Working Physically Challenged Servers
全ての障害を個々の個性として捉え、新しいコンセプトを提供しているレストランが注目を集めている。視的障害者が丁寧な接客をする“O.Noir Restaurant”と聴覚障害者が明るい笑顔をふりまく“Signs Restaurant”だ。彼らは一体どのように仕事をしているのだろうか。働く人々の横顔やレストランの雰囲気、方針などを取材しながら、真のホスピタリティ・マインドを考える。
トロントの中心地で手話を通して働く人たちがいる。
明るい「Signs Restaurant」では静かに笑顔が飛び交っている。
Signs Restaurantとは?
Signs Restaurantは文字通り手話(American Sign Language)をコミュニケーションツールにしているレストラン。サーバーの多くが聴覚障がい者だが各テーブルのメニューには、手話でどのようにすればオーダーができるかなどが明記されている。店員同士でも手話を通してコミュニケーションをする姿を見ることができ、とてもユニークなレストランだ。質の高い料理だけではなく、手話を交えることによって他のレストランではできない楽しみ方がある。
Signs Restaurantが生まれるまで
Signsのコンセプトが生まれたのは7年前に遡る。店長のAnjan Manikumarさんが過去にオンタリオ州でも有名なチェーン店で働いていた時、常連客の中に耳が不自由な人がいた。筆談や指の指示で彼のオーダーを受けることは出来たが、きちんとしたサービスを提供できないことがもどかしかったという。そしてAnjan Manikumarさんは自身で手話を勉強し、交流を取ろうとした際、彼の喜んだ姿を見てこのレストランオープンを目指すことを決意した。聴覚障がい者のコミュニティーと交流を深め、自分のコンセプトを伝えていった。「彼らの何気ない行動が、私たちにとっては不思議に見えるかもしれない。しかし、それらは私たちと聴覚障がい者の文化の違いからきているものです。それを理解することが非常に大切でした。」とAnjan Manikumarさんは語る。お互いの文化の違いを理解し合う中でこのコンセプトは育ち、レストランオープンに至った。
レストランの環境について
店内55名のスタッフの内38名の人が、聴覚障がい者だという。殆どの聴覚障がい者はサーバーで数人がキッチンを担当している。サーバーとして働くスタッフは耳が聞こえるスタッフも含め全員がAmerican Sign Languageを話すことができる。キッチンスタッフの中にはまだ手話ができないスタッフもいるがマネージャーが喋ることも手話も出来るので双方のコミュニケーションを取り持っている。 今までで一番困難なことを尋ねると「耳の聞こえない人達がレストランなどで働いたことが無いこと」だとAnjan Manikumarさんは言う。そのため、働くことに対する心構えや、どのようにしてグラスやお皿を運ぶのかなど基本的なことを一から教えた。だが、彼らにとって初めての仕事で多くのスタッフは自宅で復習を繰り返し、Anjan Manikumarさんの予想以上に早く質の高いサービスを提供できるようになったという。
嬉しいことは「世界中の聴覚障がい者のコミュニティーが注目しているとこ」だと言う。今までカナダ国内のみならず、オーストラリアや中国、日本からこの店を訪れている。その中には他国の聴覚障がい者も多く、スタッフと他言語の手話を教え合ったりしている。実際スタッフの多くは2ヵ国語以上の手話を使える人が多いと言う。また中には日本人で、英語は喋れないが英語の手話なら分かるという人も来店したそうだ。
また現在Signs Restaurantは聴覚障がい者の人たちにとってただの仕事ではなく、平等に昇進の機会を用意している。この1号店が成功した後にはフランチャイズなどを通しより多くのチャンスを障がい者の人たちに与え、一般の人たちの障害に対する理解を深めていきたいとAnjan Manikumarさんは語った。
約80%の人が手話を知らずに来店するが、壁やテーブルには手話の写真があり、オーダーやコミュニケーションに困ることはない。手話に興味がある人もない人もユニークなコンセプトで高品質のサービスを提供し続けるこの店に足を運んでみてはどうだろうか。
バーテンダー・Alexandros Daymentsさん からのコメント
僕は耳が聞こえないので始めにレストランで働くこと考えた時に、皆とコミュニケーションを取ることはすごく難しいだろうと思っていました。でも、実際皆とコミュニケーションをとることはそう難しくないことで、今ではバーテンダーとして楽しく働いています。特に誕生日の人に手話でバースデーソングを贈ったりして喜んでもらえることが嬉しいです。手話を知らなくても良いのでまずは来てみてください。
黒や暗闇を意味するNoirの名前を冠したレストラン「O.Noir」
新しいコンセプトのこのレストランでは目の不自由の人たちが楽しく懸命に働く姿がある。
O.Noirとは?
