娯楽大麻解禁から1年。その目的達成は!?|白ふくろうの「カナダの社会・経済」ネタ探し【第35回】

 カカナダでは、2018年10月17日にThe Cannabis Act(C-45)が施行され、娯楽用大麻の、所持、栽培、販売などが一定条件の下で許されることになりました。

 反対意見も多い合法化法案でしたが、1年が経過し、法案の趣旨がどう実行されているか見てみたいと思います。

 この法案の目的は、“To Protect public health and public safety”と謳われており、「国民の健康と安全を守る」となっています。さらに、具体的詳細として

(a)若者の健康を守るために、大麻へのアクセスを制限する
(b)若者その他の人が大麻使用に走ることを防ぐ
(c)合法に製造された大麻を供給することで、大麻に関連する違法な活動を減らす
(d)大麻に関連する違法な活動を抑止するために、適正な罰とその実行を行う
(e)大麻に関連する犯罪裁判制度の負荷を軽減する
(f)品質管理された大麻を供給する
(g)大麻使用による健康リスクの周知を図る

と挙げられています。

 カナダでは、3か月毎にNational Cannabis Survey全国大麻調査がStatistics Canadaカナダ統計局によって実施発表されています。最新(2019年4〜6月)調査結果を見てみましょう。

 まずは大麻使用者ですが、男性21%、女性12%となっています。これは娯楽使用、医療目的使用の両方を含む数字で、単純に娯楽目的で使用したことがある・使用している人は、男性11%、女性4%となっており、少数と言えるでしょう。ただ、大麻を使用したことがあるが、今は使用していないという人の割合は約3人に1人だそうで、興味本位で経験したことがある人は結構いるようです。

 向こう3か月の間に、大麻を使用してみようと思っている人は男性25%、女性16%となっており、現在使用している人よりも増えているのがやや気になります。

 ただ、これまでに大麻を使用したことがない人はそのほぼ全員99%が向こう3か月の間に使用しないとしており、現在使用している人はそのまま使用するとなっており、増加傾向とは言えないかもしれません。

 年齢層別に見ると15〜24歳25・5%、25〜34歳27・4%、35〜44歳20・4%となっており、若者(15〜35歳)の使用が圧倒的に多くなっています(52・9%)。特に気になるのは、やはり15〜24歳層で25・5%という数字です。

 法案の具体的詳細の最初に書かれている「若者の健康を守るために、大麻へのアクセスを制限する」「若者その他の人が大麻使用に走ることを防ぐ」という目的がどの程度のレベルを想定していたのかわかりませんが、依然4人に1人の若者が大麻を使用しているというのはこの目的がまだ達成されていないと見てよいのではないでしょうか。

 5月中旬から6月にかけての調査では、15歳以上のカナディアンの16%相当に当たる490万人が過去3か月の間に大麻を使用したと報告しています。ただ、このデータは、1年前と変わっておらず、娯楽大麻が合法化されたことで使用者が増えたとはなっていません。ただ、総数では変わっていない中で、特徴的なのは、65歳以上の高齢者の使用が3%から5%に増えていること。これはなぜなのでしょうか。

 大麻使用方法は、乾燥大麻が一番多く77%で、食品が26%。その他に濃縮液20%、大麻オイルカートリッジ19%などがあるそうで、最もポピュラーな使用法はスモーキングだそうです。

 大麻使用者の4人に1人は家族や友人から貰っているのだそうです。

 購入元について、合法店や認定オンライン販売者から購入したことがある人は48%でなんと半数以下。さらに、合法店からしか購入しない人はわずか29%しかいませんでした。合法化後も、違法な大麻を購入している人が42%もいるのが実情のようです。

その大きな要因が価格。

 2012年を100とした指数でみると、2019年4〜6月期の価格指数は、合法店103・3に対し、違法店74・9と30ポイント近い価格差があります。普通に考えれば、これまで違法であった大麻を買っていた人が、合法化になったからといって、30%以上も高い大麻を合法店から買うとは思えません。

 以上のデータから見ると、法案の目的である

―若者の健康を守るために、大麻へのアクセスを制限する
―若者その他の人が大麻使用に走ることを防ぐ

については、達成できているとは言い難い現実です。違法大麻と競合できるレベルまで合法大麻の価格を引き下げるなど、さらなる対策が必要だと思います。唯一、大麻使用者が増えているわけではないことが救いです。

その他の目的項目

―合法に製造された大麻を供給することで、大麻に関連する違法な活動を減らす
―大麻に関連する違法な活動を抑止するために、適正な罰とその実行を行う
―大麻に関連する犯罪裁判制度の負荷を軽減する

 これらについては、まだ比較できるデータがないので合法化後の傾向検証ができませんが、合法化以降に発生し逮捕された違反内容では、大麻の輸出入違反302件、成人による所定量以上の乾燥大麻所持違反264件、未成年による所定量以上の乾燥大麻所持違反177件、販売目的の所持152件、頒布目的の所持違反124件などが特出しています。所持、販売にかかわる違反が多いのですが、その対象となった大麻が合法なものなのか、違法なものなのか判別が難しいのではないかと思います。違法大麻流通を抑え込むためには、違った側面からの対策が必要かもしれません。

