2人のプロフェッショナル
アーティストであり、プロフェッショナル。自らの世界を極限まで突き詰めている二人の素顔に迫る。
Ashley Ingramさん
教育家、語学学校e.l.l.i. /音楽学校AISM 創設者、
モチベーショナル・スピーカー、音楽プロデューサー、作曲家、シンガー
イギリス・ノーザンプトンに生まれ、1980年代にソウルバンド「Imagination」のマルチ楽器奏者として活躍。その後、音楽プロデューサーとして、Des’reeの大ヒットナンバー「You gotta be」をはじめ、グラミーを受賞したMariah Careyの「THE EMANCIPATION OF MIMI」など、多数の楽曲を手掛ける。日本においてもCharaやCrystal Kayなどをプロデュースしてきた。2005年にトロントで語学学校 english language learning institute (e.l.l.i. :エリー)、音楽学校 Ashley Ingram School of Music (AISM :アイスム)を創設。英語教育活動にも従事する。
そんな音楽業界だけでなく教育業界でも活躍している彼に、彼の軌跡、そして音楽と英語教育の関わりについてインタビューを行った。
―ミュージシャン、音楽プロデューサーという道を経て、現在は教育者としてご活動されていますが、転身するきっかけはなんだったのでしょうか?
これまで僕は音楽プロデューサーとして、定期的にシンガーにより上手く歌うための口の使い方を教えてきました。話すことと歌うことは実によく似ていて、僕にとってこの二つを教えることは同じことなのです。シンガーでありプロデューサーである僕は通常の英語教師よりもアドバンテージがあると思っています。
僕は日本人シンガーが歌っているとき、彼らがどのように口を使い、音をつくっているのかを間近で見てきて、どうして彼らにとって英語の音が難しいのか分かったのです。そこから、僕は彼らの英語上達の手助けとして英語教育プログラムを書き、教え始めました。そして、このシステムが日本人の生徒の発音向上に使えるということと、発音を教えることが彼らにとって英語を学ぶための第一歩となることが分かったのです。彼らは英語特有の音を持っていないということを。けれども発音は英語を話すためには必要なものですからね。
―アシュリーさんは日本語もお使いになられるそうですが、日本語と英語の最も大きく異なる部分はなんだと感じていらっしゃいますか?
(僕の日本語は)そんなに達者ではないですけどね(笑)! 日本語における考え方と英語における考え方はまったく異なります。英語を日本の人に教える時には、音や単語、文章だけでなく、英語の構文や実用法も教える必要があります。また、日本の人たちは英語圏とはまったく異なった方法で(英語を)学んでいて、授業中は黙って、先生の話を静かに聞くように教えられます。私たちの学校独自の教育システムや教育方法は日本人の生徒に質問をすることや一単語以上で返答することに挑戦するよう薦める、ウェスタンな考え方での話し方を教えています。
―ご自身が共演、プロデュースされたアーティストや楽曲の中で、とくに印象に残っているアーティスト(作品)は誰ですか?
Stevie Wonderとステージで一緒に歌っているときは、なにか、深いものを感じました。この上なく偉大な人の横にいるという、なんとも幸運な気持ちや刺激を受けました。他には、ローマのバチカン市国でPope John Paul 2世(ローマ法王)に特別に謁見を賜ったときです。彼はシンガーではありませんが(笑)。けれど、彼の手に触れた時に感じたなにか深いものは、ずっと僕の中に強い印象を残していて、彼もまた素晴らしい方なのだと感じました。僕はローマ法王との謁見後、音楽はポップミュージックだけではなく、ときに、より意味の深いものや精神的なものでもあるべきだと以前よりも強く感じるようになりました。
そして、東日本大震災の際、日本の人たちに、ひとりじゃない、世界中のみんながすぐ後ろで皆さんを支えていると感じてもらいたいという思いで、学長のトモコさんとともに楽曲を制作しました。
・震災復興支援ソング
The Power in You(オリジナルバージョン)
・トロント教育委員会
「がんばってJapan!」プロジェクトバージョン
※二曲ともYou Tubeで動画配信中。
―日本人アーティストのプロデュースを通して持った、日本人アーティストの印象をお聞かせください。
