第53回 子どもとスマホの難しい関係|カエデの多言語はぐくみ通信
これがないと生活できないくらい私たちの生活に深く根付いたスマートフォン。問題も多いスマホをいつ子どもに持たせるか。どう付き合うべきか。たいへん難しい問題です。
カナダの教育委員会がSNSを提訴
今年3月、トロントを含むカナダの4つの教育委員会がソーシャルネットワークサービス(SNS)大手のメタ(Facebook、Instagram)、スナップ(SnapChat)そしてByteDance(TikTok)の3社を相手取り40億カナダドル余りの損害賠償を求めて訴訟を起こしました。他にはアメリカなどでもたくさんの教育機関や自治体がSNSに対して訴訟を起こしています。
提訴の理由は、「SNSには中毒性があり、強迫的に使用するよう意図的に設計され、子どもの考え方、行動や学習方法を変えてしまった。その結果、学習面や精神面で子どもが危機的状況に陥り、学校は支援プログラムに多大に投資する必要に迫られた」というものです。
企業の利益追求の目的のために子どもが犠牲になり、その付けを学校や親が払わされているというのが現状です。私の子どもたちが中高生のころにスマートフォンやSNSが流行りだし、できるだけ影響が出ないようにと四苦八苦した経験があります。子どもたちにはスマホの代わりに連絡用にガラケーを与えましたが、娘には、友達は皆スマホを持っているのに格好が悪いと愚痴を言われました。彼らが大学生になったのを機にスマホを与えましたが、弊害はてきめんで、動画にはまり、勉強とメンタル面に悪い影響がありました。
大学生でもコントロールがきかないのですから、より年少の子どもたちが中毒になるのは明らかです。メタ社は提訴に対して、「10代の子どもたちに安全で支援的なオンラインサービスを提供するよう努めている」とコメントしています。
オンタリオ州は学校でのスマホ禁止を予定
オンタリオ州政府は、今年9月の新学期から、学校でのスマートフォンの使用は、幼稚園から6年生は終日、7年生以上は授業中の使用を禁止すると発表しました。やっと政府が対策に乗り出したようです。授業中はフライトモードにするか視界から見えない場所に保管するように、もしポリシーに沿わない場合は即刻取り上げるとのことです。オンタリオ州以外にも、ケベック州、ブリティッシュコロンビア州、アルバータ州も学校でのスマホ使用を制限したり、家庭に協力を求めているようです。
成長した娘は現在高校の教師をしていますが、スマホには本当に悩ませられているようで、彼女のクラスでは授業中は携帯禁止をすでに始めているそうです。私が子どものころは、授業がつまらないとノートに落書きなどをして時間を潰していましたが、今は中毒性のある娯楽が教室の中にまで侵入してきて、子どもたちのメンタルへの悪影響が深刻な問題になっています。
有害と分かっていても与える親
スマホやSNSの有害性は親もわかっているはずなのに、なぜ子どもに持たせるのでしょうか?子どもにスマホを最初に持たせる時期は、一番多いのは高校入学時、次に多いのは中学入学時のようです。スマホを持たせるメリットとしては、◎親子での現在位置の確認や緊急連絡用◎子ども同士のコミュニケーションや習い事のお知らせ◎勉強の補助や早くからデジタル機器に慣れさせるため、などでしょう。スマホは便利な反面、◎スマホ依存◎ネットいじめ◎学力低下◎フェイクニュース◎セキュリティの問題、などの大きなデメリットも併せ持っています。
子どもの「友達は皆持っている」という言葉に抗うのは、かなり難しいのではないでしょうか。子どもが納得する理由を見つけないといけないからです。多くの親は、子どもが欲しがるから、スマホの利便性、社会的圧力などの理由で買い与えるようです。しかし、一旦持たせてしまうと、問題が起きてから取り上げるのがかなり難しくなります。
できるだけ遅らせる
イエール大学心理学のローリー・サントス教授は「スマートフォンを与えるのはできるだけ遅らせるように」と警鐘を鳴らしています。2019年の調査では、12歳以下でスマホを持っている子どもは1日に5時間以下、ティーンエイジャーだと8時間近くもスマホにくぎ付けになっているそうです。毎日それだけの時間、ただSNSや動画に見入るだけで脳や体が活動しない状態になるとは恐ろしいことです。
持たせることを遅らせるには、子どもにせがまれても親は毅然とした態度を取り、また、持たせないだけでなく、スマホの代わりになる方法を見つけてあげることも大事だと思います。どうしても必要で持たせる場合の対策としては、親子で使い方のルールを作る、機能制限や有害サイトのフィルタリング、スマホ依存になっていないかのフォローアップなど、ただ与えるだけではない親の監視や管理が重要になります。
スマートフォンやSNSは有益なツールですが、その一方で想像以上に多くのリスクも存在するやっかいなものです。子どもが技術の発達と大企業の利益追求の犠牲者にならないために、保護者や学校、そしてもちろん国や企業も、どうすれば子どもたちを守れるのか、真剣に対策を考えないといけませんね。
Global News, March 28, 2024 ‘4 Ontario school boards sue Facebook, Instagram, Snapchat and TikTok’ https://globalnews.ca/news/10389105/ontario-school-boards-sue-facebook-instagram-snapchat-and-tiktok/
CNBC, Oct 23 2023 ‘Want to raise happy, successful kids? ‘Wait as long as possible’ to give them a phone, says Yale expert’ https://www.cnbc.com/2023/10/23/wait-as-long-as-possible-to-give-kids-a-phone-yale-psychology-expert.html
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