トロントに春を告げる満開の桜「ハイパークで日加記念イベント」
例年よりも暖かな日が続いたトロントの冬が終わり、いよいよ春がやってきた。暖かな春の陽気の中、例年より早い桜の開花が人々を楽しませた4月21日、トロントのオリビア・チャウ市長がハイパークでメディア向け「桜イベント」を開催した。イベントには在トロント日本国総領事館の松永健総領事が招待され、日本とカナダの友好の歴史がある公園の桜を共に見て回るツアーも行われた。
日本とカナダの友好のシンボル
4月下旬から5月初頭にかけて桜の開花が宣言される例年とは異なり、今年は4月中旬から下旬にかけて桜が満開になり、一足早い春の訪れをトロント市民に伝えた。日本の美の象徴とも言えるべき満開の桜を見ようと、日曜日の朝から大勢の人たちが集まった。
イベントに先立ち、チャウ市長がメディアを前に挨拶。「毎年、桜の花は春の訪れを知らせてくれる。桜は新しい始まりの季節を告げ、毎年何千人ものトロント市民や観光客をハイパーク、そして街中にある桜並木へと連れて行ってくれる」と語った。1959年に日本から2000本の桜の木が贈られたという歴史にも触れ、トロント市民と日本の市民との間で何世代にもわたって続いてきた友好のシンボルであると強調した。また、「トロントは全ての人の居場所であることを思い出させてくれる。桜のピーク時にハイパークを訪れると、美しい景色を眺め、この美しい贈り物に感謝する人々でにぎわう」と、この日も大勢が集まった公園の様子を見ながら話した。
トロントで桜というとハイパークが最も有名な場所ではあるが、市内で桜を鑑賞することができるのはハイパークだけではない。市長はトロント大学のロバーツ図書館、トロント大学スカボロー・キャンパスといった場所を挙げ、街中でも桜を満喫してほしいと市民に呼びかけた。
市長は最後に、「桜を楽しむことができるのはほんの少しの時間だけかもしれないが、桜が満開になるその瞬間は1分1秒でも何時間でも価値がある」とし、「みんなで桜を楽しんでほしい。この瞬間はとても貴重なものであり、これからもずっときっと覚えているような瞬間になるはずだ」と締めくくった。
トロント市民記念撮影に笑顔
挨拶後には、ハイパークのネイチャーセンター代表であるサラ・ストリートさんがチャウ市長と松永総領事のガイドを務めた。グレナディア池に続く桜並木の歴史から生態について、保全をこれまでどう続けてきたのかなどについての説明がなされた。
3人は20分ほど満開の桜を見ながら公園内を散策。チャウ市長と松永総領事は笑顔で話をしながら、時には質問をしてハイパークの桜について興味津々の様子だった。新しく植樹された桜の木を見たり、公園の中にカメが現れるためカメ保全のための活動も積極的に行なっているという話を聞いたり、ストリートさんのガイドに耳を傾けながら桜並木を歩いた。
この日は快晴とまではいかない天気ではあったが、桜はほぼ満開。桜が花を咲かせるのは1週間と言われていることもあり、花が散る前に桜を一目見ようと家族連れやカップル、友人と訪れた人たちの姿が多く見られた。笑顔で桜並木を歩き、美しい桜と記念撮影をしながらこの特別な瞬間を記憶に残そうとしている人であふれかえっていた。中には着物やドレスを着て公園を訪れ、特別な写真撮影に臨む人の姿もあった。
在トロント日本総領事館 松永健総領事
コミュニティーを超えた交流の場に
―松永総領事は今年赴任されたばかりでトロントの桜をご覧になるのは初めてだと思いますが、いかがですか?
素晴らしいですね。1959年に東京都民が2000本の桜を寄贈して、その後も日本の方、そしてトロントの方が新しい桜を一生懸命植樹した歴史があります。桜は植樹をすることも重要なことではありますが、結構傷つきやすいという性質もあって、植樹後のケアがやはり重要だと思っています。桜の寿命は平均60年くらいだと言われていますから、60年以上経った今でも桜が美しいのはやはりハイパークの担当の方を始め、皆さんが桜をこれまでよくケアしてくださっているからです。本当にありがたく思います。
―トロントという日本から遠く離れた地で桜が見られること、そしてトロント市民から日本の桜が愛されていることについてどう感じていますか?
カナダ全体が多様性に満ちていますが、そんないろんなコミュニティーの人たちがこうやって一ヶ所に集まる機会になりますよね。一緒になって桜を愛でることができるのがハイパークの桜の良さだと思っています。
―トロント市民やトロントに住む日本人に桜のどういったところを楽しんでいただきたいですか?
日本の方にとっては日本を思い出す縁になると思います。私自身も、東京・目黒川沿いの桜をよく見に行っていた時のことを思い出しました。桜を見ることを、日本人だけではなく他のコミュニティーの方とも交流し合う素晴らしい機会にしていただければと思います。
ハイパークの桜の歴史
感謝の意を乗せた2000本の桜
チャウ市長の挨拶でも触れられたように、ハイパークの桜は日本と深い関わりがある。
最初の植樹は1959年4月1日にさかのぼる。第二次世界大戦後、ブリティッシュ・コロンビア州で苦しい思いをして移住してきた日系人をトロント市民が受け入れてくれたことへの感謝の意を表し、当時の萩原徹駐カナダ日本大使が東京都民を代表して日本のソメイヨシノの桜の木2000本を贈呈した。園内にはその時の植樹を記念した記念碑もある。植樹された桜の多くがハイパークのトレイル沿いとグレナディア池周辺に植樹され、今の桜並木が生まれた。
ハイパークでの植樹はこれまでにも何度か実施され、2019年には桜寄贈から60周年を記念したセレモニーと天皇陛下ご即位祝賀セレモニーにおいて、当時の伊藤恭子トロント総領事やジョン・トーリー・前トロント市長らが桜の記念植樹を実施した。
それ以外にも、在トロント日本総領事館やトロント市は共同で「さくらプロジェクト」というプロジェクトを実施。これは「10年間でオンタリオ州に桜の苗木を3000本植える」ことを目標にし、2000年から2012年にかけて行われた。合計3082本の苗木が州内の公園や大学などの計58箇所に植樹され、今ではトロントの春の風物詩の1つとなっている。