カナディアンの通勤通学を支える世界的ラジオネットワークiHeartRadio 破産の裏側とその業態に迫る

 英語の勉強や通勤・通学中、色々な場面でラジオを聞く機会が世の中には溢れている。ラジオを通じて最新のニュースや音楽を耳にすることができるため、スマホが普及しているこの世の中でもまだまだラジオは貴重な情報源として欠かせないメディア媒体なのではないだろうか。

 そんなラジオの最大手ともいえるiHeartRadioはこれまでもカナダだけでなく様々な国で人々に情報を届けてきた。しかし、放送自体は続いているもののこのラジオ局は2018年3月、破産を申請し、大変な危機に直面している。カナダの国民的ラジオ局が危機に瀕しているいま、TORJAと一緒にこのラジオ局を少し深く知っていただきたい。

急成長を遂げてきた米国最大のラジオネットワーク“iHeartRadio”

 現在のiHeartRadioは、CEOボブ・ピットマンが運営するラジオ事業Clear Channel Communicationsの1つで、850局を傘下にもつ米国最大のラジオネットワークである。2008年の開業以降、登録者数1億人を突破し無料音楽配信サービスを提供しておりPandoraに次いで著しい成長を遂げている。2000年の創業以来、過去10年に渡って音楽事業を継続しているPandoraは、2017年アメリカにおけるアプリ購入ランキングで1位に輝いた実績をもつ企業だ。iHeartRadioと同じく無料で音楽配信をしていることから、長年競合他社として差別化をはかってきた企業であることは間違いない。

 iHeartRadioの名は、月間6千万人以上にむけた自動車向けデジタルオーディオサービスとしても広く知られている。新しい音楽を見つける場を提供し、なお且つその音楽を保存できる仕組みを同じ場に作ることで、音楽認識ツールとラジオを直接繋ぎ合わせたのだ。このサービス利用にあたる大きなメリットは、オリジナルステーションを作ることができる点である。例えば、「朝に聴きたい曲」というシーン、或は「お気に入りBEST3」というラジオ局のステーションを作成したとする。すると、それぞれの項目に保存済みの楽曲を追加することができ、自分好みのプレイリストを作り上げることが可能なのだ。これを「オリジナルステーション」と呼んでいる。楽曲を探す手間を省き、お気に入りの曲を時間や場所を問わず聴く事ができるこのネットワークは、今の時代無くてはならない存在なのではないだろうか。

 2017年12月には、オンデマンド型のストリーミング事業に参入。月額CA$4・99(約500円)で、新しい機能を付ける事ができるiHeartRadioPlusというサービスだ。この他にも、月額CA$9・99(約1000円)でオフライン聴取、楽曲のスキップ、無制限のプレイリスト作成が可能となるプランもあり、消費者それぞれのニーズに合わせたサービスを提供している点も魅力的である。

iHeartRadioの音楽イベント

iHeartRadioの音楽イベント

 音楽配信サービスと聞くとSpotifyやAppleMusicが競合として挙げられるが、iHeartRadioは人気パーソナリティーが登場する膨大な数のラジオ局を聴く事が出来る点で大きな違いがあると言えるだろう。現在では、2億7千人ものリスナーを保有するiHeartRadioは、2017年には日本円で約35億円もの利益を生み出すまでに成長した。

 全米ラジオ界最大規模の音楽授賞式iHeartRadio Music Awardも彼らの運営するイベントの一つだ。かの有名なブルーノ・マーズやテイラー・スウィフトらも参加するこのフェスティバルは、インターネットや全提携ラジオ局にて生中継されるとあって世界中で注目を浴びている。

 CEOであるボブ・ピットマン氏は、このイベント開催については「私たちは、常に消費者の求めるものの追求と予想を怠らないようにしている。彼らがフェス開催を求めるのであればそれを実行に移すまでだ。」と語っている。過去に、事業の運営方法にばかり頭を悩ませてしまい、一番重要な利用者のことを考慮できていなかった際のことを教訓にしているからこそ出てくる言葉といえる。消費者ありきで成り立っているという考え方を会社に根付かせ、顧客満足度を意識した事業運営へと変えていったのだ。その一つの方法が、iHeartRadio Music Awardの開催である。しかし、イベントを主催して欲しいという消費者の要望に応え実施してきたものの、今度は資金繰りに関する問題が出てきてしまった。

公式インスタグラムでも音楽イベントの盛り上がりが伺える

公式インスタグラムでも音楽イベントの盛り上がりが伺える

莫大な負債を抱えての破産

 ここ数年、デジタル業界ではiHeartRadioの経営困難に関する噂が絶えなかった。とはいえ、2018年3月11日に開催されたiHeartRadio Music Award視聴者たちは、破産という結末を迎えることが果たして予想できただろうか。

