第44回トロント国際映画祭を振り返って|トロントと日本を繋ぐ映画倶楽部【第10回】

 今年のトロント国際映画祭()は、例年と少し様相が異なる部分と、やはりいつものTIFFだなと思う部分が共存している印象を受けました。そこで、今年のTIFFについて少し分析がてら振り返ってみます。

女性の映画製作者を増やした上映ラインナップ

 9月号の特集記事でも書いたように、今年のTIFFは女性の映画製作者による上映作品を多く取り上げた多様な上映ラインナップとなり、そのせいか北米中心の大作映画が影を潜めたような、全体的に小粒な印象がありました。

 この「印象」について、実際のところはどうだったのか、人気作品や注目作品が多く上映されるGala Presentations(GALA)部門とSpecial Presentations(SP)部門の上映ラインナップを分析してみました。比較のため、20年前(1999)、10年前(2009)、5年前(2014)と直近3年間(2017~2019)の上映作品を抽出。TIFF公式プログラムブックを参考に、それぞれ女性が監督した作品の本数と、各部門の上映作品総数に占める女性監督作品の割合を集計してみました。その結果が図のとおりです。

 特にGALA部門で近年、女性監督の作品数が顕著に増加しているのがわかります。1999年、2009年、2014年は、GALA部門で上映された女性監督による作品は1~3本で、平均するとGALA部門全体の10%程度でした。それがここ3年間は右肩上がりに増加し、今年はついに半数近い9本(45・0%)にまで増えています。

 TIFFが女性の映画製作者を支援する「Share Her Journey」の取組みを始めたのが2017年なので、女性が監督した作品の上映を意図的に増やしてきたのだろうなということがうかがえます。

 一方、SP部門の上映作品はというと、意外にも昔から女性監督の作品を一定数上映してきたことが見て取れる結果です。開催年によって上映部門の構成が若干変わるため、SP部門の上映本数が大きく異なる年もあるものの、SP部門では20年前から女性監督による作品を15%前後は上映しています。

 これは、昔から多様性豊かなトロントの地に根ざすTIFFだからこその結果ではないかと私は見ています。というのも、10年前の2009年の時点でも、プログラムブックに掲載されている21名のTIFFプログラマーのうち9名は女性。5年前の2014年には21名中12名が女性で、すでに6割近くのプログラマーが女性です。近年、世界的に女性映画製作者の活躍を後押しする動きを目にする機会が多くなり、今年の夏頃には、「TIFFのプログラマーの半数は女性です」といったコメントを目にしたこともありましたが、TIFFではずっと前から女性のプログラマーを多く登用しています。

 そんな中、少し気になったのがSP部門の直近3年間。2017年に始まった「Share Her Journey」の取組みを受け、2014年に13・1%だった女性監督作品の割合が、2017年には18・7%、2018年には24・2%と順調に増えてきたかと思いきや、今年は15・5%と減少に転じています。女性監督の上映作品を増やしていた印象があったのに、実はSP部門では逆に減少していたのは一体なぜか。これは私の推測でしかありませんが、例年であればSP部門で上映されていたような作品をGALA部門で上映することで、GALA部門で女性監督の作品を半数近く取り上げることに成功したのではないかと見ています。そして実はこのあたりに、今年の「女性映画製作者を多く取り上げた上映ラインナップ」と「全体的に小粒」という印象を受けた原因があるのではないかと私は考えています。

 世界的に女性映画製作者の地位向上の動きが出始めたのは、#MeTooや#TimesUpが活発化した2017年末頃。それまで女性映画製作者は、低予算で細々と映画を作っていたのではないかと思います。そんな中、#MeTooや#TimesUpの潮流もあって、TIFFのプログラマーも半数が女性であることをPRするようになり、GALA部門での女性監督作品の上映も増やしました。

 しかし、時期的に考えて今年の上映作品は、こうした潮流以前に製作を開始したものが多かったと推測されます。だから、女性監督による上映ラインナップを増やそうとしても、そもそも女性が監督した作品で完成披露試写が可能な作品が急に増えるわけがない。まして、例年GALA部門で上映されるような大作を完成させた女性監督なんて、すぐに増えるわけがない。結果、GALA部門で女性監督の作品を多く取り上げるほどに小粒な印象の作品が増え、例年であればSP部門で上映されていた女性監督の作品が減少した、というのが今年のTIFFの構図だったのではないでしょうか。

プレミア上映のメイン会場Roy Thomson Hall

プレミア上映のメイン会場Roy Thomson Hall

 特にGALA部門は、映画スターがレッドカーペットにやってきてプレミア上映が行われ、大衆に人気の話題作や大作が上映される部門です。SP部門も世界的な注目作のプレミア上映が行われる部門ではありますが、GALA部門の方がより豪華な印象があります。そんな中、例年であればSP部門で上映されていそうな女性監督の作品がGALA部門で多く上映されたことで、「女性映画製作者を多く取り上げた上映ラインナップ」という印象を受けると同時に、「全体的に小粒」という印象を受ける結果となったのではないかと思います。

