もっと日本にCanLit! 第17回
第17回 ルイ・ウメザワ
ルイ・ウメザワ
1959年東京生まれ。幼少の折、理論物理学者の父親の仕事の関係でヨーロッパに渡り、その後アメリカを経てカナダに。熱心な武道家で、鍼治療も勉強中。3人の子供はみな成人し、現在は夫婦でトロントに暮らす。
今月はルイ・ウメザワ氏を紹介したい。ファンの方も多いのではないだろうか。
ウメザワ氏の小説第1作。第2次世界大戦中の日本に始まり現代のトロントに至る、ハヤカワ家3代の物語。
1959年東京生まれ。幼少の折、理論物理学者の父親の仕事の関係でヨーロッパに渡り、その後アメリカを経てカナダで暮らすこととなった。文学少年だった氏は、アルバータ大学にて比較文学の修士号をとり、執筆活動を始める。しばらくは活気あるジャーナリズムの世界に身を置くが、奥様の第一子妊娠を機に、フィールドワークの多いジャーナリズムの仕事に見切りをつけた。その後、在トロント日本国総領事館でパブリック・リレーションズとスピーチ・ライティングの職を得、また創作活動に真剣に取り組むようになる。The Empty Hand; A Karate Wordbook (Weatherhill, 1998)、 Aiko’s Flowers (Tundra, 1999)、 The Truth About Death and Dying (Doubleday, 2002) と3冊の著作があり、新聞や雑誌などでも活躍している。熱心な武道家でもあり、精神と気の流れに興味を持ったことから、鍼治療の勉強もしているそうだ。三人の子供はみな成人し、現在は夫婦でトロントに暮らす。
ウメザワ氏に、2015年秋にトロントのグラウンドウッド・ブックスから発売される新作についてお話をうかがった。日本古来の幽霊物語をウメザワ氏が選りすぐって編んだ短編集で、そのソースは『怪談』『雨月物語』をはじめ、能や童話をアレンジしたものもあるそうだ。それらは「翻訳」ではなく、むしろキャラクターに焦点をあてた「再解釈」であると氏は語る。というのも、日本に限らず民話が作られ語られた時代というのは、キャラクターというのはモラルを説くための説話や訓戒を押し進めるための軸のような役割でしかなかったからだ。したがって読者はキャラクターの突拍子もない奇妙な言動を納得しようとしたり、いちいち動機を求めたりはしなかった。
だがもし、キャラクターの動機にもっと焦点をあててみたらどうなるか? とのウメザワ氏の疑問から、このプロジェクトは始まった。キャラクターの動機に焦点を当てた今回の民話の再解釈は、その存在がより真実味を帯びるため、ときにオリジナルよりダークな結末に思えることもあるという。ウメザワ氏の手によって蘇った民話は、たとえそれがオリジナルとほとんど同じプロットであっても、アディクション、虐待、ナルシシズムなど、現代のさまざまな問題の探求に通じるものがあるという。
歴史は繰り返す、といったところか。昨今、深刻な問題を多々抱えているように見えるわが日本、先人の知恵にもっと学ぶべきなのかもしれない。トリックスター的な役割に深みを与えられたキャラクターたちが現代版の怪談でどのような経路をたどるのか、読むのが待ちきれない。来年の秋が楽しみだ。
モーゲンスタン陽子
作家、翻訳家、ジャーナリスト。グローブ・アンド・メール紙、モントリオール・レビュー誌、短編集カナディアン・ボイスなどに作品が掲載されたほか、アメリカのグレート・レイクス・レビュー誌には2012年秋冬号と2013年春夏号に新作が掲載。今年6月にはアメリカのRed Giant Books出版から小説『ダブル・イグザイル/ Double Exile』刊行。翻訳ではカナダ人作家キャサリン・ゴヴィエ氏の小説『ゴースト・ブラッシュ』の邦訳を担当。2014年6月彩流社より刊行。また同月、幻冬舎より英語学習本も刊行される。筑波大学、シェリダン・カレッジ卒。現在はドイツのバンベルク大学院修士課程在籍中。最新情報はwww.yokomorgenstern.comまたはフェイスブック参照のこと。