トロント対談 シカゴ・カブス 川崎宗則選手 × salon bespokeオーナー Hiroさん
日本人には「ムネリン」のニックネームで愛され、現在シカゴ・カブスでプレーする川崎選手。昨年までトロント・ブルージェイズ所属3年間に見せた、フィールド内外での常にパワー全開のパフォーマンスからジェイズファンのみならずMLBファンの心を鷲掴みにした。時にファンには不遇にも見える海外ならではの境遇の中、果敢に挑戦し続けていく川崎選手の姿は、日本人に多くの勇気も与え続けている。ジェイズ時代から公私共にお付き合いのあるHiroさんのオファーにより実現した対談。友人だからこそ聞ける・話せる、そんな貴重なお話を惜しみなく今回のTORJA対談インタビューで語って頂いた。
お二人の出会いについて教えてください。
川崎:ジェイズ1年目に僕のマネージャーがヒロさんとサッカー仲間だったようで、彼に紹介してもらいました。当時、ストレスからか円形脱毛症を抱えていたのですが、ヒロさんを紹介してもらい、本当に助かりました。
Hiro:シアトルでプレーされていた頃も、トロントに来られてからも川崎選手は坊主姿の印象が強かったので、まさかヘアカットを必要として、トロントで担当させてもらえるとは思っていませんでした。
川崎:僕自身は元気なつもりでいたんですが、体には変化が現れていた、という感じですね。今はもう、大丈夫です。ヒロさんと出会ってから、お互いに海外で頑張る日本人として、食事やお酒を楽しみながら色々な話をするようになりました。僕もヒロさんも性格がラテン系なので、いつも楽しく飲んでいますよ(笑)。
Hiro:はい(笑)、お互いのラテンのノリを更に相乗効果にして、いつも楽しませてもらってます!
トロントを離れられて数ヶ月たちますが、トロントという街は、川崎選手にとってどのような存在でしたか。
川崎:トロント、すごく好きですね。様々な国の人がいますし、メジャー1年目、シアトルで過ごした時よりも面白かったです。トロントに来てからたくさんのことを学べたと感じているので、僕にとってトロントは大事な故郷です。
Hiro:大事な故郷、と言っていただけるのはとても嬉しいですね。川崎選手がトロントで3年間我々に見せてくれた気持ち溢れるプレー、そして言葉がたとえ少し通じなくても臆せず挑戦し続ける姿勢は、多くの日本人、特に子どもたちに非常にインパクトがあるものだったと思います。実際に、僕の友人やお客様から「子どもたちが本当に勇気付けられた」という感謝の言葉をたくさん耳にしました。今年、カブスへの移籍が発表された際には、トロント市長が自ら「ジェイズに大きなエネルギーをもたらしてくれた。新天地でも頑張ってほしい」とツイートしたのは異例だったと思います。川崎選手が、トロントという街に多大な貢献をしてくださった証拠だと思います。
改めて、トロントを離れることになった際のお気持ちをお聞かせいただけますか。
川崎:トロントを離れるのは、すごく悲しかったです。ですが、僕も自分自身のため、まだまだ成長したいという想いがあり、こうして今はシカゴに来て新しい環境でまたチャレンジして頑張っています。トロントの人たちが、僕の新たな挑戦に対してたくさんの励ましをくれたことが非常に嬉しいですし、一人の野球選手としてこんなに幸せなことはないと思います。僕は自分のことが大好きで、野球が大好きでプレーしているだけなのに、たくさんの人が応援をしてくださるというのは非常に有り難いことです。
海外での野球生活は5年目を迎えられたと思いますが、ご自身で感じられる変化は何かありますか?
川崎:やはり1年目よりは、大分、いろいろなことが分かってきましたので、生活にも慣れてきたと思います。言葉についても5年前とは大分変化していますので、毎日とても楽しく生活しています。
Hiro:以前に比べ、英語も少しずつ上手になられて、選手同士のコミュニケーションも多くなるのではないでしょうか。コミュニケーションをとられる中で、何か新たに発見されたことなどありますか?