“Dine in the Dark”(暗闇の中の晩餐)というコンセプト・レストラン。その名の通り暗闇の中で食事をする。その中でサーバーとして働いているのは目の不自由な人たちだ。2006年にモントリオール、そして2009年にトロントで営業を開始し、ヨーロッパ諸国からやオーストラリア、ニューヨーク、ロサンゼルスなどのアメリカを代表する大都市からも多くの人たちが来店している。2011年にはO.Noirのトロント店のオーナーが変わり、更にレストランの人気があがっている。ここでは他のレストランとは違ったユニークで特別な時間を過ごすことができるだろう。
暗闇でもきめ細かいサービスの店内
お店は地下にあり、店内は非常に薄暗く、4つあるダイニングルームは全て完全に真っ暗だ。この店では光物には細かい規則があり、カジュアルな服装は問題ないが、光を放つ服はドレスコードに引っかかるため厳禁だ。また、携帯電話も電源を切るように言われ暗闇の中で光る時計といったあらゆる金属製品は出さないように言われる。
ディナーサービスは1日2回、時間が指定されており来店時にはまず照明のついているバー・ラウンジエリアに通される。そこでPre-Fixedのコースメニューから2コース、または3コース選んで注文する。同時に飲み物の注文も可能だ。指定された時間になり、ゲスト全員のオーダーが完了するとダイニングルームごとにサーバーと顔合わせがあり暗闇の中へと案内される。
暗闇の中でどのように食事をするのかという心配は無用だ。多くのゲストが想像以上の暗さに始めは不安を感じるものの、サーバーたちのきめ細かいサポートで5分から10分も経てば気にならなくなる。まず着席時にお皿やカトラリーの位置が説明され、料理が出てくるたびにその料理の説明がされる。食事中に飲み物を追加でオーダーする時も、お手洗いに席を立つ時もサーバーのサポートを受け、多くのゲストが‘目が見えない’とはどういう感覚なのかを実感できる。
10人の目が不自由なスタッフたち
O.Noirの開業者であり前オーナーでもあるMoe Alameddine氏は「暗闇の中で食事をするということは自分の感覚が研ぎ澄まされる。」と述べている。しかし、O.Noirでの食事はそれ以上の経験を提供している。この完全な暗闇に1、2時間程滞在することでゲストは目の不自由な方たちの気持ちを少し体験することができるという。現在この店は、科学者だったJ.R.Feng氏が3年前にオーナーとしてマネジメントを引き継ぎ、今では10人の目の不自由の人がサーバーとして働いている。
綿密なトレーニングを通して、サーバーたちはレストランの構図を頭の中に作り上げ、仕事をこなしている。始めJ.R.Feng氏は彼らのことを気にかけ、付き添うように仕事をしており特別扱いする気持ちもあったと言う。だが、彼らの仕事に対する姿勢、取り組み方は別のスタッフと差異はなく、次第にただ過保護になっていただけだと気が付いたそうだ。
もちろんラウンジエリアが非常に混雑している時には一緒に歩いたりすることもあるが、仕事に関しては彼らを信頼し、スタッフ全員でチームとしてゲストを迎え入れている。最近ではサーバーの方からJ.R.Feng氏に「ここを改善してほしい」「こうした方がお客様にとって良いと思う」と多くの意見まで寄せられるようになったという。日本の社会ではこのようなレストランはまだ見かけることが少ないがこのレストランでは全員が対等に扱われている。「シフトを増やしてほしい」や「次は何をすればいい」など、スタッフの皆が積極的に仕事をしている。
暗闇の中で食事をするという新らしい発想のレストランは、ただその食事を楽しむだけではなく、目の不自由な方が働き、彼らの気持ちも理解することができるという2つ3つのコンセプトと一緒になっている。私たちが、普段何気なく食べているものを、目が見えない状態で食べたらどうなるか。一度体験してみてはどうだろうか。
J.R.Feng氏からのコメント
是非、お店に食べに来てください。お店の中はとても暗く、照明があるのはバー・ラウンジエリアだけです。暗闇の中で楽しく特別な時間をご提供いたします。食事をするときも分かりやすく案内を致しますので安心して料理を頂けます。ご来店お待ちしております。
サーバー・ダイアナさんからのコメント
私自身がとても楽しく働かせてもらっていますし、怖がらなくても大丈夫です。お客様にもユニークで楽しい時間を提供いたします。暗闇の中で、感覚が研ぎ澄まされていくのでとても新鮮な感じになると思いますので是非、ご来店ください。
マネージャー・マリアさんからのコメント
オープンしてからずっと働いていますが、目が見えないからと言って一緒に働くうえで特に大変なことはありません。ただ少し、飲み物や料理を渡すときにしっかり説明してあげることぐらいです。私たちがチーム一丸となって助け合いながら仕事をしていますので、まずは一度試しに来てください。
オーナー・Anjan Manikumarさん からのコメント
私たちは、ユニークで、耳の聞こえる人と聞こえない人の両方が一緒にいられる社会を目指しています。レストランとしてのコンセプトは新しく、まだ社会に認められない部分もありますが皆で頑張って取り組んでいます。よかったらお店に来て彼らの働く姿を見てください。