メジャー&日本プロ野球を経験した加藤豪将さんが語る、多文化都市トロントでの挑戦とブルージェイズの未来|特集「トロント・ブルージェイズのすべて」
ニューヨーク・ヤンキースでプロキャリアをスタートさせ、2022年にはトロント・ブルージェイズでメジャーデビューを果たした加藤豪将さん。メジャーリーグ、日本プロ野球(北海道日本ハムファイターズ)でのプレー経験を経て、2024年限りで現役を引退し、2025年シーズンからはブルージェイズの「ベースボールオペレーション部門」のアシスタントとして新たなキャリアを歩み始めた。
アメリカ生まれ・アメリカ育ちでありながら両親が日本人としてのルーツを持ち、日米両方の文化を肌で感じてきた加藤さんに、多文化都市トロントで見つけた挑戦とブルージェイズの魅力、そしてこれからの野球の未来について語ってもらった。
トロントの多様性とブルージェイズの魅力

― アメリカで育ち、日本人としてのアイデンティティを持ち、日本球界での経験もある加藤さん。生活面でもキャリアでも両方の文化を理解しているからこそ見える視点で、トロントやカナダの美しさ・好きなところを教えてください。
やはり、いろいろな人種の方々がいて、多様なカルチャーに触れられるところですね。そして、食事もすごく好きです。トロントには世界中の料理が集まっていて、本当にバラエティに富んでいます。
うちのチームを見ても分かるように、野球界全体が多様化しています。例えば今日対戦相手のジャイアンツには韓国人選手がいるように、日本人をはじめ中南米など、さまざまな人種の選手が活躍しています。ブルージェイズも同じように、多国籍で多文化が共存するチームです。トロントという街もまさに同じ雰囲気で、それが自分にとって一番好きなところですね。
― ブルージェイズの一員として感じる魅力や素晴らしさを教えていただけますか?また、ブルージェイズのチーム文化やファンの熱気を、フロントの立場になって改めてどのように感じていますか?
今は怪我人も多い状況ですが、それでもア・リーグで首位をキープしているのは素晴らしいことだと思います。ブルージェイズはホームランで一気に勝つこともあれば、スモールベースボールでバントや走塁を駆使して勝つこともある。いろいろな勝ち方ができるのが魅力です。ファンから見ても、「今日はどんな試合展開になるのか」と毎試合楽しみにできるチームだと思いますし、そういった多彩な戦い方が、フロントから見ても非常に面白いと感じます。
日米の野球文化で培った二つの感性

― 野球を通じて、自分が「アメリカ的」だと感じる部分、そして「日本人的」だと感じる部分はどこでしょうか?
これは現役時代の話になりますが、自分の中で「アメリカ的」だと思うのは、プレーを気楽に、自由な感覚で楽しむ姿勢です。アメリカの野球文化では、選手が個性を大事にして自由にプレーする雰囲気があります。
一方で、「日本人的」だと感じるのは、細かい部分までこだわり、誇りを持って丁寧に取り組む姿勢です。この二つの要素は、私自身の野球観にも自然と融合されていると思います。
― 両親から受け継いだ価値観や習慣で、今も野球人生に生きているものはありますか?

今は現役選手ではなくフロントとしての仕事になりますが、チームがベストなパフォーマンスを発揮できるよう、細かい部分までしっかり目を配る姿勢は、両親から受け継いだ価値観の一つだと思います。これを一言で表すのは難しいのですが、周囲をよく観察し、少しでも良い方向に導くための努力を怠らない、という気持ちは常に意識しています。
日米野球の違いとデータ活用から見える、これからの野球のかたち

― プロ野球、日本の野球、そしてメジャーリーグは、まるで別のスポーツのように違う、と以前拝見しました。振り返ってみて、その違いを経験したことで得た教訓や、今のステージで生かせることは何でしょうか?
日本やアメリカで様々な球団を経験し、野球の多様な見方やプレースタイルがあることを学びました。「野球は一つの形だけではない」ということを実際に体験できたのは、自分にとって非常に大きな財産です。今、ブルージェイズのフロントで働く中でも、その多様な視点や考え方が生きていると強く感じます。これこそが一番の経験であり、教訓だと思います。
― 現在、メジャーリーグをはじめプロスポーツの世界では、データやAIを活用した分析が進んでいます。現役選手時代と比べて、データの見方や価値観にどんな変化がありましたか?また、数字やAIの解析だけでは測れない部分、例えば選手の心理やコンディションをどう補完すべきだと思いますか?

