第89回 コンテンツの行方|トロントの多様性をクリエイティブに楽しむ
先日、東京ドームで開催されたレディー・ガガのワールドツアー『The MAYHEM Ball(ザ・メイヘム・ボール)』へ足を運びました。

◆きっかけは、コーチェラ2025での配信ライブ
あの完璧なパフォーマンスがあまりに素晴らしく、自分の中での「答え合わせ」をするような気持ちでドームに向かったのですが、そこで目にしたのは、単なるライブの枠を超えた「圧倒的なコンテンツパワーの暴力」でした。
◆究極の過剰主義が描く「二つのペルソナ」
今回のショーは、最新アルバム『MAYHEM』の世界観を軸にした、全4幕とフィナーレからなる壮大なオペラでした。 ベン・ダルグリーシュやエス・デヴリンといった世界屈指のクリエイターが手掛けたステージは、オペラハウスを模したゴシックな様式美に貫かれ、日本人ダンサーAmi Takashima氏を含む精鋭たちが、その過剰なまでの美意識を具現化していました。
◆物語の核心は、ガガの中に潜む「ライトとダーク」「ブロンドとブルネット」という二つのペルソナの闘い
「踊るか、死ぬか(Dance or Die)」という究極の選択を突きつけながら、内なるカオスをエンターテインメントへと昇華させていく。計30曲に及ぶセットリストの中で、彼女は常に変わり続け、一瞬の隙もない歌唱力で5万人の観衆を呪縛にかけ、そして解放していくのです。
◆コンテンツ産業の「二極化」という現実
今の時代、私たちは情報過多による「コンテンツ疲れ」の真っ只中にいます。その中で、現在のコンテンツ産業は明らかに二分されていると感じざるを得ません。
◆「短尺・刺激・刹那」:タイパ重視で消費される、中身を削ぎ落とした刺激の連続。
◆「長尺・深度・没入」:圧倒的なヴィジョンと技術で、観る者の価値観を書き換える体験。
2時間30分にわたり、圧倒的な密度で見せつけられたガガのステージは、間違いなく後者の頂点でした。「何も太刀打ちできない」と感じさせるほどの衝撃。それは、効率や合理性を追求する制作活動への、ある種のアンチテーゼのようにも思えます。
◆魂を蘇らせる「Re-Soul」な時間
ピアノの弾き語りコーナーで、彼女は日本語で「愛してます!」と叫び、涙ながらにコミュニティー(絆)の大切さを説きました。 「今の私たちを記憶に刻みたい」というメッセージと共に流れた『Always Remember Us This Way』。あの瞬間、ドームという巨大な空間は、個々の魂が蘇る「Re-Soul」な場所へと変わったのです。
作り手にとって、これからのコンテンツの行方はどうあるべきか。 手軽な刺激に流されるのは容易ですが、やはり人の心を真に揺さぶるのは、こうした「逃げ場のないほどの没入体験」なのではないでしょうか。
シアトリカルな非日常から日常へと戻るアンコールで見せた、メイクを落とした彼女の素顔。 そのリアリティーと、極限まで作り込まれたスペクタクル。この両端を自在に行き来できる力こそが、これからの時代に求められる「コンテンツの真価」なのかもしれません。















