もっと日本にCanLit! 第12回
第12回 デイヴィッド・ギルモア
今回は9月末の時点で世間の話題を(悪い意味で)さらっているこの人。デイヴィッド・ギルモア氏はカナダ国外でも良く知られ、今年のギラー賞の候補にもなった。トロント大学で文学を教えている。
事の発端はランダムハウス・カナダのオンラインマガジン「ハズリット」で氏が「女性作家、中国系作家、カナダ人作家が嫌い」で、教室では「ストレートの男性作家しか教えない」という主旨の発言をしたことだ。
この発言はもちろんSNSで瞬く間に火がつき、少し遅れて大手メディアにも取り上げられた。ナショナル・ポスト紙には氏の謝罪インタビューが載ったのだが、これがまたひんしゅくを買ってしまったのだ。
件の発言はオフレコのもの(同席していた第三者にフランス語で言ったらしい)を名誉欲に取り付かれた小娘の記者が勝手に記事にしてしまったという主張、それから、自分が最もよく理解できる分野、すなわち、中年の白人男性によって書かれたものを教えることが教師としての義務であると思うので、女性と中国人は教えない、という主張には、同情と理解の余地があるとしよう。一点目については、有名人ならよく合う被害だろうが、それにしてもオフレコとはいえ取材の最中にそのような発言が出るとは、公人としての自覚にやや欠けるのではないか。
そして2点目。この回答では「カナダ人作家が嫌い」発言の弁明になっていない。氏は以前にもカナダ人作家苦手発言をしているようだが、しかしながら氏もカナダ人であることにかわりない。作家に「リレイト」することが教師として大事であると言うなら、カナダ人作家こそ氏が教えなければならない分野という気がするが・・・・・・。
また、自分の得意分野外の仕事を課せられるのは大人の社会では往々にしてあることであり、それは教師も同じこと。しかも、違う視点でものを見ること、違う立場を経験してみること、それこそが文学の使命である。それを避けて、自分の「好きなこと」だけに耽溺するというのはいかがなものか。
実は氏は博士号を持っておらず、トロント大学教授としては異例だ。作家になる以前はテレビ界で活躍していた。
私は氏の『フィルム・クラブ』という作品を読んだことがある。面白かったのだが、氏が息子のベトナム系のガールフレンドの両親を「ボートピープル」呼ばわりした時点で何となく読むのをやめてしまった。
さて、判断は個々の読者に委ねよう。
モーゲンスタン陽子
作家、翻訳家、ジャーナリスト。グローブ・アンド・メール紙、モントリオール・レビュー誌、短編集カナディアン・ボイスなどに作品が掲載されたほか、アメリカのグレート・レイクス・レビュー誌には2012年秋冬号と2013年春夏号に新作が掲載。今年6月にはアメリカのRed Giant Books出版から小説『ダブル・イグザイル/ Double Exile』刊行。翻訳ではカナダ人作家キャサリン・ゴヴィエ氏の小説『ゴースト・ブラッシュ』の邦訳を担当。2014年6月彩流社より刊行。また同月、幻冬舎より英語学習本も刊行される。筑波大学、シェリダン・カレッジ卒。現在はドイツのバンベルク大学院修士課程在籍中。最新情報はwww.yokomorgenstern.comまたはフェイスブック参照のこと。