コロナ緊急事態宣言下の遺言書・委任状の作成に関する法改正ついて|カナダで暮らす-エステート・プラニング入門【第29話】
筆者を含め、オンタリオ州の弁護士の多くは、リモート体制で法的サービスを提供しています。遺言書や「もしも」のための委任状の作成のお手伝いは引き続き可能ですが、コロナの影響で、誰もが自宅待機を余儀なくされる中、クライアントご本人に直接お会いして、書面の署名・立会いが困難な状況にあるのも事実です。そこで、オンタリオ州政府は、緊急命令を発令し、ビデオ会議による、遺言書と委任状の署名・立会いを可能にする法改正を行いました。
通常はその場の立会いが必要
現行法の下では、遺言書と委任状が有効となるためには、2名の立会人が実際に本人の面前でその場に立ち会い、全員が同じ書類に署名することが必要です。ただし、遺言書・委任状の立会い人になれる人には制限があり、次に当てはまる人は立会人になることができません。
- 遺言書の場合:遺言書に明記されている相続人・相続人の配偶者、未成年者。
- 委任状の場合:委任者の配偶者・子供、代理人に任命されている人・代理人の配偶者、裁判所で財産・身体後見人に任命された人、未成年者。
これらの条件から、ご本人のご家族が立会人になることはできないことがほとんどです。通常であれば、担当する弁護士や、ご本人の友人が立会人になることができますが、現在は、自宅待機の影響で、2名の全くの他人を準備できないかもしれません。
法改正によりビデオ会議による署名・立会いが可能に
去る2020年4月7日(その後、2020年4月23日に追加修正)、オンタリオ州政府は、緊急命令により現行の法律を一部改正し、ビデオ会議を利用した遺言書と委任状の署名・立会いが可能になりました。その内容は以下の通りです。
- ビデオ会議による遺言書・委任状の署名・立ち合いは、緊急事態宣言が実施されている期間限定であること。
- ビデオ会議を利用した遺言書・委任状の署名・立ち合いには、2名の立会人のうち立会人のうち1名が、オンタリオ州法律家協会(Law Society of Ontario)から資格を授与された弁護士、または、一定のパラリーガルであること。
- 本人と2名の立会人の全員が、同時にお互いに見える・聞こえるビデオ会議機能を利用すること(例:ZoomやSkypeなど)。
- 本人と立会人が同一の書類を副本(counterpart)でそれぞれ持ち、署名することが可能であること。
なお、現行法通り、本人・立会人の署名は肉筆に限り、書類は原本のみが有効であり、デジタル署名やデジタルコピーは効力を持ちません。また、ビデオ会議による署名・立会いは、ビデオ会議を利用できる環境にいる人に限られているのが難点です。
その他の選択肢
その他の選択肢としては、立会人との間に2メートルの距離を保ちながら、「密」を避けた環境で、ご近所の方やご友人に、庭先や軒先で、バーチャルではない通常の「その場」の署名・立会いを行うことも可能です。
なお、立会人を一切必要としない、自筆遺言書の作成も選択肢の一つですが、その有効性を争われることが多いのも難点です。ちなみに、委任状は自筆で作成することができません。
自主待機の機会を利用
毎日自宅で過ごすのはなかなか大変ですが、この機会を利用して、ご自身のエステートプランを進めるのもよいかもしれません。
[おことわり] このコラムは、オンタリオ州法に関する一般情報の提供のみを目的とし、著者による法的助言を意図したものではありません。
スミス希美(のぞみ)
福岡県出身。ミシサガ市パレット・ヴァロ法律事務所、オンタリオ州弁護士。中央大学法学部卒業後、トロント大学ロースクールに留学しカナダ法を学ぶ。相続・信託法専門。主に、遺言書や委任状の作成、信託設立などのエステートプラニングや、プロベイト等の相続手続を中心とした法律業務に従事。日本とカナダ間で生じる相続問題に詳しい。