NEW! オンタリオ州相続法・改正点のまとめ|カナダで暮らす-エステート・プラニング入門【第30話】
ビデオ会議による遺言書・委任状の立ち会い・署名が正式に可能に
2020年4月7日付で、オンタリオ州政府は緊急命令を発動し、遺言書(Will)、及び、財産管理のための継続委任状(Continuing Power of Attorney for Property)・身体の世話のための委任状(Power of Attorney for Personal Care)の作成には、実際に本人・立会人(Witness)が対面で署名するだけではなく、ビデオ会議を利用した立会い・署名がパンデミック期間中は一時的に可能になりました(詳しくは、本欄第29話を参照)。
そして、2021年5月20日より、遺言書と委任状のビデオ会議を利用した立ち会い・署名が、同書類の有効な作成方式として、正式に加わりました。ただし、次の条件を満たさなければ、ビデオ会議を利用して立会い・署名した遺言書・委任状は有効になりません。
- ビデオ会議を利用した遺言書・委任状の署名・立ち合いには、2名の立会人のうち立会人のうち1名が、オンタリオ州法律家協会(Law Society of Ontario)から資格を授与された弁護士、または、パラリーガルであること。
- 本人と2名の立会人の全員が、同時にお互いに見える・聞こえるビデオ会議機能を利用すること(例:Zoomなど)。
- 本人と立会人が同一の書類を副本(Counterpart)でそれぞれ持ち、署名すること。
ただし、本人・立会人の署名は肉筆に限り、書類は原本のみが有効であり、デジタル署名やデジタルコピーは効力を持ちません。なお、現在も従来通りの対面での遺言書・委任状の立ち会い・署名は、積極的に行われています。
少額遺産用のプロベイト手続きを導入
オンタリオ州には、「プロベイト (Probate)」と呼ばれる、遺産相続のための裁判手続きがあります(詳しくは、本欄第9話参照)。
プロベイト手続きには、大きく分けて、遺言書がある場合と、無い場合の二種類があります。遺言書がある場合は、遺言書の有効性を裁判所が認証・登録し、一方、無遺言の場合は、遺産管財人(Estate Trustee Without a Will)を任命することになります。
これまで、オンタリオ州のプロベイト手続きは、遺産額の大小にかかわらず、同一の手続き規則が適用されてきたため、少額の遺産には、従来のプロベイト手続きは煩雑すぎ、そのための費用と時間の負担が大きすぎることが課題でした。
そこで、2021年4月1日に施行された法改正により、15万ドル以下の遺産を「少額遺産- Small Estate」と位置づけ、少額遺産を対象にした、新しいプロベイト手続きを導入しました。新手続きの下では、書類内容・手続きの基準が簡素化され、プロベイト手続きの迅速化が期待されています。ただし、遺言執行人・遺産管財人の権限が、従来のプロベイト証書のように無限ではなく、「少額遺産証書 – Small Estate Certificate」に記載された遺産のみを扱う権限を授与されるのが難点です。なお、少額遺産であっても、従来通り遺産管理税(Estate Administration Tax – 通称「プロベイト税」)が適用されます。
無遺言による死亡で、配偶者が相続できる額を大幅に引き上げ
オンタリオ州では、故人が法律婚の配偶者を残して遺言書を残さずに死亡した場合、故人の遺産(Estate)は、法定相続人として、残された配偶者に優先的相続権(Preferential Share)が与えられています。これまで、残された配偶者に対して、遺産の中からまず20万ドルが優先的に支払われ、残りの遺産を他の法定相続人(子や孫たち)の間で分配していました。
そこで、2021年4月1日施行の法改正により、2021年3月1日以後に死亡した故人の遺産について、残された配偶者の優先的相続権の額が、20万ドルから35万ドルに大きく引き上げられました。
次回コラムでは、2022年に施行予定の相続法の改正点についてお話しします。
[おことわり] このコラムは、2021年6月時点での、オンタリオ州法に関する一般情報の提供のみを目的とし、著者による法的助言を意図したものではありません。。