2014年、トロント日本食ブームは焼き鳥と鶏らーめんの「鶏業態」の予感!
つい数年前まで日本食=寿司・天ぷらのイメージが強かったトロントだが、2010年頃を境に居酒屋ブームが始まり、この1−2年はらーめんブームがトロントの日本食レストラン市場を盛り上げてきた。昨年後半頃から居酒屋ブームも一段落の様相をみせ、居酒屋・らーめんに関しては、人気店が2号店をオープンしたり、3号店の準備に入るなど、あらたな日本食レストランビジネスの展開に入っている。その中で、近年のヘルシー志向や様々な人種・宗教の人達が存在する多民族都市のトロントならではの食材として、TORJA編集部では鶏に注目し、「鶏業態」が今年のトロントの日本食レストランのブームを支えると予想し、鶏メインのビジネス展開をする注目店を取り上げてみたい。
★焼き鳥ビジネス戦国時代
“串打ち三年、焼き一生”といわれる焼き鳥の世界は、鶏肉が均一に焼けるように身を串に刺す技術、そして焼き上げる技術が必要とされており、ひとつひとつの素材をジューシーに提供する焼き鳥店にはその道の職人が必要というところがポイントのひとつだ。このような背景から、本格的焼き鳥を提供できる店はごく限られていたのがトロントであったが、ここ数年の日本食ブームから色々な日本食業態が少しずつ広がりをみせ、その代表格に炭火で本格的に調理する「焼き鳥」業態が挙げられる。
トロントで焼き鳥が広く知られる火付け役になったのが、バンクーバーで大繁盛の焼き鳥店『ざっ串』を2店舗展開するZakkushiグループだ。日本食の激戦区バンクーバーで本格炭火焼きの焼き鳥を提供している同店がトロントに進出してきたのは、2012年。本格炭火そして種類豊富な串料理、居酒屋の要素を取り込んだ一品料理の数々はすぐに大きな反響となり、週末には行列もみられるほどの大盛況ぶりだ。同グループは、らーめん店の雷神、すし業態のすしやも傘下にもち、幅広い業態でトロントの日本食シーンをリードしている。
また、日本食ブームがトロントに到来する前からノース方面で圧倒的な人気を誇って来たのが『Ju』だ。同店はJ-Town内に位置し、居酒屋メニューとともに、本格炭火で調理する焼き鳥として長年多くの根強いファンを持つ。焼き鳥だけでなく、手羽餃子や鶏塩らーめんなど同店でしか食べられないお手製のメニューの他、ランチ時の焼き鳥丼などは非常に人気が高い。同店は現在敷地内で店舗の拡大を予定しており、まだ具体的なスケジュールは確定していないものの、現在の席数より約20席程度大きくなり、多くの人にさらなる居心地の良さと料理を提供してくれるだろう。
ダウンタウンでは今年はトロントの居酒屋ブームを作り上げた『Guu』トロント店を傘下に持ち、大繁盛らーめん店の『金とんらーめん』、寿司・刺身などを提供する高級感ある『JaBistro』を展開するKinka Familyの動きも要注目だ。彼らが第4のブランドとして先月オープンした焼き鳥業態『kintori』が今非常に賑わいをみせている。コリアタウンに位置する金とんらーめんの二階にその店はある。35席と小さな店ながら店内は同グループらしい元気のよいスタッフとオープンキッチンの迫力で活気に溢れている。一本ずつ串打ちされた焼き鳥はもちろん、鶏の一品料理まで創意工夫されたプレゼンテーションで食事を楽しめ、他傘下店と同様、ローカル層の心をつかむのが非常にうまい。同グループの特徴であるボリューム感を意識した素材の大きさと焼き手の絶妙なバランスは非常に満足度高い。
またエグリントンにあるSake Bar Kushiは少し落ち着いた雰囲気を出しながら、焼き鳥などの串料理を提供している。色々な催しが行われており、特に人気が高いのが、毎週火曜日は焼き鳥が半額になるキャンペーンの実施だ。今まで焼き鳥や居酒屋を少し高価なものと捉えていた客層にも積極的にリーチしている。
