「DUSK DANCES’ 25TH SEASON」トロントダンス界で活躍する 井上勇一郎さん&日系アーティスト デニス・フジワラさん インタビュー|カナダと日本の架け橋ピープル
年齢や性別、生まれやダンスの経験を問わず、プロと一般の人の垣根を超えた作品作りを目指す『DUSK DANCE』が25周年イベントがトロントの公園で開催され、プロダンサーやコレオグラファーによるパフォーマンスのほか、一般の人が自由に参加できるワークショップが用意された。
当日は、それぞれのチームによって全く異なるテイストのパフォーマンスが披露され、多くの観客を賑わせた。
編集部では参加したトロントダンス界で活躍する井上勇一郎さんと日系アーティストのデニス・フジワラさんの2名にお話を伺った。
井上 勇一郎さん
ー今回の「ダスクダンス」出演のきっかけは何ですか?
出演のアプローチは私たちの方から行いました。私はPulga、Naishiと「3+(スリープラス)」というダンスユニットを組んでいるのですが、今回の「DUSK DANCE」がこのチームとして初めての作品です。もともと、その二人とはTDT(トロント・ダンス・シアター)で10年近く一緒に踊ってきた仲間で、その頃からいつか3人でチームを組んで踊りたいという話はずっとしていたのですが、それぞれ忙しくてなかなか機会がなかったのです。そこで「DUSK DANCE」にとりあえず申し込みをして、やるしかない状況をつくりました(笑)。
ーバレエダンスを始めたきっかけは何ですか?
もともと妹がバレエに通ってたのですが、親から「妹と一緒にお前もバレエ行ってこい」と言われたのが最初ですね。その当時は泣きながら嫌々レッスンに通っていました(笑)。13歳の男の子ですし、周りにバレエをやってる同級生もいなくて、大きなお姉さんたちに囲まれながら「なんでこんなんせなあかんねん…」と思いながら練習していました。
でもバレエダンサーは男性の人口が少ないので、先生がよく手をかけてくれたのです。学校を休んで海外に公演を観に行き、クラスを受けに行っていました。そのおかげか少しずつ慣れてきて、もう少し続けてもいいかなと思うようになりました。
その後、バレエの先生の薦めでドイツのバレエスクールに留学することになりました。バレエの本場はやはりヨーロッパだし、男性バレエ教師から直接指導を受けられるのはとても貴重だと留学を決意しました。
ー今回の作品のテーマはどういったものですか?
テーマとしては「3人の考えを合わせたとき、何が生まれるのか」ということですかね。今回の作品はインプロ(即興)から作りました。アイデアを決めて、それに合うように各自が好きに動き、それをビデオに撮って確認するという形で組み立てましたね。
「3+」のメンバーは全員が移民なんです。Pulgaがアフリカ出身、Naishiが中国で僕が日本。でもそれぞれの国から踊りを学びに若くして鞄ひとつで母国を離れ海外へ出たという点が共通しています。
文化も考え方も身体の使い方も間の取り方も全然違いますから、その違いをぶつけたら何が生まれるのかを追求しました。インプロはお互いのことをよく知っていないとやりにくいし、危ないんですよね。でも僕達の場合はすでにお互いのことをよく知っているので、作品作りが始まってしまえば、スムーズにリハーサルは進み、とても楽しめました。
あと妻のSarahが作曲の仕事もしていて、今回の作品のためだけに曲を創ってくれました。「今日こんなんやった」と言って話をすると、そのイメージに合う曲を作ってくれるのです。それを共有して、また練習に持っていって、手直しして…。こんなことを初日の前日くらいまでやってました(笑)。
普段はリスクのある場所では踊りません。だからこういうコンクリートの地面で踊ることはリスクというと大げさですけど、ダンサーとしてはタブーというか好ましくないんです。
でも一番面白いなと思ったのは、舞台で踊るよりも、観客との距離感がすごく近かったことです。観客から出る息遣いやら体の動き、雰囲気というかそういうものが直接肌で感じられること、作品の空気感や世界観が観客とパフォーマーの間で本当に近い距離でシェア出来るのは、とてもいいなと思います。
ーパフォーマンスの前に習慣づけていることはありますか?
まったくないですね(笑)。基本的にはその時思った通り、自由に行動しています。やることを決めてしまうと、例えば何かが上手くいかなかったときに、その理由を習慣としている物に対し色々と求めてしまう可能性が出てしまうので、周りから影響されず、今日の自分の身体を感じ、頭と体を上手く繋ぐ様にはしています。
ー今後挑戦してみたいことはありますか?
