【第17回】親が子の自宅購入資金を援助するときの注意点|カナダの国際結婚・エキスパート弁護士に聞く弁護士の選び方
自宅の購入は、若い夫婦にとって最大の夢でしょう。しかし自分たちだけで購入資金を調達するのはむずかしく、両親に頼ることもあるかもしれません。
そこで今回は、親が子の自宅購入資金を援助するときの注意点をエキスパート弁護士ケン・ネイソンズに聞いてみました。
親ごころと新居資金
我が子の結婚生活を応援するためなら、親はまとまったお金を用立てることもやぶさかではないでしょう。新居の購入資金を援助することは、子から最も感謝される行為に違いありません。
しかしもし、夫婦が別れることになったらどうでしょう。我が子のために用立てたお金で購入した自宅に対する権利が、離婚する相手にも同等にあると知った親は、平常心ではいられないのではないでしょうか。
実際、別居に際して配偶者の一方が、「自宅購入資金は自分の親からの融資だった」と主張することは珍しくありません。この主張が認められれば、婚姻財産の計算に大きな影響を及ぼすことになるからです。
贈与vs.融資
夫婦にとって自宅は常に婚姻財産です。したがって、自宅購入資金が一方の親からの贈与であったとしても、自宅に対する夫婦の権利はそれぞれ二分の一だとみなされます。
一方、親が用立てた自宅購入資金が融資であることが証明できれば、その金額は婚姻財産から差し引かれます。夫婦それぞれの自宅に対する権利の値を割り出す前に、まず債権者である親へ返済されるからです。
困難な親からの融資の証明
しかし、親からの融資を証明するのは簡単ではありません。たとえ子が返済を予定し親もそれを期待していたとしても、親子間のお金のやり取りが融資契約であると証明するには、大変な困難を伴います。
次に、裁判所に提出できる証拠になりうる文書を挙げてみました(これらが必ず認められるというわけではありません)。
- 金銭消費貸借契約公正証書: 日付、金額、利子、返済方法、返済期限などの詳細が明記され、公証人の前で立会人と当事者(債権者及び債務者)が署名した契約書
- 借用書:前述の必要事項が明記された私文書
- 銀行の送金記録など、親が子に送金した日付や金額がわかる書類
- 銀行の振込明細など、子から親への過去の返済記録
- メール、手紙など融資に関する親子間の約束の記録
- 日記、覚書など日付と共に親子間の融資が記録されたもの
マリッジ・コントラクトと親からの資金援助
さて、最近ではカナダ人と結婚する前に、マリッジ・コントラクトの作成を検討する日本人女性が増えています。
マリッジ・コントラクトでは、親から受けた融資のみならず、贈与の行方などに関しても決めておくことができます。また、万一の場合に備え必要な書類を保管する心の準備もできるでしょう。さらに、マリッジ・コントラクトでなら、互いへの思いやりから双方が納得できる内容を約束することが可能になります。
マリッジ・コントラクトの長所をわかりやすく紹介するため、親からの融資を例にケース・スタディを二つ紹介しておきましょう(実際はたいへん複雑でので必ず弁護士のアドバイスを得てください)。
Aさんは、両親が用意した60万ドルで自宅を買った翌年、「自宅購入資金は両親からの融資である」ことに合意した上で、Bさんと結婚しました。二人が離婚を決めたとき、自宅の価格は100万ドルに上昇していました。
①100万ドルから60万ドルを両親に返済し、40万ドルの二分の一がそれぞれの婚姻財産
②Aさんは、結婚後に蓄えた6万ドルを婚姻財産に加算
③Bさんは、個人名義の財産なし
④二人の婚姻資産の合計からAさんは23万ドル、Bさんは23万ドルを取得
Aさんは、両親が用意した60万ドルで自宅を買った翌年、Bさんと結婚しました。二人が離婚を決めたとき、自宅の価格は100万ドルに上昇していましたが、Aさんは60万ドルが両親から借りたお金であることを証明できませんでした。
①100万ドル全額の二分の一がそれぞれの婚姻財産
②Aさんは、結婚後に蓄えた6万ドルを婚姻財産に加算
③Bさんは、個人名義の財産なし
④二人の婚姻資産の合計からAさんは53万ドル、Bさんは53万ドルを取得