トロントだけでなくGTAがより密接に繋がる!TTCの壮大な25ヵ年プロジェクトに迫る|特集「カナダの社会ニュース・時事問題を深読み解説!」
TTCと言えば昨年、American Public Transportation Association(APTA)から北米で最高の交通機関として表彰され、Greater Toronto Area(GTA)に住む人の生活を支える基盤となっている。そのTTCは今年の1月、2037年までに路線図を大きく拡大する計画を発表した。既存の路線はその範囲を拡大し、最終的には15の路線がトロントを駆け巡ることになるようだ。そこで気になってくるのはこの壮大なプロジェクトの狙いや、私たち利用者にとってどんな利点があるのか、ということではないだろうか。今回はそんなTTCの見ているトロント将来図を探っていきたいと思う。
なぜTTCの拡大が必要なのか
そもそもTTCはなぜこんなにも壮大なプロジェクトを描いているのだろうか?それはやはり増え続けるGTAの人口が大きな要因とされている。2016年時点ではGTAの人口は役641・8万人と発表されているが、Statistics Canadaによると、この人口は伸び続け、TTCが将来図通りの路線を完成させる前年には人口が912万人に到達するとされている。
この増えていく人口は移民とされており、彼らはカナダに移民してきた段階ではまだ収入が少ない。そのため仕事を探す必要があるが、GTAでは仕事は基本的にトロントにある。職場にアクセスのいい家に住みたいもののそれでは家賃が高すぎるため、郊外に住まざるを得ない。しかし、郊外に住むとダウンタウンへのアクセスが悪いため、仕事を探したり見つけたりすることが難しくなる。このようなケースは将来的に起こるものではなく、実際に今日でも起きているのだ。それが人口の増加が確実となったいま、この先避けられない問題であることは誰が見ても明白であるため、公共交通機関の発展が急がれている。
TTCの25ヵ年計画をクロースアップ
University側イエローライン 延長(2017年12月完了)
イエローラインのUniversity側の延長が去年完成し、いままではSheppard West駅で止まっていたところからさらに6つの駅が追加された。終点はVaughan Metropolitan Centre(VMC)駅になっており、この区間は地下であっても電波が入るようになっているのが嬉しい。終点になっているVMCは現在「第2のダウンタウン」としての開発を進めており、2031年までには2万5千人が住み、1万1千人の雇用ができるとされている。
オレンジライン開通(2021年)
Eglinton Lineとも呼ばれるこの地下鉄はライトレール・トランジットとして2021年から運行予定だ。トロント大学スカボローキャンパスからトロント・ピアソン国際空港を繋ぐ重要な役割を果たすこの路線は、GO Transit等で知られるMetrolinxが工事を進めており、その様子は中間駅となるEglinton駅で見ることができる。
グレーライン開通(2022年)
こちらも同じくMetrolinxが手掛けるライトレール・トランジットとなる予定の路線。現在イエローラインの停車駅でもあるFinch駅からHumber Collegeを繋ぐため、カレッジへの留学を考えている留学生たちにとっては住む場所の選択肢が増える有意義な拡大と言えるだろう。
スマートトラック開通(2024~2026年)
Union駅を経由し、スカボロー、マーカム、ミシサガを繋ぐことができる路線として注目度も高いスマートトラック。この路線は2014年にトロント市長に選ばれたジョン・トリー市長の公約の1つでもある。トリー市長によると、この路線は1日20万人が利用するとされ、建設には80億カナダドルが掛かるとされている。この路線の将来性を見込み、ミシサガ市とマーカム市も建設費用の負担を申し出ている、GTAをより密接に繋ぐことに大きく貢献する路線となる。
グリーンライン延長(2023~2027年)
現在、スカボロー方面に向かうにはKennedy駅で一度乗り換えが必要になるのだが、将来的にはその乗り換えを無くし、Scarborough Centreをグリーンラインの一部として取り込もうというのがこのプロジェクト。スカボローには約65万人が住んでおり、現在使われているスカボローRTも年季が入ってきているため、よりスムーズな通勤・通学をサポートするためにもこの工事は重視されている。
新グリーンライン開通(2028~2032年)
既存のグリーンラインよりも薄いグリーンで将来図に描かれているこの路線はシェパードアベニュー沿いにDon Mills駅からモーニングサイドアベニューを繋ぐ予定だ。距離自体は短いものの、トロント大学スカボローキャンパスをノースヨークの住宅街とのアクセスが大きく改善する上、従来は最寄り駅が無い地域にもダウンタウンに出る手段ができるため、より活発な経済活動にも期待が高まる。
新ブルーライン開通(2028~2032年)
