「一度きりの人生、後悔のないよう何事もチャレンジ」吉田洋史さん|カナダで起業!「スモールビジネス・オーナーの挑戦」
吉田洋史さん カナダ在住11年
ramen RAIJIN店主
Ramen Marketing Corp.
【プロフィール】
2010年、ワーホリでカナダに移住。バンクーバーのラーメン屋で永住権を取得後、2012年、トロントで雇われマネージャーとしてラーメン雷神の立ち上げに参画。その後、株式を一部買い取り、共同経営者として「雷神」の運営に携わる。コロナ禍では冷凍ラーメンを開発しオンラインストアを開設。お客さんへのデリバリーに勤しんでいる。
THE 一問一答
- 起業して何年と何ヶ月
- 雷神の立ち上げから9年8カ月
個人会社の設立から5年10カ月 - 人生のモットー
- 一度きりの人生、後悔のないよう
何事もチャレンジ - 自分はどんな経営者だと思う?
- 大胆かつ繊細な経営者
- カナダで起業してよかったこと
- 日本と比べて高い値段でラーメンが売れる
- 影響を受けた事業・サービス
- 安藤百福(日清食品創業者)
河原成美(一風堂創業者)
平本清(メガネ21創設者) - 注目している事業・サービス
- 代替肉産業、ドローン事業、スマートキッチン
- リタイアは何歳で?何したい?
- 50歳くらいでセミリタイヤして、ゲーム実況とスケボーと音楽に励みたい。90歳くらいまで生涯現役でいたい。
カナダで起業したきっかけ
〝結果が出せず、悔しくて全てを見直すため独学でラーメンを研究〟
起業する前は雇われ店長として「雷神」で働いていました。カナダに来る前は日本で映画業界にいて、そういった方面に進みたかったので、当時はラーメン屋として起業するなんて考えはまったくなかったです。
落ち着いたら、ゆっくり今後の人生や仕事の事を考えようと思っていましたが、トロントで「雷神」の立ち上げ後、1年くらい思うように結果が出せず、それがとにかく悔しくて、ラーメンのレシピを見直すため独学でラーメンの勉強を始めました。ラーメンにのめり込んで行ったのはそこからです。
それから徐々に、店舗オペレーションの改善、人材マネージメント、経営と自分の仕事を掘り下げていきました。新しい事を学んで、それを試して、上手くいかずに改善して、それを繰り返すと、どんどん結果に繋がっていくのが楽しくて、がむしゃらに働きました。大した知識も経験もなかったので、常に手探りではありましたが、確実に一歩ずつ前に進んでいる実感があったので踏ん張る事ができました。
いま振り返って思うのは、お金や会社、社会のシステムといったものを通して、世界を知覚し、認知していくというプロセス自体が刺激的で楽しかったんだと思います。海外で親のサポートもなく、生まれたばかりの娘の子育てを妻に任せっきりになってしまい、本当に苦労を掛けましたが、当時は自分も毎日が必死でした。
チャレンジ
〝コロナ禍では冷凍ラーメンの販売をいち早く手がける〟
雷神の売り上げをあげていく上で、お店のすべての事に手を出し、口を出したと思います。そういった中で、いつの間にか自分でも出来る、チャレンジしたいと思うようになりました。
起業したこと自体、大きなチャレンジだったと思いますし、フランチャイズ展開を手掛けたこと、クレープ屋、お弁当事業、飲食店合同の正月イベントの企画・運営、百人規模の打ち上げや飲み会、独立セミナーの開催、コロナ禍での冷凍ラーメン販売、オンラインストアの開設、自社デリバリー、定期的な社内勉強会の実施など、うまくいっているものも失敗したものもありますが、失敗も含めて全てが良い経験です。
カナダで事業を営む理想と現実
【理想】
・世界のラーメンブームに乗っかり、掴めカナディアンドリーム
・ビジネスオーナーとして悠々自適なスローライフ
【現実】
・ラーメンブームの加熱で競争の激化
・食材、人件費の高騰で毎日奔走
