、子どもたちは自分にどんな権利があるのか知らないと思います。カナダではまず権利について教えているそうで、日本にもこういった仕組みが早急に必要だと感じています。
―カナダを参考にできる点があるということですね。
まこ: 子どもたちが出したSOSをしっかり受け止められるBOOSTの仕組みを目の当たりにし、日本でも実現したいと思いました。そのために、自分のできる限りを尽くしたいです。
“耳を傾ける”ということ

―映画の中で「耳を傾けてほしい」というメッセージがあります。「耳を傾ける」とはどういうことだと考えていますか?
BRO: その人がちゃんと話を聞いてくれているのか、話している側からはよくわかるんです。大人と子どもという垣根を越えて1人の人として対等な関係でいてくれているのか、子どもはきちんと理解します。ただ話を聞くだけではなく、聞く側の姿勢が「耳を傾ける」ために大事だと思っています。
まこ: 現場で思うのは、子どもの話を1~2時間も聞いたと大人は言うけれど、子どもは話を聞いてもらっていないと感じているケースが多々あるということです。話を否定されたり勝手にアドバイスされたりすると、自分の話を「受け止めてもらった」と子どもは思えないんです。
ライト: 大人側が「それは虐待じゃないんじゃない?」と言ってしまうこともあって、そうすると子どもは大人を信じられなくなるし、この人は自分を守ってくれなかったという裏切り体験に繋がってしまいます。心から信頼できて自分を肯定してくれる大人を子どもたちは必要としています。
―自分の話を純粋に聞いてくれるという姿勢が求められているということですね。
まこ: 以前アンケート調査をして興味深かったのが、話を聞いてすぐに行動をしてくれたことが嬉しかった子、話を聞いてもすぐ行動してくれなかったことが嬉しかった子と真逆の意見があったんです。子どもによって何を求めているかは全く違います。大人はつい「こうすべきだ」と言ってしまいがちですが、目の前の子どもが何を求めているのかを聞いて理解することが必要だと思います。たとえ勝手に進めた方法が良い結果に繋がったとしても、子どもからすると「私の意見は無視された」と感じてしまうんです。1人1人の思いがなるべく尊重されるようになればいいなと思います。
私たちの“リアルボイス”

―映画を見た人に期待することはありますか?
ライト: 映画を制作するにあたって、日本の良くない状況を変えようと思う人が増えてほしいという期待がありました。今回カナダで上映してたくさん共感していただいて、同じ思いを持つ人が日本以外にもたくさんいると感じられて力をもらいました。世界共通の問題として、共闘して社会を変えていくムーブメントを作れたら嬉しいです。
BRO: 僕は映画の中で「一歩」という言葉にこだわって思いを伝えました。当事者の子どもたちにとってはその嫌な世界から抜け出すための一歩、大人にとっては子どもたちのためにアクションを起こすという一歩を踏み出してほしいですし、その一歩の力を信じてほしいと思います。
まこ: この映画が虐待経験者にとって、自分は1人じゃないんだと希望や勇気を与えられたら嬉しいです。死にたいと感じている人もたくさんいると思うんです。それくらい虐待は人を苦しめるし、もし乗り越えられたとしたら奇跡のようなものです。おこがましいですが、この映画を見てもうちょっと生きてみようかなと思ってほしいです。自分は1人で闘ってきたわけじゃなかったと感じてもらえたらいいですし、当事者以外の人には虐待をもっと身近な問題として捉えてもらうきっかけにしてほしいです。
―最後に、みなさんの〝リアルボイス〟を聞かせください。
ライト: 児童虐待を遠いところの話だと思っている人が多いと思うんです。でも実は隣に虐待経験者がいるかもしれないし、目撃することもあるかもしれません。身近にあると気づいてほしいし、もし虐待を目にしたらどう対応すべきなのかについても事前に考えてみてほしいです。
BRO: 僕は虐待経験者として、これは傷ついた、これは嫌だったといろんな活動を通して自分でも自分の声をちゃんと聞けているのか考えるようになりました。ちゃんと自分の内側の声に耳を傾けることで、他の人の声も聞くことができるようになると思っています。自分に余裕がないと周りに無関心になりがちですが、まずは自分と向き合うところからスタートして他人事を〝自分ごと〟に変えられたらいいなと思います。
まこ: 今一番伝えたいのは、「みんな生きていていいんだよ」ということです。何が正しい、何が悪いと私たちは判断しがちですが、その判断基準は1人1人で違うし、誰も誰かのことを否定することはできません。だからこそ、「生まれてきてくれてありがとう」とみんなが誰かに伝えられるような温かい世の中であってほしいと願っています。
山本 昌子(ヤマモト マサコ)1993年生まれ、東京都出身。ネグレクトにより生後4か月から19歳まで社会的養護施設で生活した経験を持つ。児童養護施設出身者へ振袖を着る機会を提供するボランティア団体「ACHAプロジェクト」代表。その他、全国の社会的養護出身者や虐待を経験した若者たちとオンラインで繋がったり、自宅を解放した居場所事業「まこHOUSE」をオープンしたり精力的に活動する。
ブローハン 聡(ブローハン サトシ)1992年生まれ、東京都出身。義父からの虐待が原因で11歳から19歳までを児童養護施設で過ごす。現在は(一社)コンパスナビ 事務局長として、児童養護施設等を離れた若者をサポート。無戸籍、無国籍、虐待などの経験から、講演活動やYouTubeでの情報発信にも力を入れる。
西坂 來人(ニシザカ ライト)
1985年生まれ、福島県出身。父による家庭内暴力から逃れるため、小学5年生から一時期を児童養護施設で過ごす。東京を拠点に映画監督、絵本作家として活躍。児童養護施設を退所した若者をテーマにした映画『レイルロードスイッチ』公開中。

















