任命されたけど辞退したい(その①)~遺言執行人の場合|カナダで暮らす-エステート・プラニング入門【第39話】
それでは、もし遺言書に任命された遺言執行人が、その任命を辞退したい場合(Resignation)は、どうしたらよいのでしょうか。
任命されても辞退することは可能
遺言書の中で遺言執行人に任命された人は、その任命を必ず受け入れなければならないという義務はありません。健康上の理由に限らず、遠くに引っ越して物理的にできない、遺言者と疎遠になった、単純にやりたくない等、人それぞれの個人的な理由で、遺言執行人の任命を辞退することは可能です。しかし、遺言執行人に任命された人が辞めたいタイミングが、遺言執行人の仕事を始める前と後とでは、全く手続きが異なります。
1.最初から辞退する場合
遺言者の死後、遺言執行人をやりたくない、もしくは、できないと任命されていたご本人の意志がはっきりしている場合は、早急にその座を辞退する必要があります。その場合、遺言執行人の任命を辞退するための、特定の裁判所の書式(Renunciation of Right To a Certificate of Appointment of Estate Trustee With a Will)に署名します。
そして、辞退した人の次に代替の遺言執行人として任命されている人(Alternate Executor)が、この書式と遺言書の認証謄本を政府や金融機関に提出することで、第二順位の遺言執行人(Alternate Executor)にバトンタッチします。
また、遺言書のプロベイトが必要な場合は、指定の辞退書を裁判所に提出します。このように、遺言執行人の仕事に何も手を付けていない場合は、辞退書を署名するだけで足り、単純な手続きと言えます。ちなみに、一度辞退すると、気が変わっても撤回できないため、迷っている場合は、専門家に相談し、慎重に判断しましょう。
2.途中で辞退する場合
一方、既に遺言執行人として、銀行に出向いて遺言者の財産の回収や、債務整理を始めていた等の仕事を始めており、その後、健康上の理由や、その他の個人的なやむを得ない理由で、遺言執行人の責務を全うできない場合もあります。
遺言書のプロベイト手続きが終了したか否かに関わらず、遺言執行人の仕事を途中で辞退するには、裁判所の命令が必要になります。しかし、「単にやりたくないから」という理由は、裁判官を説得するには十分ではありません。また、遺言者の死亡日から遺言執行人が辞退するまでの期間の遺産会計監査の手続きを裁判所で行うことが必要になります。このように、遺言執行人を途中で辞退するためには、その手続きに時間もコストもかかります。
なお、前述のように裁判所で遺言執行人の辞退が許可された場合や、遺言執行人が遺産分配前に亡くなってしまった場合は、遺言書の中で第二順に任命された遺言執行人を任命する、後継遺産管理人任命証書(Certificate of Appointment of Succeeding Estate Trustee)を取得する裁判手続きが必要になります。
正式に引き受ける前に一度ガイダンスを
このように、遺言執行人に任命された人は、辞退する自由もある一方で、いったん任命を受け入れると、途中でやめることは簡単ではありません。そのため、遺言執行人に任命された場合、遺言者が亡くなった後、遺言執行業務を始める前に、専門の弁護士によるガイダンスを受け、その責務をきちんと理解しておくことが重要です。
[おことわり] このコラムは、オンタリオ州法に関する一般情報の提供のみを目的とし、著者による法的助言を意図したものではありません。また、本コラムの情報は、2022年9月時点での情報に基づいており、今後法改正により内容が変更する可能性があることをご理解ください。なお、本コラムの事例は架空の設定であり、登場人物は実在の人物ではありません。