苦労や挫折そこから得た教訓
オーナーとして順風満帆だった「雷神」の経営に参画し、自分の取り分はいくらだろうとそろばんをはじいていました。その直後にビルの取り壊しが決定し、引っ越しを余儀なくされました。引っ越しは、見積もりが30万ドルだったのに対し、フタを開けてみたら60万ドルもかかり借金せざるを得ませんでした。また、管理会社のミスか何かで、3年ほど電気メーターのチェックがされておらず、突然10万ドルの請求をされたり、お金に関する苦労は絶えません。それ以後、「取らぬ狸の皮算用」という言葉を肝に銘じています。
未曾有のパンデミック。サバイバルに大事なこと
〝何をどう売るか、リスク管理、引き際を見極める〟
ご存知の通り、外食産業はパンデミックにより大打撃を受けました。「雷神」は冷凍ラーメンの製造販売、自社デリバリーに切り替え、それが幸いにもお客様に支持していただいていますが、依然として大ピンチの渦中にいると感じています。
しかし、コロナだろうが何だろうが、人間の胃袋の総量は変わりません。つまり、食に対する需要がなくなる事はないのです。事業というものを突き詰めると、「何をどう売るか」、に尽きると思いますので、「どのように美味しいラーメンを提供するか」、という問いを常に持ち続けて、時代や環境に合わせて変化していくこと、そして、リスクヘッジのために多角的にビジネスを展開することが大切だと思います。
また、コロナ同様のパンデミックは頻度を増して今後も起こり得ると言われていますし、それは実際にそうなんだと思います。気候変動による穀物の不作や、食肉の高騰なども、かなりの確率で起こり得るリスクです。そういったリスクに対して、希望的観測でのぞむのではなく、最悪の事態を想定したプランを立てることがリスク管理の鉄則だと思います。
それともう一つ、どうしても打ち手が見つからずにジリ貧になったときに、引き際を見極めること。これが経営者にとってもっとも困難な決断だと思いますが、幸い自分はたくさんの失敗をしてきました。もちろん末永く事業が継続するのが一番ですが、飲食店の寿命は短いですし、会社の寿命も同様です。打ち手がある間はいくらでも足掻きたいと思いますが、いつかは幕を引かなくてはいけないという覚悟を持たないと、より従業員を不幸にしてしまうと思っています。
飲食業の魅力
人が幸せを感じる上で、美味しい食事を味わうということは、かなり重要な要素だと思います。そこに携われることが、飲食業の魅力でしょう。
ビジネスという観点で見ると、最近はビジネスモデルやマネタイズの手法が複雑化しているので、食材を仕入れて付加価値をつけて売る、というシンプルなビジネスモデルも自分にとっては魅力の一つです。ITやデジタル領域にも興味はありますが、今の仕事は確実に世の中に対して価値を提供しているという実感があります。
これからの挑戦
今後も大小さまざまな挑戦を続けていきたいと思っています。最近考えている事は、今は現場を抜けていますが、中長期的にいまの自分の業務を誰かに任せて、小さな規模のラーメン屋をやりたいと思っています。仕込みから盛り付けまで、きちんと自分がすべてを管理して、一杯一杯、丁寧にラーメンを作ってお客さんに味わってもらえるようなお店をやりたいです。
大きいチャレンジでいうと、冷凍ラーメンをカナダ全土に広めたいと思っています。これをきちんと仕組化して、従業員の安定的な雇用を守れるようにならないと小さなラーメン屋は出来ないかなと思うので、順番的にはこちらが先ですね。一度きりの人生ですので、どこまで自分の力が通用するか、世界にインパクトを与えられるか、挑戦を続けていきたいと思います。
拝啓 10年後のキミへ
この10年間、いろんなことに挑戦して、更に経験を積んでいる事でしょう。そんなあなたが、10年前の未熟な自分の言葉に耳を傾けるとは思いませんが、その調子で頑張ってください。