有料予約はスタンダードになりうるのか?|カナダのしがないラーメン屋のアタマの中 第69回
今年2月、日本で飲食店向けの予約・顧客管理システムを提供するTableCheckが、人気店の行列に並ばずに確実に入店できる、有料の優先案内サービス「テーブルチェックファストパス」の提供を開始しました。
お客さんがオンラインで事前に数百円の手数料を支払うことで、1、2時間は当たり前に待つという有名店に、並ばずに入店して食事を楽しめるというサービスで、訪日外国人や遠方からわざわざそのお店が目当てで来られるお客さんの、お金を払ってでも確実に入店したいというニーズに着目した予約サービスです。
僕も日本に一時帰国する際、勉強のためにたくさんのラーメン屋さんを訪れるのですが、やはり行列を見て断念することもあり、それが遠方のお店であればあるほど、その時の徒労感はなかなかのものです。ですので、たかだかチップぐらいの金額で入店が約束されるなら、何ならもっと払ってでも良いと思えるほど欲しかったサービスです。
お店としても、これまでと提供する商品は変わらず、行列はあるもののなかなか値上げにも踏み切れないという状況であれば、シンプルに手数料が新たな収益源となり、行列をさばく手間も省けるためメリットしかないように思えます。
払いたい人だけが払って席を確保するので、顧客満足度の向上につながり、新たな収益源が生まれるということであれば、カナダでもこういったサービスをぜひ試してみたいと思う一方で、どこまでこのシステムが定着するかという懸念もぬぐえません。
というのも、ディズニーランドを彷彿させるファストパスというサービス名や、有料案内サービスという呼称、またUberなど需給の変動をリアルタイムに価格に反映させるダイナミックプライシングの文脈で宣伝されているこのサービスですが、要するに、一言で言えば有料予約サービスということになります。
あらゆるモノが売り物になる資本主義において、たしかに時間は売り物になるし、それはお金で買えると言えますが、逆にこれまで、あっても良かったはずの有料予約サービスがなかったのには、それなりの理由があるのだろう、と考えるのがもしかしたら自然なのかもしれません。
サービス提供者もそれを重々承知しているがために、キャッチーな名称や目新しさを帯びた売り方をしているのではと想像します。
すなわち、なぜ有料予約サービスと声を大にして売ることが出来ないのか。それは、納得してお金を払う利用者と、それによって利益を得るお店側の、文字通り外側にいて長時間ならんでいるお客さんのネガティブ感情への配慮なのではないでしょうか。より分かりやすく言えば、「時は金なり」はその通りなのですが、このお店はよりお金を払う人を優遇するんですね、という微妙な心情に対する落としどころを探ったのではないかと思います。
それでもお客さんとしてぜひ利用したいのはもちろんのこと、お店としてもやはり試しに導入してみたいという考えは変わりません。
たかだか呼び方の違いですが、かつてAppleが超コンパクトなパソコンをiPhoneという馴染みのあるキャッチーな名前で世界に浸透させたように、有料の優先案内サービスは市場に定着するのか、はたまた問題の本質がおぼろげながら見えてきた今、お店としてそれを解消する手立てがあるのか、もうしばらく経過を見守る必要がありそうです。