日本人アーティストは音楽という芸術の中で、もっと感情を表現したい、自分を解放したいと願っているように感じます。そして彼らは僕との仕事の際、ぼくといることを心地良く思うようです。それは僕が、彼らのもっと表現したいという気持ちを理解し、それを具現化しようと共に働くからでしょう。自由に自分の感情を解き放つことは、、時に日本人アーティストにとっては挑戦ともなります。しかし、それができた時に素晴らしい出来事が起こると確信しているのです。
平野 啓一さん
National Ballet of Canada ファーストソリスト
大阪出身の兵庫育ち。バレエスクール を主催している母のもとで幼いころからバレエを学び、高校生のときにローザンヌ国際コンクールにてファイナリスト奨励賞を受賞。これがきっかけとなり、北米屈指のオペラ・ハウス『Four Seasons Centre for the Performing Arts』を拠点とするNational Ballet of Canada へ入団し、現在ファーストソリスト(主役を踊ることが出来るランクのダンサーの意)として活躍している。これまでも「眠れる森の美女」ブルーバードのパ・ド・ドゥ、「ロミオとジュリエット」マーキュシオといった数々の主要役柄を演じており、この10月から始まる「Alice’s Adventures in Wonderland(不思議の国のアリス)」のツアーではハートのジャックを演じる(日程によって別役柄を演じることもあり)。そんなカナダバレエ界の一線で活躍する彼に、自身の経歴、バレエの魅力を伺った。
―National Ballet Canadaに所属するいきさつはどういったものでしたか?
17歳のときに、スイスで行われている青少年のためのローザンヌ国際バレエコンクールというのに出て、決勝まで行きました。その時の審査委員長が今所属しているバレエ団体のスクールの校長先生で、(入校)オーディションを受けてみないかと声を掛けていただいたのですが、諸事情でオーディションに行けず、ビデオを代わりに送りました。そのビデオをスクールの校長先生と当時のバレエ団のディレクターが一緒に観て、バレエ団の研修生で雇ってはどうかということになって。バレエスクールのオーディションをスキップして、研修生として入団に至ったとういうわけなんです。
―セリフのないバレエ。これは表現者として難しい部分だとも思うのですが、どういった部分が魅力、醍醐味だと思われますか?
言葉がないということにより、広がるのですよね。言葉だと正確な感情しか受け取れないじゃないですか。だけど、言葉がないと、演技者が演じようとしているのを観客のセンスにもよって、ニュアンスが変わってくる。たとえばあれですよ、ミロのヴィーナスですよ。手がないから美しいっていうじゃないですか。観る側の想像力がミロのヴィーナスの手のポジションをその個人個人の感性に合わせて、一番美しい場所に想像でつくるから、一番美しい銅像というようになるわけですよね。個々の心に響く、セリフというか感情というものが人それぞれ違うのだと思います。それをちゃんと、舞台上から客席にうまく放てれるというか、それが難しいんです。練習していてもなかなかできることではないので。
―観客にどういったスタンスで観てほしいというものはありますか?
バレエによって変わってきますけど、ストーリーバレエであれば細かいニュアンスや仕草の意味を読み取りながらも話に沿って観ていただきたいし、踊りだけを観せるバレエではフィジカリティを中心に観ていただきたいですね。どのバレエをやっていても、気持ちを空っぽにして踊るっていうことはないですから。ストーリーバレエにしてみたら役柄に入って気持ちが入ったりしますけど、ただ単に体を動かすパートだけであっても、それに応じた気持ちが入りますからね。それを感じていただけたら嬉しいですけど、まあ難しいんですよねー!お客様と、舞台上の演技者が劇場の空間を使って一つになる瞬間というのは少ないですけれども、その瞬間っていうのはやっぱり素晴らしいですね。言葉にはできない、言葉がないからこそできる瞬間っていうのは、ありますね。
―バレエダンサーとしてのこれからの目標はなんですか?
よく受ける質問なのですが、受けるタイミングにもよって答えは変わってきますね。バレエというのは(その人間の)人間が変わると、人生が変わると踊りが変わってくるのです。感情、日常の過ごし方、そういう細かいちょっとしたところが踊りに出るんですよね。だから年齢に応じた、自分を大切にした踊りをいつでもしていきたいなあと思いますね。変わっていく自分を素直に受け止めて、時間とともに、進歩していこうというのは日々の課題です。もちろん肉体的には衰えていきますけど、それを超えたところ、ステップの向こうにある何かっていうのが出せれるようなれたらいいですね。