今の自分の役割は、データをしっかり吸収し、それを選手やコーチに分かりやすく伝えることです。現役時代の経験があるからこそ、データの数字だけでなく、選手側の気持ちや現場感覚も理解できるのは自分の強みだと思います。その両方を活かしながら、データを現場でどう使うかを工夫してプレゼンしています。
テクノロジーが進化しても、数字だけでは見えない選手の心理やコンディションがあります。そういった部分は人とのコミュニケーションや観察を通じて補完することが大事だと考えています。
― AIやテクノロジーの進化で、野球は今後どのように変わっていくと考えますか?
現在は、ものすごい量のデータがチームにインプットされています。これから重要になるのは、その膨大なデータをどう使うかという点です。30球団すべてが同じようにデータを持っていますが、使い方次第でチーム力に大きな差が出ると思います。今後の野球は、データをいかに現場に落とし込み、価値ある戦略に変えられるかが進化のカギになると考えています。
文化や国境を越えて――スポーツがつなぐ力と自分らしさの可能性
― スポーツは言語や宗教、政治の壁を超えて人と人をつなぐ力を持つと思います。社会が多様性を受け入れきれず分断が深まる時代において、人と人をつなぐ力にスポーツが果たせる役割は大きいです。日米両方で野球を経験された加藤さんは、その「スポーツの力」をどのように実感されてきましたか?
今の立場から言うと、ファン目線ではなくチーム内部の視点になりますが、ロッカールームは本当に特別な場所だと思います。そこには多様な人種や宗教を持つ選手たちが集まっていますが、皆が同じゴール、例えば「ワールドシリーズ優勝」という目標に向かって一丸となる。その姿は、スポーツの持つ力そのものだと感じます。野球はまさに、文化や背景の違いを超えて、人々を一つにする力を持っています。
― 加藤さん自身の存在は、海外で育ち、日本文化を持つ若者たちにとってのロールモデルともいえます。海外で育つ日本にルーツを持つ子供たちに向けて、「自分のバックグラウンドを誇れるようになるためのヒント」を伝えるとしたら、どのような言葉をかけたいですか?
そうですね。僕自身もアメリカ生まれ、アメリカ育ちで、苦しいこともいろいろありました。でも最終的には、「自分をしっかり出すこと」が一番大事だと思っています。周囲がアメリカ人やカナダ人ばかりだからといって、無理に彼らのようになろうとする必要はありません。自分は自分として、自分らしく過ごすこと。それが結果的に一番うまくいく近道だと思います。僕自身、まだ成功の途中かもしれませんが、その大切さは強く実感しています。
インタビューを終えて
今回のインタビューでは、メジャーリーグ、日本球界、そして現在のブルージェイズのフロントという多彩なキャリアを歩んできた加藤豪将さんならではの視点が印象的だった。アメリカ生まれ・アメリカ育ちでありながら日本人としてのアイデンティティーを持ち、日米両方の文化や価値観を野球を通じて体得した彼の言葉には、経験からくる説得力がある。
トロントという多文化都市やブルージェイズというチームの魅力について、彼は「多様性を尊重しながら一つのゴールに向かう力」を強調していた。これは、スポーツが持つ普遍的な力を象徴しているといえるだろう。また、現役選手時代から現在のフロント業務に至るまで、データやAIを活用しながらも、人の心やチームの一体感を大切にしているその姿勢は、新たなキャリアに果敢に挑む清々しさを感じさせる。
さらに、海外で育つ日本にルーツを持つ子供たちに向けたメッセージでは、「自分らしさを大切にすること」「無理に周囲に合わせず、自分の強みを誇ること」が成功の近道であると語り、深い共感を呼んだ。多文化が交わるトロントの街で、ブルージェイズの未来を支える存在として、新たなキャリアを切り拓く加藤豪将さんの今後の活躍がますます楽しみだ。


