スカボロー方面のブルーラインが無くなるため、新しいブルーラインが開通する予定。この路線はDon Mills駅からDundas West駅をイエローラインと同じU字で繋ぐ。グリーンラインと一部路線が被るが、グリーンラインは地下9メートル、新ブルーラインは地下18~20メートルの位置を走る予定となっている。新ブルーラインの別名はリリーフライン。その名の通り、毎日の通勤・通学で混雑の激しいイエローライン利用者を分散させる目的がある。2031年までにはイエローラインがキャパオーバーに陥ってしまうとの研究結果も出ているため、最も工事が急がれる路線の1つである。
Yonge側イエローライン延長(2028~2032年)
University側でも行われた延長がYonge側でも行われる予定。現在の終点であるFinch駅からさらに北へ伸び、最終的にはRichmond Hill Centre(RHC)駅に繋がる。RHC駅からはヨークエリアでの交通機関York Region Transit(YRT)との乗り換えが可能となる。研究によると、RHC駅が開通することによって、1日に約16万人がTTCを利用し、1日に2500回分のバス利用が無くなることによって7000トンの温室効果ガスの削減が期待される。また、ヨーク方面へのスムーズな交通機関の伝達により、3万1000もの仕事が増えるとされている。
ウォーターフロントトランジット(2033~2037)
Union駅を経由してWoodbineからLong Branch、5つの区間を湖畔沿いに繋ぐ路線。建設にはカナダドルにして20億ドルが掛かるとされている。そこまでの大金を掛けて工事を行う目的は、高速道路での通勤ラッシュを改善すると共に、車通勤を減らすことで温室効果ガスの削減も狙っているのだ。また、オンタリオ湖沿いでの人口増加も懸念されており、2041年までには28万人増え、19万もの雇用が創出されるという調査も発表されている。それだけでなく、この路線ができることで週末のおでかけや様々なイベントの増加にも期待が寄せられている。
TTCの拡大と共に高まる住民の不安
様々な路線が増えることで空港へのアクセスが容易になったり、より簡単に別の場所へ行けるようになるため、期待が高まるTTCの路線拡大。GTAに住む人たちからは期待の声が寄せられる一方で、様々な懸念があげられているのも事実だ。
その懸念はイエローラインとリリーフラインと呼ばれる新ブルーラインに向けられている。2015年にMetrolinxが発表した、Yonge Relief Network StudyはBloor駅から南の地域にしか焦点を当てていない調査の中で、イエローラインは11%のキャパオーバーだとしていた。また、2016年にはTTCの会長であるジョシュ・コール氏は、「現時点ではとてもYonge側の路線延長を考える余裕はなく、まずはキャパオーバーの件に注目すべきだ」と語っていた。同じく2016年の調査によるとTTCはイエローラインのキャパが2万5500だとし、Automatic Train Control(ATC)の導入によってそれが3万2000に引き上げることが可能だとした。2015年時点でそのキャパに差し迫る勢いの利用者が既に存在し、この危機を目にしたTTCはイエローラインの延長とリリーフラインの建設、どちらを先に行うかを選択しなければならなかった。
しかし、ヨークエリアの議員たちはTTCがVaughanへの拡大を行い、ATCによって、イエローラインの混雑は解消されると訴え、2017年末、ついにUniversity側での延長が完成した。にも関わらず、混雑は緩和されるどころか停車駅が増えたためより酷くなったという声が利用者からは上がっている。これは、Metrolinxが最初に行った調査の中でBloor駅から北の路線での朝の通勤・通学ラッシュを考慮に入れていなかったことが要因とされている。
また、イエローラインの乗客がリリーフラインに流れるようなことは実際には起こらないのではないかと疑問を投げかける声も多い。実際、イエローライン沿いにあるLawrence Eglintonでは商業施設の入ったコンドミニアムを含めた様々な建設が進められ、魅力的な場所が多くある。リリーフラインもイエローライン沿いと同じくらい、住む魅力がなければ、そもそも利用者が流れることはないのでは、という厳しい声がある。
それだけでなく、そもそものイエローライン、リリーフラインの両方がU字型をしていることが問題だと指摘する声もある。このU字型によって、電車に乗っている時間は長くなる上、乗客をUniversity側、Yonge側で半分ずつ載せていくことは路線の脆弱性にも直結する。より多くの乗客を乗せることで自ずと乗客が原因の遅延が増え、その1つの遅延が何百、何千人分の遅れに繋がってしまうのだ。
以上の3点はYonge側のイエローラインの延長、そしてリリーフラインそのものの建設を考えた際、重要な論点になってくる。様々な企業や団体の思惑が絡み合うGTAの交通網発展計画だからこそ、各団体が足並みを揃え、利用者の声という現実と向き合うことが鍵となる。