川崎:最初の頃は、日本と海外の野球環境は異なるものであって、投げ方ひとつ取っても、その方法は海外の野球選手にしかできないものだろう、自分には無理だ、と思っていた時期がありました。ですが、チームメイトと毎日同じものを食べて、毎日一緒に風呂に入って、ワイワイ時間を過ごしているうちに、「自分もやってみよう」という気持ちになったんです。もちろん最初からは出来なかったですが、挑戦し続けるうちに20回のうち1回はできるようになり…という調子で、その時に「今まで自分ができないと決めつけていただけだ」と気づきました。
メジャーリーガーと何か決定的な違いがあるか、と言ったら、そんなことはないわけです。僕だって小さい頃からこの身体でずっと野球を続けているんですから。一緒なんです。そう思うと、できないプレーなんてなくて、自分がやろうとしていなかった、知ろうとしていなかっただけだ、ということにこの5年間で気づくことができました。
Hiro:日々、まだまだ上達されている、プレーの幅が広がっていく、というのは自信にも繋がっていくのかと思いますが、プレーする上でのメンタル面についても選手同士で話をされるのでしょうか。
川崎:いいプレーをした時にはもちろんお互いに褒めるんですが、ミスをした時には、ミスをしたことに言及するよりも、トライしたことを褒める、という方法をこちらの選手はよくとります。ミスの原因を考えて、それなら次はこの方法でトライしていこう、という前向きな考え方です。日本で育った僕にとっては非常に新鮮な考え方でした。「ミスをしてはいけない」と思いながらプレーするのか、「トライしてみよう、いいプレーをしよう」と思ってプレーをするのか、どちらが良い結果に繋がるかと言ったら、もちろん後者です。ちょっとした違いですけれど、それだけで身体の動きが全然違ってきます。そんな風に、「こういう考え方でやればもっと楽しく、ストレスなくいいプレーをみなさんに見せられる」というメンタル面の持っていきかたもチームメイトには日々教えてもらっています。
Hiro:技術面はもちろん、メンタル面でも「トライしてく」という意識で自分自身の背中をどんどん押せるようになってきた、そのような変化をご自身で感じられているということですね。
川崎:はい。大事なのは自分のやりたいことを明確にして、それをもって思い切りプレーするということですね。グラウンドでいつ倒れるか分からないし、いつ大怪我をするかもしれません。何年も先のことなんてわからないし、何十年も続けられるなんて思っていませんから。明日やめてもいい、それくらいの覚悟で、楽しく野球をやっていたいですね。
プレー中のメンタル面はもちろん、川崎選手ご自身、とても強い、元気なパーソナリティをお持ちの方という印象があります。そのパーソナリティの裏側には、何か秘訣などあるのでしょうか。
川崎:特にないですね。(笑)そもそも、僕には強さよりも弱さがありましたから。これまで失敗して凹んだ場面は本当に何回もあります。僕は強くはないし、弱さがあって、ネガティブな部分もあります。その事実としっかり向き合って、どうしたらそのネガティブな部分を少しでもプラスに変えてプレーに活かせるのか、ということを考えています。ネガティブな部分もないと、人間ダメだと思っているので。もちろん失敗したり、弱気になることもありますが、それでも毎日元気な体でグラウンドに立つにはどうしたらいいか、そう考えています。実はこうした取材も良いきっかけになっていて、みなさんに話しているように見せかけて自分自身にも言い聞かせているんです。そういうのを自分の励みにしてやっています。
Hiro:こういった川崎選手の真摯で前向きな姿勢、オープンマインドな部分は本当に格好いいな、と凄く尊敬しています。プレーの幅を広げ、日々を楽しみ、たまに凹みながらも自分の新境地に向かっていく姿は本当に勉強になり、その姿勢は野球だけではなく、生きていく上での様々な場面に通じるものがあると思います。
川崎選手、Hiroさんともに、海外に出られてから改めて感じた日本への想いがあるかと思いますが、いかがでしょうか。
川崎:日本にいる時は、考え方が狭かったな、と思います。みなさんそれぞれ子供の頃から何かしら譲れない気持ちや考え方などあると思うんですが、日本にいるときにはそれを抑えることが美学であり、抑えることが人を傷つけない、そんな風に思っていた部分があります。自分の中ですごく窮屈だったなと、海外に来て思うようになりましたね。海外に来て、自分が元々持っていたものを解き放てた、というような感覚はあります。
Hiro:元々自分の中にあった想いをこちらに来て解き放てた、という感覚はとても共感します。日本では抑えつけていた「これをしてはいけない」という意識が、僕自身はこちらに来て「無駄になる、必要以上の遠慮はいらない」という意識が強くなました。僕の場合は髪を切る前に、お客様とコミュニケーションをとって理想の完成像を一緒に考えていくのですが、例えばバッサリ髪を切りたいお客様に、その切る理由を聞くか聞かないか、そういう場面で日本では遠慮をしてしまうかもしれません。こちらでは比較的、その理由をサラッと自然に聞くと思います。ただ、それと同時に日本で培った勤勉さや謙虚さといったベースも、失わずに大事にしたいと思っています。
川崎選手にとって、プロフェッショナル、とはどういうものでしょうか。
川崎:野球選手としてのプロフェッショナル、ということになりますが、とにかく元気に野球をプレーすること、そしてその姿をみなさんに見てもらって、楽しんでもらえることです。野球選手として色々な苦しいこともありますが、それは置いといて、野球って面白い、と思ってもらえるようなプレーをすることですね。
Hiro:楽しんでもらう、という面では、例えばインタビューで川崎選手が取り上げられた映像をたくさんの人が見て、多くのカナディアンや日本人が気持ち良く笑ったり元気をもらったりしましたよね。そういった場面を見て、どのように感じられましたか?
