遺言だけではない ~知っておきたい財産ののこし方|カナダで暮らす-エステート・プラニング入門【第32話】
1. 遺言書が必要な財産 ~遺産(Estate)
あなたが単独名義で所有している財産の中で、受取人指定(Beneficiary Designation)ができない、所有者亡き後の財産は、遺産と呼ばれます。遺産に含まれる財産としては、不動産、銀行の預金、投資、株式等の金融資産や、車、所持品等があります。遺産は、遺言書に従い、遺言執行人が対象となる財産をその管理下に置き、遺産から故人の債務・税金を清算後、相続人に分配されます。また、遺言書がない場合は、遺産は法定相続人の間で分配されます。
遺言書のプロべイトが必要になった場合、および、無遺言により遺産管財人の選任が必要になった場合は、遺産価値に対して遺産管理税(Estate Administration Tax: プロベイト税とも呼ばれる)が課されます(詳しくは、本コラム第9話参照)。
2. 遺言書が不要な財産 ~遺産以外の財産 (Non-Estate Assets)
一方、遺言書を介さずに、のこしたい相手にのこすことができる財産として、主に次のような財産があります。これらの財産は、一般的にプロベイトを回避または軽減できる利点があります。
● 含有財産(Joint Tenancy)
ジョイントアカウントや不動産など、夫婦間や親子間で広く利用されている共同所有権の形態として、「生存者受取権付含有(Joint Tenants With Right Of Survivorship – JTWROS)」があります。含有財産の特徴は、共有名義人(Joint Tenant)の一人が亡くなった場合、生き残った共有名義人に共有財産の権利が自動的に移譲するため、基本的に、故人の死亡証明書だけで、口座や不動産の名義変更ができ、遺言書は不要です。
● 受取人指定ができる財産
RRSP、RRIF、TFSAなどのレジスタードプランや、生命保険などは、死後にこれらのプランや保険金の受取人を指定しておくことができます。所有者の死後、指定された受取人は、故人の死亡証明書と各金融機関の所定の受取人申請用紙を提出し、プランの承継や保険金を受け取ります。ただし、第一順位の受取人(Primary Beneficiary)が所有者の前に他界し、第二順位の受取人(Contingent Beneficiary)が指名されていなかった場合や、受取人を「遺産(Estate)」と指名した場合には、遺言書が必要です。
● ペンション(Pension)
ペンション受給者(プライベートペンション)に配偶者がいる場合は、通常、残された配偶者にペンションが承継されます。また、配偶者がいない場合に受取人を指定できるペンションもあります。
● 信託財産
所有する一定の財産について生前信託を設定していた場合、信託で管理されている財産は、信託契約書の内容に従って分配されるため、遺言書は必要ありません。
円滑な財産承継プランを作成するには
私は普段、遺言書作成の準備として、ご本人におおまかな財産目録を作成していただきます。これは、ご本人の死亡時に、どのような財産が遺言書によって相続され、どのくらいの財産が遺言なしで承継されるのかを把握するためです。また、財産の種類によって死後に発生する税金や費用、手続きも異なるので、円滑な財産承継を図るには、この作業は不可欠です。
ちなみに、2021年(Tax Year)のRRSPの寄与期限は本年3月1日です。また、春先にはタックスシーズンが始まります。この機会を利用して、以前に作った遺言書や財産関係の書類を見直すことをお勧めします。
[おことわり] このコラムは、オンタリオ州法に関する一般情報の提供のみを目的とし、著者による法的助言を意図したものではありません。また、本コラムの情報は、2022年1月時点での情報に基づいており、今後法改正により内容が変更する可能性があることをご理解ください。