もっと日本にCanLit! 第18回
第18回 キャサリン・ゴヴィエ
キャサリン・ゴヴィエ
最新情報はウェブサイト www.govier.com、トゥイッター @kmgovier、 フェイスブック KatherineGovierWritesなどで確認できる。

歴史の波に呑まれて姿を消してしまったもう1人の天才絵師、葛飾応為。その謎がいまゴヴィエ氏の手によって明るみに出る。彩流社刊。
今月はいよいよキャサリン・ゴヴィエ氏の登場だ。2010年発表の『ザ・ゴースト・ブラッシュ』(アメリカ版タイトルは『ザ・プリントメーカーズ・ドーター』)はなんとあの葛飾北斎の娘、お栄が主人公の歴史小説。発売当初はカナダの日系社会でも大いに話題となった。実は私がその邦訳を担当させていただいたのだが、この6月、彩流社より『北斎と応為』として刊行される運びとなった。
日本でも徐々に注目を浴びるようになった葛飾お栄をご存知の方も多いだろう。人気漫画『百日紅』や、日本テレビのドキュメンタリー「おんな北斎」でも取り上げられた。お栄もまた、父も認める天才絵師だった。画号「応為」は、父北斎が娘を「オーイ」と呼びつけるのをそのまま当て字にしたものといわれているが、この応為の落款の入った作品は世界中で数えるほどしか残っていない。一方、老齢と病にもかかわらず、精力的に作品を制作し続けていく北斎。
そこに、いったい何があったのか。
歴史の波に呑まれてしまった北斎と娘の物語の謎を解く本作品は、日本の美術界にちょっとした爆弾を投げつけることになるだろう。ゴヴィエ氏による大胆な仮説がいよいよ明るみに出る。日本の重要な歴史の新解釈にいちカナダ人作家であるゴヴィエ氏が挑むわけだが、北斎は「世界に最も影響を与えた百人」の一人でもあるし、またお栄に関する研究はむしろ海外で盛んで、ゴヴィエ氏のこの作品も精力的な学術研究に基づいている。むしろ当然の成り行きといえるかもしれない。
ゴヴィエ氏にはほかにも多くの著作があるが、それらは英語圏はもちろんフランス語(ケベック州)、スペイン語、ラトヴィア語、オランダ語、ルーマニア語などに翻訳されている。代表作の一つCreationがニューヨーク・タイムズの2003年の特筆すべき本の一つに選ばれたほか、カナダではマリアン・エンゲル・アワード、トロント・ブック・アワードなどを受賞している。また2014年には初めて子供向けの絵本Half for You and Half for Me を出版。大人と子供が一緒にナーサリー・ライムを学べる内容となっている。
カナダ社会への作家としての貢献もすばらしい。ペン・カナダの会長とライターズ・トラストの議長も勤めたほか、現在はトロントにて、移民女性たちが靴をモチーフとして書き上げた移民物語を世に広める「シュー・プロジェクト」を創設、指揮している。
出身はバンフにほど近いアルバータ州ケンモア。現在はパートナーと犬のジャスパーとともにトロントに暮らしているが、一年の多くをケンモアでも過ごす。アルバータ大学の特別卒業生、またトロントのヨーク大学のFamous Fifty「有名な卒業生五十人」の一人にも選ばれている。古典武道を学び、ロッキー山脈でのスキーとハイキングが趣味。
ところで、この原稿を執筆中に、うれしい知らせが入った。先述の故・杉浦日向子氏の『百日紅』が、国際的に高い評価を得ている原恵一監督によってアニメ映画化されることが決定したそうだ。日本公開は2015年。今年から来年にかけてお栄に世界的注目が集まるのは必至だろう。生前は日の目を見なかったお栄さん、お墓の中で喜んでくれているといいのだが。
モーゲンスタン陽子
作家、翻訳家、ジャーナリスト。グローブ・アンド・メール紙、モントリオール・レビュー誌、短編集カナディアン・ボイスなどに作品が掲載されたほか、アメリカのグレート・レイクス・レビュー誌には2012年秋冬号と2013年春夏号に新作が掲載。今年6月にはアメリカのRed Giant Books出版から小説『ダブル・イグザイル/ Double Exile』刊行。翻訳ではカナダ人作家キャサリン・ゴヴィエ氏の小説『ゴースト・ブラッシュ』の邦訳を担当。2014年6月彩流社より刊行。また同月、幻冬舎より英語学習本も刊行される。筑波大学、シェリダン・カレッジ卒。現在はドイツのバンベルク大学院修士課程在籍中。最新情報はwww.yokomorgenstern.comまたはフェイスブック参照のこと。





