トラブルになりやすい大昔の遺言書|カナダで暮らす-エステート・プラニング入門【第41話】
1. 遺言執行人が既に他界していた
古い遺言書では、任命された遺言執行人(Executor)が、遺言者より先に亡くなっていることがよくあります。任命された遺言執行人が全員亡くなっていた場合、遺言書はあるけれども、遺産を扱う権限を持つ人格代表者不在の状態になります。そのため、プロベイト手続きを開始する際に、遺言書の相続人は遺言執行人を選任し、裁判所による新たな遺言執行人の任命が必要になります。しかし、裁判所の任命が下りるまで、無遺言のように遺産が凍結されてしまうこともあり、税金や諸経費の支払いが滞り、多くの不都合が生じます。
2. 遺言執行人と疎遠になっていた
遺言執行人として任命していた家族や友人との関係が、遺言者の死亡時には疎遠になっていたため、任命された人が遺言執行人の座を辞退してしまうことがあります。その場合、前述の遺言執行人が先に他界した場合と同様に、新たな遺言執行人の任命が必要になり、プロベイト手続きが煩雑になり、時間も費用もかかります。
3. 相続人が既に他界していた
相続人(Beneficiary)として遺産をのこすつもりだった人物が、遺言者より先に他界しており、その場合の代替の相続人が明記されていない場合、他界していた相続人の遺産金については、事実上の無遺言状態になってしまうことがあります。そうすると、法定相続人を特定しなければならず、相続人探しが国境を超えることもあり、遺産手続きが長期化する傾向があります。
4. のこすはずだった特定の財産が存在しない
自宅やコテージなどの不動産や、特定の預金・投資口座を特定の人物にのこすという遺言内容であった場合、もしその特定の財産が亡くなる前に売却されていたり、のこすはずの特定の口座を生前に使ってしまっていた場合は、相続財産が存在しないため、特定の相続人は受け取る財産がなくなります。場合によっては、相続人間で不公平が生じることもあります。
5. 残された財産が遺贈金の総額より少ない
遺言書の中で、「チャリティ〇〇に△△ドルを遺贈する」というような指定された金額を多数の受遺者にのこしていた場合、残された財産の総額が遺贈金(Legacy)の総額よりも少ないために、遺贈金を全額支払えず、遺産の分割が複雑化することがあります。
6. 遺言書の立会人が見つからない
遺言書のプロベイトが必要な場合、遺言書の立会人2名のうち1名が、遺言者の署名に立ち会ったことを証明する「執行宣誓供述書(Affidavit of Execution)」を裁判所に提出することを求められます。
現在、オンタリオ州では多くの弁護士が遺言書の署名後直ちに、立会人の宣誓供述書を作成し、遺言書に添付してご本人にお渡ししています。
しかし、20年以上前は、弁護士が遺言書に執行宣誓供述書を添付することが今ほど一般的ではなかったため、古い遺言書は、遺言者が亡くなってから、立会人を探さなければならないことがよくあります。
特に、立会人を務めた担当弁護士を含め、立会人が亡くなっているケースも多く、そうなると、ご家族以外の第三者が遺言者の署名がご本人のものであることを証明する必要が生じるため、大変厄介です。
ライフステージに合わせ定期的な見直しを
私の経験上、上記のようなトラブルは、遺言書の作成時期が20年以上前のものに目立ちます。遺言書は定期的に見直し、遺言書に記載された人物の年齢・健康・お付き合い、そして、ご自身の財産の現況とご希望に照らしてチェックしておきましょう。
[おことわり] このコラムは、オンタリオ州法に関する一般情報の提供のみを目的とし、著者による法的助言を意図したものではありません。また、本コラムの情報は、2022年11月時点での情報に基づいており、今後法改正により内容が変更する可能性があることをご理解ください。