―品質管理された大麻を供給する

 これについては、少なくとも品質管理された大麻供給は進行中で、今後も増えていくと思います。ただ、違法大麻を購入する人が半数いる現状から考えると、合法的に製造された大麻が市場で買われるかどうかが問題でしょう。

そして最大の懸念は、最後の目的。

―大麻使用による健康リスクの周知を図る

 カナダ政府は政府広報などを通じて、大麻の身体への影響を詳しく伝える努力をしています。“Cannabis in Canada”というウェブページで広報している内容には次のように書かれています。

 短期的影響としては、眠気、反応遅延、注意散漫、協調障害などが起こり、車の運転などで事故を起こすことが懸念されます。さらに、思考、集中力、記憶、判断に障害を起こすことが認められています。一方、多幸感いわゆるハイの状態になることがあるが、同時に鬱やパニックになることも知られており、時には、幻想を引き起こすこともあるとのことです。

 長期的には、肺疾患、呼吸困難、そして中毒となることが知られています。躁鬱状態が悪化することもあり、精神障害のリスクが高まるとのこと。

 特に成長期にある若者の脳への影響は深刻です。脳は25歳くらいになるまで成長すると言われており、その期間に大麻を使用すると、精神障害を引き起こすリスクが高まり、中毒にもなりやすいとのことです。

 大麻の身体への影響は、個々人によって異なるもので、最善のリスク回避は使用しないことですが、使用する場合のリスク軽減の方法としては

―初めて使用する場合には、安全な場所で信頼のおける人と一緒に使用する(緊急時の対処ができるように)
―脳の発達が止まる25歳くらいまでは使用しない
―スモーク使用する場合には、深く吸い込まない
―アルコールや薬物と一緒に使用しない。特にオピオイドなどの鎮痛剤との併用は大変危険
―大麻摂取後は、車や重機の運転はしない
―K2、Spiceなど違法な合成大麻は絶対使用しない。これらは大麻ではない
―精神障害のリスクがある場合には、絶対使用しない(悪化するリスク大)
―妊娠中及び授乳時には絶対使用しない(胎児、新生児への影響大)

 日本などで大麻合法化を推進したい人たちは、大麻には「中毒性がない」ということを理由に挙げています。カナダ政府広報でも、タバコ、お酒、オピオイドなどに比べると中毒性は低いと書かれています。しかし、これは比較の問題で、中毒性がないわけではありません。データによる検証でも、大麻使用者の10人に1人は中毒になると出ています。10%という数字はかなり高い数字と見るべきではないでしょうか。

最後に大麻の毒性について書かれています。

 「Cannabis Poisoning」と言われており、初めての摂取、大量摂取、子供、ペットの摂取で、体調不良となることが多く救急対処が必要となる場合があります。ただ、直接食べたり飲んだりした場合には、その影響が出るまでに2時間から4時間かかることもあるとのことで注意が必要です。

 大麻入り食材(お菓子等)も販売されます。先に合法化されたアメリカのコロラド州では、小学生が大麻入りお菓子(グミ)を普通のお菓子と思って学校に持っていき、友達に分け与えたところ、体調不良を起こし救急車で運ばれるという事故が起きています。また、大麻入り食材を食べたペットが死亡する事件も起きているようです。
 販売物品には、法令に沿ったラベルと表示がされることになっていますが、やはり子供の手の届かないところに厳重に保管することが必要です。

 以上のように政府では、大麻のリスクを非常に細かく広報しているのですが、メディアなどで取り上げられることがほとんどなく、残念ながら一般には伝わっていないような気がします。

 ニュース報道では、なぜか経済効果ばかりが取り上げられています。経済効果は、法案の目的には書かれていませんが、報道によると、政府は税収獲得も期待していたとのことで、大麻合法化による経済効果は、確かに出ています。

 家計における大麻購入金額は、娯楽用・医療用合計で、2019年4〜6月期1・511ビリオンにもなっており、前年同期から10%近く増加しています。内訳は、医療目的150ミリオン、娯楽目的で認可店販売金額443ミリオン、娯楽目的で違法販売ルート金額918ミリオンとなっています。合法化によって、違法販売ルート金額は、急激に減少してはいますので、一定の法案効果があったとも言えますが、購入金額の約60%が違法販売ルートからというのはやはり問題でしょう。

 こうした大麻販売による政府の税収金額は、合法化後5か月半(~2019年3月)で186ミリオンとなりました。特別税とGSY/PST/HSTを合わせた州レベルの税収合計は、連邦政府55ミリオン、州政府131ミリオン。政府にとっては、税収を補うよい収入ソースになっているようです。

カナダにおける娯楽大麻合法化から1年。

 娯楽大麻合法化が本当によいのかどうか、これからも検証を続けていく必要があると思います。そしてなにより、大麻による身体・精神への影響下で起きる交通事故や、錯乱状態になった人による傷害事件や殺人事故などが起きないことを願います。

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白ふくろう

1992年音響映像メーカー駐在員として渡加。8年の駐在の後、日系物流会社に転職、休眠会社を実業会社へ再生再建。2007年より日系企業団体事務局勤務、海外子女教育・日本語教育にも関心が高い。2009年より、ほぼ毎日トロントやカナダのニュースをブログ(カナダはいいぞ~。トロントはもっといいぞ~)で配信している。