「家族の一員から社会の一員へ」| トロントの日系幼稚園の園長先生コラム【第64回】
最近、インターネットで「家事は女子だけのものじゃない。男子でも家事が出来る様に色んな事を家庭内で教えて行こう」といった趣旨の記事を見ました。私も、時々「いくつくらいから子供達にお手伝いをさせれば良いでしょう?」と聞かれる事がありますが、いくつなどという年齢はないと思います。
そもそも、子供達はお手伝いが大好きです。物心ついて自分からお手伝いしたいと思う気持ちが出て来たら、その時がお手伝いの適例時期なんです。ただ、当然ですが人の事をする前に自分の事。何もかも「自分でする〜!」の時期が先に来ますから、親子共々それを乗り越えないといけません(笑)
初めの頃はお手伝いなどと仰々しいものではありません。子供のそばにあるおもちゃなど「ください」「どうぞ〜」「ありがとう!」子供に頼んだ事をその子が出来る、その子も人に何かしてあげる事で人の喜ぶ顔が見られ、充実感や自分が役に立った満足感も得られる事等を学んで行きます。そのうち物を持って来たり、誰かに渡しに行ったり。それらはお手伝いの始まりです。
また、遊んだものを片付ける事は子供の立派な仕事 (Chore) です。それらはいきなり身に付くものではありません。初めは親も一緒に手伝ったり、見本を見せながら楽しく片付けられる様に持って行ければ、それを喜んでする様になるでしょう。下の子が生まれれば、おむつを持って来てもらったり毛布をかけてあげたりと、どんなに簡単でも出来る事をしてもらう様にする事で赤ちゃんに愛情もわき、家族内での位置づけも感じる様になります。
親がやってしまった方が早いに決まっていたり、してもらう事によって二度手間になる事だって多々あるでしょう。でも、そこは親もじっと我慢して見守ってあげられれば良いですね。うまく出来ない時はそっと(バレない様に)お手伝いしてあげれば良いと思いますし、逆にうまく出来た時はめいっぱい褒めてあげて下さい。
 
ナーサリーでも、子供達はみんなお手伝いが大好きです。クラスでは毎日日替わりで『お当番さん』を決めますが、みんなそれになりたくてなりたくてウズウズしています。お当番さんはみんなの代表で仕事が決められていますが、クラスごとに、年々大きくなればなるほど内容もしっかりしてきます。褒められると増々頑張ってくれますし、出来る事を自分で考えたり見つけ出して、自ら率先してしてくれるようになります。してもらった時は褒める事、そしてお礼を伝える事も大事だと思っています。
 
我が家では健人も年齢が経つにつれ、洗濯・掃除はもちろん、食事も作れて、自分の事は何でも自分でする様になって行きましたし、それはそれで当たり前だとも思っています。でも、子供の頃からも今も、家の事を手伝ってくれた時は家族内でどんな小さな事でも必ずお礼を言います。それは息子健人に対しても主人マークに対しても、そしてこの二人も私に対して小さな事でもお互いお礼を言い合います。
家族の一員として家事をする事は当たり前。でも、家族だからこそ、日々当たり前の家事だからこそ、してくれた人に対して感謝の気持ちを表す事が何より大切だと私達は思っています。ご飯を作ってくれた人に「ごちそうさま。美味しかったわ、ありがとう。」「あ、食器片付けてくれたの、ありがとう。」「ゴミの日だったね、出してくれてありがとう。」お礼を言われて悪い気はしませんものね。
子供のお手伝いは大人になるとやがて社会に出て仕事という形に変わって行きますが、この家庭以外の大人社会でも同じですよね。お金をもらって働いているんだから、この仕事をして当たり前…この様な考えではお互いがぎくしゃくしてしまいます。仕事の一環であれ、してもらった時に「ありがとう」と感謝の気持ちが添えられていれば、みんな気持ちよく仕事が出来るものです。
それは小さな頃からお手伝いを通じて家庭で学んで行くものなのかも知れません。家庭から学校社会へ、そして大人社会へ。家庭の中で家族の一員としてしっかりお手伝いして来た子供は、大人になっても社会の一員として、形は色々違えどもその役割を果たせるようになることでしょう。そう考えると、子供の頃からのお手伝いって、あなどれませんよね!
池端友佳理
京都出身。大阪の大学看護科を経て同大学病院の産婦人科で看護師として経験後、1990年に渡加。伴侶は日系カナダ人三世。一人息子(大学生)の母。1993年に自宅で池端ナーサリー託児所を開設。1999年日系文化会館内に池端ナーサリースクールを設立。園長を勤める傍ら、カナダ唯一の産後乳房マッサージ師として活躍中。

                                                                    



