無遺言が招く難題 ~未成年者の遺産相続|カナダで暮らす-エステート・プラニング入門【第38話】
未成年の子供2人を持つ女性が無遺言で若くして他界し、夫(法律婚)と未成年の子供2人が残されました。この女性は生前、単独名義でモーゲージの残った投資用不動産を2件所有しており、彼女名義の不動産は、女性の遺産を構成し、残された夫と子供2人が法定相続人として遺産を相続することになりました。その後、この女性の夫が、オンタリオ州裁判所から無遺言による遺産管財人(Estate Trustee Without a Will)として任命され、妻名義の不動産を売却することになりました。
未成年者の親には子供の財産権がない
まず、未成年者には、遺産金(財産)を受け取る法的能力がありません。また、オンタリオ州では、未成年者の親は、親の当然固有の権利として、子の財産を受領し、管理する権利を有しません。現在の法律では、未成年者の親は、金額が35,000ドルまでは、子供に代わって受け取ることができます。しかし、35,000ドルを超える未成年者へのお金は、オンタリオ州上級裁判所会計局(The Accountant of the Superior Court of Justice)へ預けなければななりません。裁判所に預けられたお金は、相続人の子供が18歳になるまで管理され、18歳に達するとその子供に直接支払われます。
なお、もし裁判所にいったん預けたお金を子供の教育費用などに当てる必要が出てきた場合は、州政府の許可を得て、遺産金の一部引き出しの手続きを経る必要があります(Minor’s Funds Program)。ちなみに、生命保険やRRSPなどのレジスタードプランについても、未成年者が受取人に登録されていた場合(Beneficiary Designation)、受取人へのお金を裁判所に預ける必要が生じるため、注意が必要です。
https://www.ontario.ca/page/minors-funds-program
もし、上記の事例の父親が、子供たちの遺産金を裁判所に預けずに、自分で管理することを望む場合は、裁判所により未成年者の財産後見人(Guardian of Property for a Minor Child)として、任命される必要があります。
未成年者の財産権を監督するOCLの役割
オンタリオ州では、財産管理能力のない者が相続人になった場合、州の政府機関が、その相続人の財産権を監督します。相続人が成人している場合は、The Office of Public Guardian and Trustee(OPGT – 公的後見人管財人事務所)が、また、相続人が未成年の場合は、The Office of Children’s Lawyer(OCL – 児童弁護士事務所)という州政府機関がその役割を担います。上記の事例の場合、父親が遺産管財人任命の申請手続きが開始した段階から、遺産に関する情報をOCLと共有します。また、遺産管財人の遺産管理状況について、定期的にチェックが入り、遺産分配前には、OCLによる遺産会計の精査が行われます。
未成年の相続人は遺言書で対策を
このように、無遺言で法定相続人が未成年の場合、多くの遺産金が子供に残されていても、直ぐにその子供のために使うことはできません。そのため、生前に遺言書の中で未成年の子供の遺産金について対策することが大切です。
また、未成年者だけではなく、大学生などお金の管理が未熟な年齢の相続人には、一定の年齢になるまで、遺産金を信託(Trust)で管理するように遺言の中で信託を設定しておくと、非常に助かるでしょう。これは、ご自分のお子さんだけではなく、お孫さんに遺産を残す場合についても同じです。信託では、遺産金の管理人である受託人(Trustee)を任命し、信託で管理する遺産金の使い方や目的を設定しておけば、若い相続人が大金を一気に無駄遣いしてしまう心配も防ぐことができます。このように、遺言信託は、若い相続人のライフステージに合わせ、長期的な金銭的支援を行うことができるのが魅力です。
[おことわり] このコラムは、オンタリオ州法に関する一般情報の提供のみを目的とし、著者による法的助言を意図したものではありません。また、本コラムの情報は、2022年8月時点での情報に基づいており、今後法改正により内容が変更する可能性があることをご理解ください。なお、本コラムの事例は架空の設定であり、登場人物は実在の人物ではありません。