ダンスではないジャンルの人と一緒にコラボレーションをしてみたいですね。ダンスに関係ない人とともに作品作りに取り組むと、何が生まれるのかを見てみたいなと考えています。
ーTORJA読者やトロントに滞在している日本人へ向けて一言お願いします。
まず、自分で動いてやってみることです。色々な情報を得て、挑戦してみて、味わって空気を感じないと物事は解らないと思います。自分がやりたいと思ったことに対し、オープンにしておく必要があります。一つの考えに縛られず、人とどんどん共有して、自分の考えをシェアしていくことが大切だと思います。
井上 勇一郎さん
15歳でドイツのバレエスクールに留学。卒業後、州立ブラウンシュバイクバレエ団ソリストとして入団。ドイツ各地のバレエ団で8年間踊る。カナダ国立バレエ学校でプロフェッショナルダンサーとしてキャリアのあるダンサー用の教師コースを卒業。RAD公認教師の資格を得る。2006年からカナダ・トロント・ダンスシアターに所属。カナダではダンサーとして踊り、カナダ国立バレエ学校を初めカナダの各地でゲスト講師を務める。国内外で振付家としての活動や、ワークショップなども行っている。
デニス・フジワラさん
ー今回の「ダスクダンス」参加のきっかけは何ですか?
今回、「DUSK DANCE」に参加するのは2回目ですね。前に参加した時は芸術監督のシルヴィへ向けて作品をつくりました。
もともとシルヴィとは交流がありましたが、確か8年前くらいから一緒に仕事をするようになったと思います。
このダンスの構想は2年前から考えていたものです。この作品のパーツは午後の仕事として少しずつ作っていました。ですが、やはり細かい部分にこだわると時間がかかりますね。よい仕事・よい作品をつくるのには本当に時間がかかるなと実感しました。
ー今回の作品のテーマはどういったものですか?
今回の作品は「ドナルド・トランプ」から着想を得ました。昔、アメリカにいたのですがその時の友人たちみんながドナルド・トランプの考え方や政治について、とても苦しんでいたのです。でも、今はもう慣れてしまって彼のやり方にマヒしてしまっている人が多いと思うのです。
難しいことではあるけれど、だれもが議論して、他の考えを持つ人と戦って、考えを聞いて、好奇心をもっていく必要があると思います。ですが、困難なく誰かと一緒に物事をすすめる方法を探していく必要があるとも考えていますね。
ー普段はダンサーへ向けてどのような指導をされていますか?
私のスクールの生徒には課題を与えたり、即興で演技をさせたりして指導をしています。特にインプロは、コレオグラファーにもよりますが、私は非常に有効なトレーニングとして考えています。
私が影響を受けた舞踏家の中島夏さんは、インプロを作品作りの手段として有効に使っています。そこから日本の舞踏という視点と西洋のダンスの視点を掛け合わせることによって生まれるパフォーマンスの可能性を学びましたね。目指しているものは生命や活力を表現することですね。
ー新しく挑戦したいことはありますか?
毎晩、常に自分の作品について考えています。このコレオグラファーという仕事は、常に進歩を目指す仕事ですから、もっと良くするにはどうするべきかを考え続けています。
ここ最近では、合気道を作品作りに取り入れていきたいと思っています。もともと合気道をやっていたのですが、他の格闘技や武道のように闘うのではなく、相手の力を使い受け流すという動きがダンスに取り入れられると考え、その点を生かした作品作りをしたいと考えています。
ー今回の発表場所は野外の公園ですが、今までどういった場所でパフォーマンスを行ってきましたか?
いろいろな場所で行ってきましたね。公園はもちろん、ギャラリーやビーチ、噴水の前など。でも、大変だなと感じるのは、自然はコントロールできないということですね。普通の舞台だったら、観客の心をパフォーマンスに向けるためのコントロールができるのですが、こうした状況だとそれはできませんね。風だったり、雨だったり、子供がジャンプすることもコントロールできません。
ですが、やはり大切なことは観客に寄り添ってパフォーマンスを行うことですね。観客とパフォーマンスがつながることが良いことだと思います。
ー今回の発表場所は公園のバスケットコートですが、普段使う劇場や舞台と比べてどのように感じますか?
ーTORJA読者やトロントに滞在している日本人に向けて一言お願いいたします。
壁や困難から目を背けずに、きちんと向き合うことが大切だと思います。そして、それを自分に与えられた仕事の中に落とし込んで、勉学や仕事に打ち込んでいってほしいと思います。
デニス・フジワラさん
ダンサーや振付師、指導者として幅広く活躍し、2014年にはNOWの「Dance show」トップ5に輝いた。今回の「Dusk Dances」では、「Moving Parts」にて振付を担当した。