もっと日本にCanLit! 第10回
第10回 サイーマ・S・フセイン
Saima S. Hussain
パキスタン、カラチ生まれ。生後六か月でサウジアラビアに移住し、その後もほかの中東諸国、ヨーロッパ、アメリカ、そしてまたパキスタンを経て、2011年より再びカナダ在住。
『ザ・アラブ・ワールド・ソート・オブ・イット』
バンクーバーのアニック・プレスのアワード受賞シリーズ、We Thought of Itシリーズの一巻。アラブ世界が発明、考案した様々な技術を、その歴史や文化とともに北米の若い読者に紹介する画期的なノン・フィクション。写真や地図を駆使した見るも楽しい作品だ。
アラブ世界の文化が西洋ひいては世界に与えた影響については、おそらく皆さんもご存知だろう。トロント在住の作家Saima S. Hussainサイーマ・S・フセインの最新作The Arab world Thought of It『ザ・アラブ・ワールド・ソート・オブ・イット』は、題名からもわかるように、アラブ世界が発明、考案した様々な技術――ペン、カメラ、日時計、数学、石鹸など――を、その歴史や文化とともに北米の若い読者に紹介する画期的なノン・フィクションで、バンクーバーのアニック・プレスのアワード受賞シリーズであるWe Thought of Itシリーズの一巻である。写真や地図を駆使した見るも楽しい作品で、今年春のカナディアン・チルドレンズ・ブック・ニュースでも、「情報に富み、子供たちにアラブ世界について教えるすばらしい素材である」と、高い評価を得た。
サイーマ・S・フセインはパキスタンのカラチ生まれ。生後六か月でサウジアラビアに移住し、その後もほかの中東諸国、ヨーロッパ、アメリカ、トロント、そしてまたパキスタンを経て、2011年より再びカナダ在住となる。トロント大学で英語と歴史の学士過程を同時に専攻するなか、博士課程まで修めたいという希望を次第に募らせるが、英文学に魅せられたのがきっかけとなり、結局は修士課程終了後にアカデミアを去ることにする。
その後はパキスタンの最大手新聞『ドーン』で本のレビュアーを勤める。2010年にはフェローシップを受け、ロンドンの出版大手ブルームズベリー社で数週間働く好機にも恵まれた。
第一言語はウルドゥ語であるフセインだが、ウルドゥ語の読み書きよりもずっと早くに英語を覚えたという彼女は、ものごころついたときから英語での創作活動を始めたという。とにかく、書くことが好きな少女だった。2011年十月、『ドーン』紙のコラムや書評がアニック・プレスの編集者の目に留まり、とんとん拍子で単行本契約の運びとなった。6か月の執筆期間をもらい、調査などに費やした後、デッドラインの2日前にやっと仕上がったという。出版業界全体が汲々とするなか、かなり幸運で変わった経路で出版に至ったといえるだろう。
現在執筆中の第二作は、古今東西のイスラム教徒の活躍についての本だそう。また、9月6日付のトロント・スター紙には、おもに移民生活に関する彼女のインタビューが掲載された。これからますます波に乗りそうな作家だ。
モーゲンスタン陽子
作家、翻訳家、ジャーナリスト。グローブ・アンド・メール紙、モントリオール・レビュー誌、短編集カナディアン・ボイスなどに作品が掲載されたほか、アメリカのグレート・レイクス・レビュー誌には2012年秋冬号と2013年春夏号に新作が掲載。今年6月にはアメリカのRed Giant Books出版から小説『ダブル・イグザイル/ Double Exile』刊行。翻訳ではカナダ人作家キャサリン・ゴヴィエ氏の小説『ゴースト・ブラッシュ』の邦訳を担当。2014年6月彩流社より刊行。また同月、幻冬舎より英語学習本も刊行される。筑波大学、シェリダン・カレッジ卒。現在はドイツのバンベルク大学院修士課程在籍中。最新情報はwww.yokomorgenstern.comまたはフェイスブック参照のこと。