ボリュームニーズ、二極化する価値と飲食店のリアル|カナダのしがないラーメン屋のアタマの中 第83回
先月、日本のマクドナルドでLサイズを超えるポテトとドリンクのグランドサイズが期間限定で復活しました。カナダのマクドナルドでも昨年、「Big Arch」と呼ばれる特大バーガーが登場しましたが、これらは単なる一過性の企画ではなく、明確な市場ニーズに応えた施策です。
前回は、「料理は4割にすぎない」という言葉をきっかけに、体験価値の重要性について考えてみましたが、今回はその対局にある流れ、すなわち、大盛り無料、爆盛り弁当、ボリュームこそが価値だという「ボリュームニーズ」のお話しです。
ボリュームニーズとは、価格に対して満腹感や量的満足を求める需要のことです。爆盛り弁当や、ご飯と揚げ物だけで構成されたシンプルな弁当が売れ、ドン・キホーテの「偏愛めし」シリーズのような尖ったボリューム系商品が話題になります。SNSやYouTubeでも「爆盛り」や「メガ盛り」、またそれに関連した大食い系のコンテンツはウケやすく、ゆえにスポンサーがつきやすいという事情なんかもあるかもしれません。
とにもかくにも、特に若年層を中心に、安くて量が多いコスパこそが正義という空気すら感じてしまいます。物価高・経済停滞の中で「どうせお金を使うなら腹いっぱいに」という選択が、ボリュームニーズを生んでいるのです。
ボリュームニーズ or 質・体験志向

そして一方で、前回のコラムで書いたような、空間の価値や上質な体験を求める「質・体験志向」の流れも並行して存在しています。つまり、飲食業界では明確な二極化が進んでいると言えます。これはただの嗜好性、好みの違いにとどまらず、経済状況を反映しているのかもしれません。どういうことかと言うと、ある程度の経済的余裕がなければ「体験にお金を払う」ことは難しいです。つまり「質・体験志向」は生活や収入がある程度安定していて、さらに余裕がある層の特権的な選択といえます。対して、量やコスパを求める「ボリュームニーズ」は、合理的な生存戦略なのかもしれません。
とはいえ、飲食店の立場からすると、ボリュームニーズに応えるだけでは持続性は担保できません。なぜなら、量や価格で勝負するビジネスは、言ってしまえば「ただの安売り」にもなりかねないうえに、量を増やせばいいのですから、真似されやすいという特徴もあります。「All you can eat」に代表されるようなボリューム戦略は、原価管理・オペレーション・客層設計など、高度な仕組みがないと利益が出にくいのです。
雷神でも元祖・爆盛りという立ち位置の二郎系ラーメンを提供しており、ここトロントでも二郎系のお店が増えてきました。日本では二郎系ラーメンが相変わらず人気ですが、その裏で倒産件数も増えています。二郎系はただ量が多いだけというわけではなく、その他にも独自の魅力があるのですが、それはさておき、量だけを武器にするとお客さんが慣れた瞬間に量のインフレが起き、さらに量を増やさなければいけなくなります。それが他店との競争に陥ると、最終的にチキンレースにもなりかねません。
飲食業はいつの時代も、その時代の空気を読んで、世の中が求めていることを提供するお店が生き残ります。その意味で、飲食店は常に時代を映しているのかもしれません。ボリュームニーズの高まりは、生活者の合理的な判断の表れといえばそうなのですが、それが豊かさを映しているかというと、経済の停滞や人々の余裕のなさを反映しているようにも見えます。
自分自身、若いころはとにかくお金がなかったので、若い人や学生さんに、コスパの良いボリューム満点のラーメンでお腹いっぱいになってほしいという想いはありますが、昨今のボリュームニーズの高まりに対しては複雑な心境を抱いています。