 さかのぼること1990年代後半、Clear Channel Communicationsの創業者エオーリー・メーズは経費を削減しながらも数々のラジオ局の買収に出資してきた。その数は、当時1200局に及んだという。冒頭で述べたように、現在では登録者数1億人を越えるラジオ業界最大手になったiHeartRadioだが、850もの局と提携を結んでいるが故に直面する問題は、他社とどう差を付けるかだ。ピットマン氏は、競合になりうるITunesやSpotify、Pandoraを越える注目を集める必要があると考え、様々なイベントや宣伝活動に膨大な資金を費やした。その費用は10億円にも及んだと言われている。資金の一部は協力会社からの出資、つまり借金であり利子が付く事は言うまでもないが、利益に対するその比率は衝撃的である。

 ここでは分かりやすく事業を始めるにあたり必要になる資金を例に取り上げてみよう。仮に、資産100万円に対して開業資金が200万円だとすると、100万円のローンを組む必要がある。この際気をつけるべき点は、借り入れには必ず利子が伴うということだ。つまり、利息額をカバーできる売上がなければ赤字経営となり、更に言えば利息の支払いに借金をあてるという悪循環が繰り返されるのだ。

 これが今回のiHeartRadioに起きた破産の経緯である。事実、実際の利益に対して経費や利子を含むマイナスが大幅に上回っており、借金返済を20回に渡り延長していたという。その結果として積み重なった借金が日本円にして約2兆円にまで及び、2018年3月14日に建法破産法(民事再生法)チャプター11の申請に至った。

様々な音楽が流れるラジオ局の収益モデル

CEOのボブ・ピットマン ©Fortune Live Media on Visual Hunt

CEOのボブ・ピットマン ©Fortune Live Media on Visual Hunt

 iHeartRadioの事業形態や契約方法については、他のラジオネットワークビジネスと比較比しても目を見張る物が有る。2013年、世界第三位のレコード会社であるWarner Music は、Clear Channel Communicationsのプロモーション力が収益に繋がることを確信し提携を締結。現在アメリカにおいて、AM・FM放送局はレコード会社にパフォーマンス・ロイヤリティ料(楽曲使用料)を支払う義務が課せられておらず、多くのレコード会社やアーティストはラジオ放送から利益を得る方法を模索していたからだ。

 米国で最大級の音楽配信サービスであることから、その視聴率に対するiHeartRadioの宣伝広告収益は計り知れない。文頭で述べたように、レコード会社とラジオ局の契約に関してはパフォーマンス・ロイヤリティ料が発生するのが一般的である。その一方で、Clear Channel Communicationsは独立系レコード会社と独自に楽曲使用の契約を結び、利益を決定した配分率で分け合うという新しい提携スタイルを確立したのだ。これにより、レコード会社と所属アーティストは効果的なプロモーションによる将来的な収益、ラジオ局は広告収益を得る事が出来た。

破産を乗り越えるための施策

 今回の破産を機に、iHeardRadioは今後全く新しい企業に生まれ変わることができるという前向きな捉え方をしているメディアもある。考えてみれば、経営において上手くいっていた部分とそうでない部分を明瞭化できる良い機会であり、今や借金返済のプレッシャーを感じる必要もない。ピンチをチャンスと捉え、前向きな姿勢で復興活動に取り組んで欲しいところだ。しかしながら、沢山の課題を抱えているのも事実である。現段階で850局と提携している訳だが、今後更に増えた場合果たして全てを滞り無く管理出来る能力が備わっているだろうか。勿論、事業の拡大は必要不可欠だが、それ以前に経営を継続する為に土台作りが重要だとこんな出来事を思い出した。

 2010年、エイチ・アイ・エスが当時赤字であった長崎県佐世保市のテーマパーク、ハウステンボスを買収し再建したニュースを覚えているだろうか。たった半年で黒字化できたのには、清掃の見直し・2割の経費削減・2割の利益増加という3つの対策があり、これらを実行するまでには負債額を0にし新たなスタートの場を作る必要があった。これこそが今のiHeartRadioが行うべき経営対策ではないだろうか。

 CEOのボブ・ピットマンは「米国でトップのオーディオカンパニーとして、iHeartMediaは既存のラジオビジネスを変革し、データドリブンでマルチプラットフォームなデジタル特化型のメディア企業に成長させてきた。債権者らとの合意が得られたことにより、これまで抱えた負債を処理しiHeartRadioの確固たるブランドを継続させていく」と述べた。この、提携企業の大きな資金支援は、今迄の歴史的快挙を成し遂げたiHeartRadioに対する将来への可能性と、顧客への良いサービスを追求しようという熱い思いが伝わったからこそだと考える。

 デジタル時代におけるラジオと音楽の関係を独自の方法で繋ぎ合わせたこのサービスが、長い将来継続とより良い発展を遂げると期待したい。