各店それぞれ繁盛店だけに色々な試みもしているが、前述したように焼き鳥業態は串打ちや焼き手に技術がある人が必要なため、競合店がひしめきあうということはなかなかないと予想される。だからこそ焼き方、ボリュームが納得の焼き鳥がウマい店や、食材である鶏の各部位を美味しく提供できる店を中心に今年のトロントの日本食のトレンドを作っていくのではないだろうか。
★鶏をベースにしたらーめん店の展開
トロントではこの2−3年で豚骨ベースのらーめんが急速に成長を遂げ、一大ブームを作って来た。その盛況ぶりはまだまだ止まることを知らないが、その一方で、 鶏ベースのらーめんが人気を帯びてきている。鶏は他のお肉よりもヘルシーな食材として知られ、またあまり宗教を問わず、多くの人に受け入れられている食材である。ローカル層に非常に親しみのある鶏をメインに、日本食ブームの話題にあがるらーめんとなると、多くの人がトライしてみたくなるだろう。
まずその鶏ベースのらーめんを早くからスペシャルメニューなどで提供してきたのは、焼き鳥のセクションでも話題にあがった「Kinka Family」が展開する「金とんらーめん」だ。1号店で豚骨らーめんを軸に行列のできる店となり、スペシャルメニューなどで積極的に鶏ベースのらーめん開発を進めてきた印象がある。同店のウリである、スタッフの元気なサービスやボリューム、プレゼンテーションの喜ばせ方などは同グループならではの特徴があり、豚骨ベースのらーめんは一度食べたらクセになる味で、多くのファンを持つ。コリアタウンにオープンした2号店では、らーめんラバーが集まる同店らしく、本格的に商品開発された鶏ベースのらーめんが黄金に輝くスープに見えるプレゼンテーションでグランドメニューに入っている。
さらに昨年鶏白湯(チキンパイタン)の専門店としてユニバーシティAve×クィーンStウエストにオープンした「Touhenboku Ramen」は様々な人種のローカル層で賑わいをみせている。同店のウリであるコラーゲンたっぷり、無添加の自家製鶏ガラスープは、自家製麺にしっとり絡み合い、好評だ。濃厚な深みあるスープながら、後味は重くなく、また味噌や塩、醤油などとのブレンドにより多くの人の好みに合わせることができる。同店は現在エグリントンエリアで2号店を準備中とのことで、今まで本格的ならーめん店はミッドタウンからノースにかけて皆無だったことから、ヘルシー志向でトレンドを追いかける女性や若者を通して、鶏業態のらーめんに更に火がつくのではないだろうか。
またレストラン通りとして知られるBaldwin Stに金とん同様、らーめん店を構える「Ryu’s Noodle」は鶏ガラや豚骨などをミックスして作るオリジナルのスープだ。鶏ベースらしいあっさり感を持ちつつ、濃くのある飲みやすいスープに仕上がっており、 さらに同店のチキンチャーシューは真空調理で手間をかけた一品だ。そして商品も定番のグランドメニューの他、季節に合わせたつけ麺などの変化をしており、仕込みとのバランスを考えた商品展開は注目に値する。
他にも焼き鳥で取り上げた「Ju」は鶏らーめんを1−2年前の豚骨らーめんブーム時からメニューに取り入れ、そのあっさりした深みのある味は日本人だけでなく、ローカルの年配層からも支持を集めている。
鶏は食材として余すところなく、すべてが美味しく食べることができる魅力的な素材であり、また白ワインや日本酒などとも抜群に相性が良い。鶏のスープはデリケートゆえに取り扱いに難しいが、スープを作る仕込みには豚骨ほどの時間がかからず、時間的な効率の要素は大きい。焼き鳥業態も世界中で寿司・天ぷらに続く第3の日本食の代表として人気を博しており、鶏を上手に扱える職人、もしくは人材が育成できれば競争相手がなかなか真似しにくい業態だけに、これからさらにヘルシー志向、日本食への意識が高まる中で、多くの人の支持を集めるチャンスがあると思う。