手に職でカナダで活躍。
努力を重ね誰にも負けないスキルを身につけたSkilled Person。手に職をつけた人材は海外でも活躍できる可能性がたくさんあります。日本で培った技術を活かし、カナダで活躍する美容師と整体師のお二人の海外でのチャレンジを語ってもらいました。
日本とロンドンで腕を磨いたヘアスタイリスト。独立して1周年、その軌跡
美容室balance オーナー斎藤 幸宏さん
Finch駅近くに昨年1月にオープンした美容室balance。1周年を迎えるこの店の オーナーの幸宏さんはトロントに来て8年が過ぎる。トロントに来たきっかけは家族での移民だったが、日本人ヘアスタイリストとしてのスキル、また海外での経験がアジア人だけでなく、カナダ人や欧米人などの層からも支持を集めてきた。
幸宏さんは美容師ブームが起こる直前にアシスタントからスタイリストになった。東京のその店は数々の有名人も来店し、店は賑わい、幸宏さんも人気スタイリストとなっていった。欲しかったバイクを走り回し、ある日事故に遭い、2ヶ月入院したことで転機が訪れる。店のオーナーが幸宏さんを訪ね、「お前はなにがやりたいんだ・・・」と問いかけたという。技術がやりたいと返答した幸宏さんに、オーナーはイギリス・ロンドンのヴィダルサスーンを紹介。2年間ロンドンで徹底的に技術を磨いた。「うまい人はたくさんいます。でも日本のスタンダードは外国では通用しませんでした。ロンドンでは名刺をもって毎晩クラブに行き、営業に励みました。選んでくれるのはお客さん。お客さんに選ばれるコミュニケーション能力や技術などの総合的な能力がないと、ただの自己満足で終わってしまうと思います。」
その後地元仙台に戻り、友人と共同で美容室をオープンする。「当時仙台には10000人ほどの外国人がいました。ロンドンでの経験を活かし、英語で接客をし、リクエストにも応えることができるという僕らの店は、彼らにとって居心地のよい店として評判になりました。」
カナダ移民後、ジューイッシュ・コミュニティで腕を奮ってみたいと考え、Lawrence×Avenue近くのサロンで2年ほど働き始め、その後エグリントンでレントチェアーと呼ばれるサロンの一部を借りてお客さんを集めながら働いた。まさに頼れるのは自分の腕一本の世界で様々な人種、世代が集うエリアを渡り歩き、独立に至った。
幸宏さんは毎年自分はうまくなっていると断言する。お客さんがお店に来店していただいてなんぼの世界だからこそ、常に勉強なのだそうだ。第三者的な目で自分をみながら、自分自身とお客さんと世間=マーケットにうまくバランスを保っていこうと心がけている。だからお店の名前もbalanceだそうで、こだわりとフィロソフィーがそこにある。
次のステップはトロントでの開業、日本の恩師の技術を伝えるために
Ashtanga Yoga Centre Manual Medicine Therapist 土川 貴之さん
Lawrence駅近くにあるAshtanga Yoga Centre of Torontoでトレーナーとして働く土川貴之さん。アシュタンガヨガとは、運動量の激しい上級者向けのヨガ。患者さんの身体構造はまるでアスリートだそうで、どれほどハードなものかが伺える。
日本では鍼灸マッサージ師・柔道整復師の国家資格を持つ貴之さん。大学在学中に今の道に進むことを決め、大学卒業後の6年間は専門学校に通いながら、整形外科で働く日々が続いた。「30歳で開業」という目標に向かって、寝る間も惜しんで勉強した。そんな中、整形外科医・医学博士である松本不二生先生が考案した治療法、ASTR“アスター”(Active,Soft,Tissue,Release)と出会う。それまでも多くの知識や技術を修得してきた貴之さんだったが、斬新な治療体系に驚いた。それから3年間松本先生の元で働き、多くのことを学ぶ。「残念なことに、我々がいる手技療法や鍼の世界では理論を科学的に証明することが難しく、思い悩んでいました。そんななか、医師が手技療法を行っていることが大きなポイントでした。松本先生は医師の目線で手技療法を深く掘り下げて考え、科学的理論を基に体系的にまとめて下さいました。ASTRは”痛みの原因を根本から解決する”ことを大切にしています。治療するにはどうすれば良いかをまず考え、痛みの原因を細かい触診などの評価法によって解決していく、それは正に自分が求めていた治療法でした。」
ある日、カナダ大使館の外交官が患者として訪れ貴之さんの施術を気に入ってくれた。その方がトロントに戻る際、貴之さんにトロントでの開業を提案する。日本で30歳で開業、その目標がもうすぐというときの新しい道への選択に悩んだ。すぐトロントにリサーチで訪れ、可能性があると感じた貴之さんはトロントに来ることを決意する。
トロントに来て間もない頃、アシュタンガヨガを行う患者さんを施術し、彼女の身体の状態に驚いたそう。「筋肉は硬直していて、リラックスの為に行うと思っていたヨガのイメージは塗り替えられました。その患者さんが通っていたのが今働くAshtanga Yoga Centre of Torontoで、オーナーのDavidに自分の技術を認めてもらい、こちらで専属のトレーナーとして働くことが決まりました。」
その後貴之さんはすぐ移民ビザ申請を行った。移民ビザが取得でき次第開業する予定だ。松本先生のもとで学んだASTRをトロントの人々に伝えるために。
「『アシュタンガヨガパーソンのための治療法』というものはどこにもなかったので、機能解剖・運動生理学をもとに治療法を自分で見出すことがとても楽しいです。ASTR は痛み・しびれ・関節可動域制限に対してとても効果的なので、これらの症状を持つアシュタンガヨガパーソンに必要とされているのだと思います。改めて松本先生に感謝の気持ちでいっぱいです。」
確かな技術や知識を持つ人の元で学ぶこと、その人を探す努力を怠ってはいけないと貴之さんは言う。厳しい環境に自分を追いやることで、次のステップが必ず見えてくる。貴之さんの確かな技術が、トロントで大活躍する日も近いだろう。