日本美術 in Toronto 第1回
第1回 ロイヤルオンタリオ博物館の 日本美術コレクション
今月からトロントでの日本美術•文化に関するイベント等について執筆させていただきます池田安里です。現在ロイヤルオンタリオ博物館 (ROM)で日本美術のポストドクフェロー研究者として働いています。このポジションはビショップ•ホワイト協会の寛大な寄付により2014年に設立されました。これを機に、ROMにおいての日本に関するイベントや展示、発行物の活性化を目指しています。
トロントには2014年の7月に引っ越して来たばかりですが、カナダにはすでに8年以上住んでいます。東京にある都立国際高校を卒業後、港区にあるテンプル大学ジャパンでクラスをとり、BC州ビクトリア大学に転入、美術史の学士をとりました。その後はオタワのカールトン大学で修士、バンクーバーのブリティッシュ•コロンビア大学で博士過程を終えました。
私の専門は主に20世紀の日本美術で、特に第2次世界大戦中の美術とファシズムというテーマで博士論文を書きました。現在は、江戸時代の浮世絵やジェンダーとセクシャリティーといったテーマの研究もしています。というのも、後々TORJAで取り上げていただく機会もあるかと思いますが、2016年の5月から11月まで、ROMで浮世絵の展示会を予定しているからです。
来年行われる展示会(仮題 A Third Gender: Beautiful Youths in Japanese Prints) は特別展示会となる予定で、ROMの日本美術を80点ほど展示します。鎧や着物、漆器なども展示するつもりですが、主に浮世絵を中心とした展示会です。日本美術の特別展としては約10年ぶり、ROMのコレクションを使った浮世絵の特別展示としては約40年ぶりの展示会になります。若衆と呼ばれた若い美少年に焦点を当て、彼らがいかに男性と女性両方を魅了したかということを考察する展示会です。男色と呼ばれた若衆と年上の男性との恋愛関係などにも言及する予定で、プライドフェスティバルなどで新しい形のセクシャリティーや男女の役割に寛大なトロントの市民には関心をもっていただけるのではないかと期待しています。展示会図録を現在執筆している真っ最中です。
今回は始めてのコラムということで、ROMの日本美術コレクションにについて大まかな説明をさせていただきたいと思います。日本の作品は1階の入口を入って右側、2006年にオープンした高円宮ギャラリーに常設展があります。ギャラリーオープンの際には特に高円宮殿下久子様、当時の日本領事館総領事、また商工会の皆様に多大なるご協力を頂きました。ギャラリーの作品展示と関連しまして、現在までに能のパフォーマンスと茶道のデモンストレーションもROMで実現しています。
ご存知の方が少ないかもしれませんが、ROMは1万点に及ぶ日本美術作品を所蔵しており、これはカナダでは最大の日本美術コレクションとなります。最大の強みは版画です。2500点ほどの版画のほとんどは1926年に寄贈されたウォルカーコレクションと呼ばれるもので、江戸時代初期から後期まで、奥村政信、鈴木春信、喜多川歌麿、葛飾北斎、歌川広重など今では巨匠と評される作者の作品が多くあります。特に広重と北斎の作品は数が多く、「東海道五十三次」シリーズは様々なコンディションやバージョンのものを含めると、すべてのデザインが揃っています。また、版本(江戸時代の本)やスケッチ、数は多くないですが春画も所蔵されています。江戸時代以降の版画は、明治時代の日清•日露戦争の戦争絵、数点の創作版画と新版画、そして300点に及ぶNaoko Matsubaraさん(オークビル在住)の作品があります。
屏風や掛け軸、巻物なども浮世絵には数で及ばないものの揃っており、狩野派、琳派、四条派の絵師による作品、習字、仏教画、肉筆美人画、南画•文人画が含まれます。中には池大雅やその夫人である池玉蘭の作品もあります。漆器作品、侍の鎧(よろい)、兜(かぶと)、鍔(つば)、印籠(いんろう)、根付(ねつけ)、着物、焼き物、茶道に関する作品なども常設展に展示されていますが、より多くのものが所蔵庫に眠っています。
近代や現代の作品が少ないですが、今現在、どうにか入手してコレクションとしてROMに展示しようと奮闘中です。近いうちに良い報告ができ、高円宮ギャラリーにも新しい作品を展示し、本誌内でそちらについても近々説明できればと思っております。
池田安里/Asato Ikeda
ニューヨーク•フォーダム大学美術史助教授/ロイヤルオンタリオ博物館研究者(2014-2016)。ブリティッシュ•コロンビア大学博士課程を首席で卒業し、カナダ政府総督府より金メダルを受賞。著書に「Art and War in Japan and its Empire 」(監修 ブリル出版)、 「Inuit Prints: Japanese Inspiration」(共著 オタワ文明博物館出版)等。