1. カナダではなぜ ストライキが 多い?|第一特集「カナダの“なぜ”に迫る第2弾」#数字で見るシリーズ
ターニングポイントはパンデミック
2021年以来、カナダでは労働組合のストライキが増加傾向にある。最近なら「LCBO」や鉄道会社など、ニュースで耳にしたことがあるかもしれない。
2023年だけでもストライキによって従業員らが出勤できないケースがなんと745回もあった。
その背景には何年も続くインフレと物価の上昇がある。つまり労働組合はストライキというアグレッシブな手段をとってでも組合員の生活を守らなければいけない状況にある。
エッセンシャルワーカー(人々の生活に必要不可欠な労働者)なのにも関わらず、彼らの賃金の停滞と不十分な手当てはもう何十年と続いている。パンデミックでエッセンシャルワーカーへの敬意が深まった今だからこそ、労働組合には交渉力があると考えられている。
賃金アップだけでなく、労働環境の改善も求められている
今年の春から夏にかけてCanadian National Railway(CN)とCanadian Pacific Kansas City(CPKC)、そしてその労働組合が新しい契約の合意に向けて交渉をし続けてきた。しかし合意には至らず、従業員1万人が職場からロックアウトされた。鉄道は人々の交通手段なのはもちろん、毎日10億ドルもの貨物輸送にも使われている。あまりの損失の大きさが懸念されるためロックアウトは17時間で連邦政府によって停止された。
今回の交渉で組合にとって一番重要だったのは従業員の疲労軽減による安全確保と働きやすさだった。この仕事は長距離トラックの運転と同様で十分な休息時間がないと危険な仕事だ。それだけでも大変な彼らにCanadian Nationalは人手不足を理由に数ヶ月の引っ越しすることを強要していたそうだ。
インフレとストライキの関係
インフレ率が高まり始めたのは2020年7月。コロナ禍によるサプライチェーンの停滞やコストの上昇、ウクライナでの戦争、地球温暖化などが引き金となった。
今年8月、カナダのインフレ率はカナダ銀行(中央銀行)が目標としていた2%に低下。カナダがこの数字を見るのは2021年2月以来のことだった。
パンデミックの終わりごろ、失業率は低下していたがインフレ率は続いて高い数字をキープしていた。住宅価格に加え食料費も高騰したため、労働者たちのフラストレーションは高まる一方だった。
しかし労働者たちが求めるのは賃金の値上げだけではない。労働環境の改善も彼らの大きな要望の一つだ。
会社を一番よく知るのは従業員だと知らせた
「LCBO」のストライキ
今年7月に起きた「LCBO」のストライキでは珍しい要求が見られた。労働者たちは賃金アップやフルタイムなどの安定した職を増やすことに加え、企業の運営を見直すことを要求した。
特に流通の増加とネット販売のキャパシティを増やすことを勧めた。
このストライキが起きたのはオンタリオ州のアルコール販売に関する規制が緩和する2ヶ月前。コンビニエンスストアでも酒類が買えるようになるという大きな変化に向け、従業員らは自分たちの職場を守るために企業の運営の改善を求めたのだ。
2週間続いたストライキの終わりに会社側は流通に関わるパート従業員を60人増やし、これまで必要な時にだけ働きに来ていた「Casual Employee」たちおよそ1000人のポジションをシフト制のパートタイムにすることを約束した。そして3年越しで8%の賃金アップはもちろん、法律が変わってもどの「LCBO」支店も閉店しないことを従業員に伝えた。
規制緩和で自分たちの職場の変化を先読みした従業員らは会社がどう生き残れるかも提案することで自分らが会社を一番よく知っているとアピールした。
懸念されるドミノ効果
ストライキが増えるようになってから心配されているのは、一つの組合がストライキを行えば他の組合が「一緒にやるべきだ」と思うように刺激を与えてしまっていることだ。
人々の日常に大きな影響をもたらす鉄道やトロント教育委員会(TDSB)などのストライキは特に避けてもらいたいものだ。
航空会社のエア・カナダも今年9月、操縦士5000人余りを代表する労働組合があと少しで会社側と合意に至らないところだった。ストライキはギリギリで回避され、一日1,000便以上に影響が出ることから免れた。
例え意義のあるストライキでも、生活が不便になるのは誰も望んでいないのではないだろうか?