第二特集「トロントと。建築と。」2022年はデザインに注目

近年、ビジネスの世界でも注目されているデザインというキーワード。クリエイティブ力、アート性そしてデザイン思考は私たちのライフスタイルや教育、生活環境にとって重要なものになってくるだろう。今号ではトロントを代表する建築物を紹介する。
空間の捉え方が日本とは異なると随所で感じるトロントの建築デザイン

例えば、建築の周辺の空間、余白の部分の計画の仕方や、建築自体の空間構成も大きな空間を作り、その空間をつなげていく構成の仕方などの点は日本で一般的に目にするものとは異なる点が多く、面白いなと感じていました。
トロントで生活してみると、こちらの人は日本の人より人生の楽しみ方を知っているような気がします。トロントの建築もそんな彼らが使うことを想定してつくられているため、納まり方で違いが出てくるように感じました。

長年、トロントに住む友人から近年建つコンドミニアムは奇抜な外見のものが増えていると聞きました。確かに少し街を歩くと築年数の新しそうなコンドミニアムは外装が有機的なデザインをしたものが多く目に止まります。
日本ではあまり目にしない建築が多い2つの理由
1つは「地震がほとんどない地域柄」です。日本ほどの高度な耐震の制約を受けていないことがデザインに与える影響は大きいと考えられます。2つ目は「この数年で飛躍的に伸びている新技術を用いた設計手法」です。BIMと呼ばれるシステムは英米を始めとする英語圏での導入が圧倒的に進んでいます。コンピュータ性能の進化に伴い、今までとは異なる手法で建築をつくることが可能になっています。これは日本では遅れている分野です。これまで見たこと無かったような曲線を多用したデザインも可能になりました。
建築史に影響を与えた建築はどうしても欧米圏に多く残っています。地理的にその影響を日本より受けている点を考慮するとまた見方が変わります。
ダウンタウンのトロント大学周辺には未だにビクトリア様式の影響を受けた建築が残っていることも興味深いと思います。新しい建築が絶えず建設されている傍ら、昔からの建築も多く残っており、その新旧のコラボレーションを楽しめる貴重な場所だと思います。
古い建築も新しい建築も日本とは異なる文脈の中で生み出されてきたものですから、日本でよく目にするつくり方と比較すると細かな部分で違いが出てきて興味深いと感じます。
Q 一般の私たちはどのようなことを意識して建築デザインに触れ合えば、より一層魅力や面白みを感じることができる?
A 気になった建築を気軽に調べてみると魅力を知れると思います。建築名をインターネットで調べるでも良いですし、もしトロント図書館で調べることができるなら、より詳しい情報にアクセスできます。その建築がいつ建てられたのか、誰が設計したのか、といったその建築のルーツを知ると普段見えてこない別な側面が見えて楽しめます。
また、そこまでできない時でも、自分だけのお気に入りな部分を探してみるのも面白いと思います。可能なら実際に現地を訪れて、階段の手すりのこの形が好きとか、エントランスの照明の形がかっこいい、自然光の差し込むこの場所が気持ちいい、夕方のこの角度から見るデザインが好きなど、普段考えもしない視点から普段見もしないところをよく観察してみると面白い発見に気付けるかもしれません。
Shinさんが選ぶトロント建築デザイン10選
1
Toronto City Hall (1965)

トロント市庁舎
代表的な設計者: Viljo Revell
トロントを象徴する場所の一つ。庁舎は国際コンペにより42カ国計520のデザイン案の中から現在の案に決まったという経緯がある。中央の円型の議事堂とそれを囲む高さの異なる2棟のビル、そしてその周りを囲む回廊で構成されている。印象に残るフォルムはトロントのランドマークとして機能している。

2
Toronto-Dominion Centre (1991)

ドミニオンセンター
代表的な設計者: Ludwig Mies van der Rohe, John B. Parkin, B+H Architects
在トロント日本国領事館も入居しているビル。きっと利用される方も多いのでは?近代建築の巨匠3人のうちの1人として有名なミース・ファン・デル・ローエによる設計。漆黒の洗練された摩天楼が印象的でスチールのファザードがカッコいい建築だ。外装のこの縦に走るマリオンと呼ばれる部分の断面がI字になっている。この建築ができて、トロントのダウンタウンに幾つもの高層建築が立つようになったことから、トロントの街に与えた影響は計り知れない。似た建築がアメリカ・シカゴにもある。

