日本美術 in Toronto 最終回
ロイヤル・オンタリオ博物館 日本美術展 ロイヤル・オンタリオ博物館
日本美術展 「第三のジェンダー 若衆と浮世絵」展 開催
2016年5月7日〜11月27日
過去3回、ロイヤル•オンタリオ博物館(以下ロム)で開催中の展示会A Third Gender: Beautiful Youths in Japanese Prints(第三のジェンダー 浮世絵と若衆)についてお話させて頂きましたが、今回は江戸時代以外のことを扱った展示会の最後のセクションについて少し書かせて頂きたいと思います。
セックス、ジェンダー、セクシュアリティといったトピックを扱うロムの浮世絵展ですが、その展示にあたっては実は今年の1月にLGBTTIQQQ2S(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、トランスセクシャル、インターセックス、クエスチョニング、クイア、トゥースピリティッド)のコミュニティの方々(教育者、ソーシャルワーカー、アクティビスト)とワークショップを開いて展示会の内容について話し合う機会がありました。トランスジェンダーとゲイの方々と2つのセッションをさせていただきましたが、大変勉強になるものでした。展示会の内容は非常に好意的に受け取って頂きましたが、問題点も提起されました。
例えば若衆を「第三のジェンダー」とするならば、若衆を「彼」とよぶべきなのか「彼女」と呼ぶべきなのか。特にこの言葉の使い方に関するディスカッションは、ステージの外でも「女性」として振る舞っていた女形の人々に関しても行われました。展示図録では若衆と女形を「彼」と読んでいますが、展示会の中ではこのディスカッションを踏まえて若衆は若衆、女形は女形、と呼ばせて頂き、「彼」「彼女」のような代名詞を使う事をさける事にさせていただきました。また、同様に重要なディスカッションとしては性差別をしないトイレの設置問題です。最近ノース•カロライナ州でのニュースが話題になりましたが、トランスジェンダーの人々にとって、男性と女性にわかれているトイレは非常に大きな問題です。ロムで設置されているトイレも差別がないようにするべきだというリクエストを踏まえ、「第三のジェンダー」展の横に設置されているトイレを「オールジェンダーウォッシュルーム」に変えました。このトイレの変化にあたっては、メディアからも非常に大きな注目を集め、CBCなどでも取り上げられました。
ワークショップでの意見を参考にし、展示会の最後のセクションでは、多様なジェンダー構造やセクシャリティの例(カナダの先住民であり女性と男性の両方の役割をするとされているトゥースピリティッドピープルや、南アジアのヒジュラ、19世紀のイギリスでの男女の役割分担、古代ギリシャにおける少年愛、1980年代のトロントでのゲイ反差別運動)について解説する地図を展示することにしました。また、ジェンダーやセクシャリティの多様性を色のついたコインを使ってアートにするコーナーや、メモ用紙に来場者がコメントを書き入れ展示するスペースも設ける事にしました。LGBTTIQQQ2Sに関する情報をもっと知りたい来場者へむけ、関係のある団体のリストも最後に見る事ができます。
5月に展示会がスタートしてから今日(6月8日に執筆しています)で1ヶ月がたちますが、既に2万人の来場者を記録しました。予想より多くの方々に足を運んで頂き、大変喜んでいます。5月にはニューヨークのメトロポリタン美術館から日本美術研究家ジョン•カーペンター教授にお越し頂き、レクチャーをして頂き、6月7日にはブリティッシュ•コロンビア大学よりジョシュア•モストウ教授にお越し頂き、レクチャーをして頂きました。5月には15人ほどの日本美術のコレクターやギャラリーオーナーの方にわざわざニューヨークから展示会のツアーに参加していただくこともあり、展示会を通じていろんな方とのご縁がありました。
7月にはニューヨークのフォーダム大学に戻り授業を再開しますが、トロントで大勢の方とお会いすることができた事を大変幸運だと思っています。本誌面でトロントにある日本美術を紹介する機会を頂き、ありがとうございました。編集長の塩原様に心より感謝申し上げたいと思います。
池田安里/Asato Ikeda
ニューヨーク•フォーダム大学美術史助教授/ロイヤルオンタリオ博物館研究者(2014-2016)。ブリティッシュ•コロンビア大学博士課程を首席で卒業し、カナダ政府総督府より金メダルを受賞。著書に「Art and War in Japan and its Empire 」(監修 ブリル出版)、 「Inuit Prints: Japanese Inspiration」(共著 オタワ文明博物館出版)等。