川崎:実は、僕自身が一番楽しんでいるんですよね。人が喜んでいるのが嬉しい、というよりは、自分が一番楽しんでいます。だから、「プロフェッショナルとは」と考えたときにはもしかすると、自分が一番プロっぽくないかもしれません(笑)。
Hiro:職業=川崎宗則、という感じでしょうか、誰にも真似できない唯一無二の存在だと思います。こよなく野球を愛し、フィールド内外で自分自身を素直に表現しているうちに、気付いたらたくさんの人を笑顔にさせているんですよね。外国人の中で果敢に挑戦していく背中を見て、日本の若者が海外に行こうと思うかもしれないですし、川崎選手のような方はすごく有り難い存在だと改めて感じます。僕自身、美容師のプロとして、川崎選手の姿勢から勇気付けられたことは数え切れないほどあります。職種は野球選手ですが、本当に色々な面を持たれた方ですし、この短期間でここまでトロントという地に爪痕を残した日本人はいないのではないでしょうか。
シカゴに移られた今でも、トロントには川崎選手のファンが大勢います。みなさんにメッセージをいただけますでしょうか。
川崎:皆様、トロントでは本当にお世話になりました。今は、シカゴで楽しく野球を続けています。たまにカナダ出身の人や、トロントから来たよ、と言ってくれる人もいて、僕はすごく嬉しく思っています。みなさんも色々と大変なこともあるかと思いますが、一生懸命、そして時々適当に、頑張ってください!
最後に、トロントや海外で夢に向かって頑張っている若者や、海外での生活に挑戦したいと思っている若者にもメッセージをお願いいたします。
川崎:飛行機に乗った時点で、自分探しは終了です。こちらに来たい、と思ったらパスポートを取得して、ビザが必要ならば方法を調べて取得して、チケットを確保し、空港への行き方を調べますよね。それらを経ているうちに、もうすでに自分は変わり始めています。海外に来たい、と思う人、一歩踏み出すことが大事です。悩んでいないで、チケットを買う、という一歩目を踏み出してみてください。
川崎宗則選手
日本プロ野球界での活躍を経て、2012年にMLBのシアトル・マリナーズへ移籍。翌2013年〜2015年まで、カナダのトロント・ブルージェイズに在籍し、フィールドでの活躍はもちろん、インタビューなどで見せる明るいキャラクターが多くの話題を呼び、現地のファンから高い人気を得た。2016年、カナダのファンに惜しまれながらシカゴ・カブスへの移籍を発表。メジャー5年目となる今年も、日々挑戦を続けている。
Twitter: @MuneKawasakiWB
Lineブログ: http://lineblog.me/mkawasaki/
Hiroさん
名古屋出身。日本国内のサロン数店舗を経て渡加。若い頃から憧れた、NYの有名サロンやVidal Sassoonからの誘いを断り、世界中に展開するサロンTONI&GUY(トロント店)へ就職。1年目から著名人の担当や撮影等も経験し、一躍トップスタイリストへ。その後、日本帰国や中米滞在を経て、再び、トロントのTONI&GUYへ復帰。クリエイティブディレクターとして活躍し、北米TOP10も受賞。2011年にsalon bespokeをオープン。今現在も、サロンワークを中心に著名人のヘア担当やセミナー講師としても活躍中。
salon bespoke Tel: 647-346-8468
130 Cumberland St. 2nd floor / salonbespoke.ca
PV: “Hiro salon bespoke”と動画検索