3
BCE PLACE (1992)


BCEプレイス
代表的な設計者: Santiago Calatrava, B+H Architects
ビルの狭間に増築した建築。設計は構造に強みを持ち、生物の骨格をモチーフに斬新な建築を作り続けているサンティアゴ・カラトラバによるもので彼らしい建築と言える。自然光が差し込み明るく美しい空間が広がっているのが印象的だ。PATHでユニオン駅までつながっているので雨の日でもアクセス良好。カメラを構えた旅行者をよく目にする場所でもある。
4
Gooderham “Flatiron” Building (1892)
グッダーハム・ビル
代表的な設計者: David Roberts Jr.
三角地に建つ不思議な形をしたビル。もともとは蒸留所の事務所として使われていた。ユニオン駅からセント・ローレンス市場へ行く途中で見ることができる。背面の壁画はトロント出身のアーティストDerek Michael Besantによるもの。ロマネスク様式のコーニスとフリーズやフランスゴシック様式のアーチがみどころ。入り口が3つあるそうなので、外周を歩いて探してみては?!
5
OCAD University
-the Ontario College of Art and Design University (2004)
OCAD大学
代表的な設計者: Will Alsop, Carruthers & Wallace Ltd
奇抜なデザインが目を引く。空中に浮かぶ箱に多くの色鉛筆が突き刺さっているかのようなデザインは独創性に溢れている。歴史ある美大のキャンパスとしてはなかなか斬新。重たそうなボリュームを宙に浮かせ、視界が抜けることで軽みが出ている。設計は英国人建築家ウィル・アルソップによるもの。
6
AGO
-Art Gallery of Ontario (1900)


オンタリオ美術館
代表的な設計者: 2008年Frank Owen Gehryによる改修
近年、フランク・ゲーリーによる増築が行われ、内装が一新されたことで有名。設計者のゲーリーはアメリカのウォルト・ディズニー・コンサートホールの設計などで有名な今きている建築家の1人で、実はトロント出身。ゲーリーにとってはカナダで初めての建築となるAGOは湾曲した集成材で構成されたギャラリーが印象的。空間を構成するそれらの部材はそれぞれが微妙に角度が異なる。それゆえAGOは「北米で最も複雑な木造建築物」とも呼ばれている。中心に配置されているユニークな螺旋階段を登ってみるのもおすすめ。不思議な感覚を楽しめる。
7
ROM
-The Royal Ontario Museum (1914)


ロイヤルオンタリオ博物館
代表的な設計者: Daniel Libeskindによる改修
開館は100年以上前の1914年だが、2000年代に入り、ダニエル・リベスキンドの設計により改修された。この時エントランスが東側から現在の北側の位置に変更されている。リベスキンドの作風は脱構築主義のような一見奇抜なデザインが特徴的。ROMの印象的な外観はクリスタルをイメージしているそう。以前からの建築と新しく増築された建築を対比しつつも、一体感を出しているところが見所だ。
8
Toronto Reference Library (1977)
トロント・リファレンス図書館
代表的な設計者: Raymond Moriyama
日系カナダ人建築家レイモンド・モリヤマによる設計。内部は通りからは想像できない大きな吹き抜けが印象的な空間となっている。最上階から吹き抜けを見下ろすと知の集積地しての一体感を実感することができる。
9
Leslie L. Dan PharmacyBuilding(2006)
トロント大学 レスリー・ダン薬学部棟
代表的な設計者: Foster + Partners
イギリスの世界的建築家ノーマン・フォスターによる設計。キューブが上空に浮かんでいるようなデザインが特徴。列柱により5階相当20m分上がっている。この高さは近くのトロント大学やオンタリオ州議事堂のコーニスと同じ高さとなっており、立地の周辺環境へのリスペクトを表している建築だ。
10
York University Station (2018)


ヨーク大学駅
代表的な設計者: Foster + Partners
実際に現地に行って個人的に好きになった建築で、こちらもフォスター率いる設計事務所による設計の建築として知られる。TTCイエローラインの延伸に際し、大学の最寄駅として計画された。地下鉄駅のプラットフォームからコンコース、公園、そして大学方向に空間が広がっていくように計画されているのが特徴。空間の連続性により昼間は自然光が地下にも届き、夜には地下から照明の光が漏れ出す作りになっているので、何度も時間を変えて訪れるとその魅力を知ることのできる建築だ。

著者プロフィール Shin シン
男性。20代半ば。日本の美大にて建築デザインやランドスケープデザイン、まちづくりを学び、卒業後は設計事務所勤務を経て、カナダへ渡航。ブログ「海外と。建築と。」は学生時代に立ち上げ、試行錯誤しながら細々と続けている。今後は日本で高断熱住宅の設計に携わりながら、建築、IT分野でのデザイナーとしてマルチに活動していく予定。チャンスを掴んで、いずれまた海外を拠点に活動する計画。
※この記事の内容は個人的に可能な範囲で収集した情報に基づいており、学術的な厳密な考証は行っておりませんので、ご理解ください。




















