同一労働同一賃金ってなに!?|白ふくろうの「カナダの社会・経済」ネタ探し【第17回】
白ふくろうは、小さい頃から数学、物理、生物など理系科目が好きでその道で大学に入るべく高校まで勉強してきましたが、なぜか大学では経済学部に入学、マルクス経済を専門としていました。マルクスの資本論は、歴史に残る名著で今の若者にも是非読んで欲しいと思いますが、その骨子の考えは、搾取される労働者プロレタリアートと搾取する資本家ブルジョアジーの間に対立があり、その対立が様々な段階の資本主義を産んでいくというものです。文章は非常に哲学的で経済書というよりも哲学や歴史の書物と言ってもいいかもしれませんが、その論理思考は、非常に人間的です。
この対立の構図を使ってカナダと日本の労働環境に対するアプローチを考えてみると、人権を尊重し公平公正を謳うカナダの法律は労働者を守る立場に立っており、経済発展に重きを置く日本の政策は資本家(企業側)を守る立場に立っているように思います。
それぞれの国の環境が違いますので、一概にどちらがよい、悪いとは言えませんが、どちらが好きか嫌いかは判断ができると思います。
今年オンタリオ州はBill 148という法案が施行になり、労働基準法に相当するEmployment Standard Act. 2000が約20年ぶりに大幅改定となりました。その改定の中の重要な点の一つに同一労働同一賃金という規則があります。また、Pay Equity Actという別の法律もあり、これも同一労働同一賃金を謳っています。
ではこの2つの法律に違いはあるのでしょうか?
Employment Standard Act. 2000では、ほぼ同一の仕事(Substantially the Same Job)をしている場合には、男性も女性も、フルタイムもパートタイム、派遣社員も、同じ賃金を得られることを規定しています。ここでいう同一の仕事とは、同じ労働環境において同じ能力、努力、責任を要する仕事と規定されています。もちろん、そうした仕事と環境下では、女性の賃金が男性より低かったり、逆に男性の賃金が女性より低かったりすることは許されません。
一方、Pay Equality Actではちょっと意味合いが違っています。この法律では、仕事の内容は違っていても同じ価値を生み出す仕事をしている場合には、男女を問わず同じ報酬が支払われなければならないと規定しています。同レベルの役職につき、担当する仕事は違っていても同じ価値を生み出しているホワイトカラー職などで、性別、人種、国籍、年齢などによる報酬差を禁じているものです。背景には、同じ職責についている場合でも女性の報酬が男性の報酬に比べ、最高29%も低いという事実があるそうで、そうした男女間報酬差を解消するためのものです。
法律には常に例外規定があるもので、同一労働同一賃金の法規定にも例外があります。その例外規定が次の4つ。①Seniority System、②Merit System、③System that measures earnings by quantity or quality of production、④Any difference that is not based on the sex of the employee.
Seniority Systemとは、日本語で言うところの年功序列で同一労働をしている経験豊富な人には、その職務年数などを基準にして高い賃金を支払う制度がある場合に認められるものです。
Merit Systemとは、目標達成制度で、同一労働ながらその達成度に応じて賃金が変わる制度がある場合に認められるものです。
数量・品質による収入をベースとした賃金差制度は分かりやすい制度ですし、その他、性を理由としない基準による賃金差制度も認められています。
同一労働同一賃金は平等公平な制度で、もちろんそこに性別による差別や人種、宗教、年齢、身分、家族、出身国などを理由とした差は認められません。上記の例外も、職場にそのような制度が文書などで確立されており、該当者に十分な説明がなされていることが原則です。雇用主が随時変更するようなものは制度とは言えません。
もし、同一労働で賃金が異なっていた場合は、雇用主は、低い賃金を高い賃金まで引き上げなければなりません。高い賃金を低い賃金レベルに引き下げることはできません。
最後に日本の場合を説明しますと、現在厚生労働省が同一労働同一賃金ガイドライン案の概要を作成しており、今後法改正立案作業に入っていく予定です。その趣旨は、正規雇用労働者と非正規雇用労働者(パートタイム、派遣)の間の不合理な待遇差の解消を目指すものと言われています。
まずこの趣旨がカナダと違うと思いませんか。カナダの場合には、同一労働同一賃金は原則であり、賃金差はあってはいけないという立場に立っています。しかし、日本の場合には既に存在する不合理な待遇差を解消するべく、不合理であるもの、不合理でないものを明らかにするという立場です。勘繰って考えれば、企業に有利なように不合理な待遇差ではない言い訳を法制化しようとしているように見えます。
白ふくろう
1992年音響映像メーカー駐在員として渡加。8年の駐在の後、日系物流会社に転職、休眠会社を実業会社へ再生再建。2007年より日系企業団体事務局勤務、海外子女教育・日本語教育にも関心が高い。2009年より、ほぼ毎日トロントやカナダのニュースをブログ(カナダはいいぞ~。トロントはもっといいぞ~)で配信している。