もっと日本にCanLit! 第9回
今月はブリティッシュ・コロンビア州プリンス・ジョージ出身の作家、ブライアン・フォーセットを紹介したい。1985年までコミュニティ・オーガナイザーやアーバン・プラナーなどの仕事をしたあと、作家に転向。ノン・フィクション、フィクション、詩と数々の著作を発表し、またグローブ・アンド・メール紙はじめカナダのあらゆる新聞・雑誌で活躍するほか、連邦刑務所でクリエイティブ・ライティングを教えたり、短いながらプロのホッケー選手として活動したこともあるという多才さだ。2003年にはノン・フィクションの『バーチャル・クリアカット』が ピアソン賞を受賞した。最新作は2011年発表の回想録、『ヒューマン・ハピネス』。一九九一年よりトロント在住。
数ある著作のなかで今回ぜひご紹介したいのは、少し古いが、八六年発表の『カンボジア:テレビがつまらないという人のための本』という作品。なぜ今この作品かというと、類を見ない奇抜なフォーマットにすぐれた内容で三十年近く経つ今も再版され続けている名作だからだ。
短編集といってよいのだが、実はページが二段組になっていて、上段にチャプターごとに短編小説とエッセイが、下段はチャプターに関係なくジャーナリスティックな論文が通しで続く、なんともユニークな構造になっている。短編・エッセイのほうは、アメリカ批判とも取れるものや大爆笑のコメディーまでさまざまだが、その根底にあるのはメディアに起因するわれわれの想像力の枯渇と資本主義批判だ。論文のほうは、カンボジア内戦にはじまり、果てはコンラッドの『闇の奥』にみるベルギー領コンゴまで発展し、人類の罪を糾弾する。言葉で説明するのは難しいのだが、私は第一章がこの本の真のメッセージを語りつくしていると思うので、これを取り上げて説明してみたい。
カナダが誇る有名歌手、ニール・ヤングはご存知だろう。だが、その代表曲『オハイオ』誕生の背景はご存知だろうか。これは1970年5月、オハイオ州のケント州立大学にて、ニクソンのカンボジア内戦干渉に反対するデモに参加した非武装の学生四人が国家によって射殺されるという惨事に対するプロテスト・ソングである。ただ、今日この詩を聞くとき、どれほどの人間が背景にある物語を考えるだろうか。ページ上段のエッセイは「想像力」に関する筆者の疑問、下段は件のカンボジアに関する筆者の調査記事となっている。
フォーセット氏は、「あの頃、自分はアリス・マンロー(世界的に有名なカナダの短編小説家)のようにはフィクションは書けないし、書きたいとも思わないということに気づいた。そこで、最もハードな題材を選び挑戦することにした。それがカンボジアだったんだ」と私に語ってくれた。調査の過程でCIA等アメリカ政府の極秘資料も入手したという。
30年近くたってもまだ色褪せないこの作品、国際政治関係が好きな人にぜひ読んでほしい。
Brian Fawcett
BC出身、トロント在住。ノン・フィクション、フィクション、詩と数々の著作をもつ。グローブ・アンド・メール紙はじめカナダのあらゆる新聞・雑誌で活躍するほか、連邦刑務所でクリエイティブ・ライティングを教えたり、短いながらプロのホッケー選手として活動したこともあるという多才さだ。
モーゲンスタン陽子
作家、翻訳家、ジャーナリスト。グローブ・アンド・メール紙、モントリオール・レビュー誌、短編集カナディアン・ボイスなどに作品が掲載されたほか、アメリカのグレート・レイクス・レビュー誌には2012年秋冬号と2013年春夏号に新作が掲載。今年6月にはアメリカのRed Giant Books出版から小説『ダブル・イグザイル/ Double Exile』刊行。翻訳ではカナダ人作家キャサリン・ゴヴィエ氏の小説『ゴースト・ブラッシュ』の邦訳を担当。2014年6月彩流社より刊行。また同月、幻冬舎より英語学習本も刊行される。筑波大学、シェリダン・カレッジ卒。現在はドイツのバンベルク大学院修士課程在籍中。最新情報はwww.yokomorgenstern.comまたはフェイスブック参照のこと。