 では来年以降はどうなっていくのでしょうか。映画業界での女性の活躍の場が以前より広がったと思われる現在、以前より多くの機会が女性監督にもたらされ、女性が携わる映画の予算規模も拡大していると考えられます。そんな状況下で製作が始まった作品が今後のTIFFで上映されるようになると、今は無名の女性監督が有名になり、新作を携えてTIFFに凱旋するようなことが、これからどんどん起こるのではないでしょうか。

 世界的に女性映画製作者の活躍の場が広がる方向に変わりつつある中、昔から多くの女性プログラマーを配して多様な作品を上映していたTIFFにとっては、さらに上映作品の選択の幅が広がることになるはずです。つまり、男性であれ女性であれ、才能豊かな映画製作者が世に出る機会が拡大し、われわれ映画好きにとってはTIFFで素晴らしい映画に出会える可能性が広がっていく。そんな未来が期待できそうです。

ジョジョ・ラビットから考察する観客賞

 今年のTIFFは、『ジョジョ・ラビット』が観客賞を受賞して閉幕しました。ちょうどTIFFの開幕直後に『ジョーカー』がベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞するなど、前評判の高い他の作品があった中で、『ジョジョ・ラビット』の受賞は少し意外性をもって受け止められていました。しかし、過去の観客賞受賞作の傾向を考えると、私は今年の受賞作にとても納得しました。そこで、今年の受賞作を振り返るとともに、TIFFで観客賞を受賞する作品について考察してみようと思います。

『ジョジョ・ラビット』が上映されたPrincess of Wales Theatre

『ジョジョ・ラビット』が上映されたPrincess of Wales Theatre

 TIFFの観客賞受賞作には、重要な要素が2つあると私は思っています。ひとつは、「だって面白いもん」というもの。もうひとつは、「思わず主人公を応援したくなる」というもの。

 「だって面白いもん」というのは、観客目線で最初から最後までとにかく泣いたり笑ったり、楽しめるということ。娘を殺された母親の悲痛な話ながら人間模様が滑稽だった『スリー・ビルボード』しかり、人種問題を描きながら主人公2人の道中が絶妙に面白かった『グリーンブック』しかり。『ジョジョ・ラビット』も、第二次世界大戦中のユダヤ人迫害を取り上げながら、終始ユーモアにあふれていました。

 次に、「思わず主人公を応援したくなる」というのは、観客が思わず感情移入し、最後には主人公に拍手喝采を送りたくなる、ということ。一昨年の『スリー・ビルボード』や昨年の『グリーンブック』でも、まるで主人公を応援するかのような拍手が上映中に起こっていました。

 ここ10年ほどの観客賞受賞作を振り返ってみても、どれも思い当たる節があります。映画界と音楽界で成功を夢見た恋人同士の行く末が描かれた『ラ・ラ・ランド』、長年にわたり監禁されていた地下の一室での生活から突然世間に放たれた母子を描いた『ルーム』、吃音症に悩みながらも職責をまっとうしようとする王を描いた『英国王のスピーチ』など、どれも思わず主人公を応援したくなる作品ばかり。

 今年の『ジョジョ・ラビット』では、心優しい性格ながらナチスの思想下にあった少年が次第に人間らしく成長していく様子が描かれ、やはり少年を応援したくなります。
 この点、批評家に好評だった『ジョーカー』の場合、トロントの観客は主人公の心情を理解することはできても、殺人鬼を手放しで応援することができなかったのではないかと思います。

 批評家の評判と違って観客の素直な評価が反映されるTIFF観客賞を受賞するのは、その面白さに虜にされて、思わず応援したくなる映画。それは結局、映画として優れていることが多いから、アカデミー賞の受賞にもつながっていくのかなと思います。

TIFF観客賞受賞作

『ジョジョ・ラビット』

監督: タイカ・ワイティティ
主演: サム・ロックウェル、スカーレット・ヨハンソン

 ヒトラーが空想上の友人であるドイツ人少年の自宅に、ユダヤ人少女が隠れていて…という風刺コメディ。『マイティ・ソー/バトルロイヤル』の監督で有名なタイカ・ワイティティ監督が、本作ではヒトラー役を演じています。

みえ

 大阪在住の映画好き。好きな監督の日本未公開作見たさに日本語字幕なしの輸入DVDを見始めたのが約20年前。さらに、未公開の最新作見たさに約10年前からトロント国際映画祭に行くようになり、映画三昧の今に至る。