日加をスイーツで繋ぐカナダ人シェフ ジェームズ・ホールハウスさん インタビュー[人生のBEFORE AFTER]|特集 カナダライフBEFORE AFTER
今年3月、東京のパークハイアットのエグゼクティブ・ペストリーシェフに就任したジェームズ・ホールハウスさん。トロント出身のホールハウスさんは、子供の頃にお菓子作りに出会って以来、カナダ国内外のホテルで経験を重ね、お菓子作りの世界大会にもカナダ代表として出場。そんな彼が東京で働くことになるまでの道のり、そして日本でペストリーシェフとして働く中で感じることについてお話を伺った。
誰かのために何か特別なものを作る、その光景が好きだった
ージェームズさんがパティシエとしてここまで来た経緯を教えてください。
長くて楽しい道のりでしたね。始まりは13歳、パン屋さんで働いていた時です。自分がパンやお菓子を作ることが好きだと気づきました。幼少期の多くの楽しい思い出にお菓子やケーキが必ずあったのも一つの理由かもしれません。我が家でお祝い事があると、おばや母がケーキを作り、それがテーブルに出されると家族みんなが喜ぶ。そうやって誰かのために何か特別なものを作る光景が大好きでした。
その後も様々なパン屋さんで働き、トロントのジョージ・ブラウン大学で一年間、料理を勉強しました。トロントの四つ星ホテル、キング・エドワードホテルでシェフとして勤務していた経験もあります。
その後、エドモントンでパティシエとして勤務している最中に大会に出場するようにもなりました。アルバータ州代表チームを経て、やがてカナダ代表チームの一員として世界で戦うようになりました。大会のためのお菓子作りは10年ほど続け、カナダ代表としては初めてのクープ・デュ・モンドというパリでの有名なお菓子作りの大会にも出場しました。その間に多くの優秀なパティシエと出会い、砂糖細工やチョコレート細工など、お菓子作りの芸術的な面での技術も磨いていきました。今でも大会で出品するような作品を作るのはとても好きです。
ーパン屋さんから世界大会まで、様々な経験をされてきたジェームズさんですが、日本で働くようになったのはなぜですか?
競技から退いた後はバンフ・スプリングス・ホテルやハイアット・リージェンシー・カルガリーなど、いくつかアルバータ州内のホテルで勤務していました。ハイアットではエグセクティブ・ペストリーシェフにも昇格しました。
実はこの頃はまだ、アジアで働くことは全く頭にありませんでした。ただ、何か新しいことに挑みたいという思いから、当時日本のホテルでシェフとして働いていた友人に連絡をし、アジアで働くのはどうかと聞いてみました。すると、彼がどうしても日本について話すのをやめなかったのです。そこまで言うのならと思い、履歴書を出してみました。そうしたら一ヶ月もしないうちに台湾のグランド・ハイアット・台北から連絡があり、そこで働くことになりました。そこが私のアジアでの初めての勤務先です。その後、香港を経て、ここ、パークハイアット・東京へやって来ました。
東京の食文化と世界クラスの美食は多くのシェフを虜にしている
ーアジアには多くの大都市がありますが、その中でも東京を選ばれた理由を教えてください。
東京の食文化、そして世界クラスの美食は私を含め多くのシェフを虜にしています。質の高い食材も多いですし、みなさん自分のやっていることに誇りを持っていらっしゃる気がします。そのおかげで他の国のグルメシーンも感化され、お互いとても良い刺激になっているのだと思います。そのような環境で働くことが出来るというのはとても感慨深いです。
ー確かに、日本ならではの食材は多くあると思います。その食材をどのようにご自分の作品と融合させていますか?
ここ、パークハイアット・東京では季節感と地元の食材を使うことを重視しています。中でも季節のフルーツはよくメニューに使用しています。例えば今の季節だと、沖縄のパイナップルやパッションフルーツ、さらには宮崎マンゴーなどをデザートに用いています。日向夏やデコポンなどの柑橘類もいろいろ試してみて、とても面白かったです。まだ日本に来て数ヶ月しか経っていませんが、これから日本で一年間過ごして全ての季節を経験することが楽しみです。それにより季節ごとの美味しいものがわかり、季節にあったデザートやスイーツをご提供することが出来ると思います。
ー日本の食材を使う中で難しいことはありましたか?
難しいというよりも、常にベストを尽くさなければいけないのは確かです。四季は目まぐるしく変わって行きます。それによってメニューも変化していくので、常に試作品を作っては改良する、というサイクルの繰り返しです。難しいというよりもそのスピードについていかなければいけないですね。
大会に出るたびに自分が今まで踏み入れたことのない領域に挑戦することができる
ーホテルでお菓子を作るのと大会でお菓子を作るのとではまるで違う経験だと思いますが、大会での経験について教えてください。
大会では素晴らしい経験をさせてもらいました。時間や労力がかかるのはもちろんですが、その先にある結果や作品がさらに創造力を掻き立てるのです。世界中から多くの人々が集まり、一つの会場で競い合うというのもまた素晴らしいことだと思います。
このような経験が出来たからこそ、私もペストリーシェフとしてここまで来られたのだと思います。大会に出るたびに自分が今まで踏み入れたことのない領域に挑戦することが出来るので、毎回大きく成長するのを実感しています。
長い間準備するのももちろんですが、予期せぬトラブルやハプニングに対応する力も養われれます。思い通りに物事が進まないことは多いですが、それに対していかに事前に予測して準備をするかというのは今、ホテルで勤務していても活きていることだと思います。
さらに、若い見習いに教えるときもそのような長期的なスキルを教えることは重要だと思っています。
ー創作や大会など様々な方面からお菓子作りと向き合った中で、ホールハウスさんがお菓子作りで一番気に入っていることは?
いろいろと創造して独創的になれるところが一番気に入っています。特に私が好きなのは砂糖やチョコレートで作るお花です。お菓子作りのアイデアも自然から得ていることが多いので、私の作品には自然界が多く反映されています。自然の他にも、様々な場所からインスピレーションはもらっています。絨毯の感触や竹の葉っぱなど、アイデアはそこら中にある気がします。そのアイデアを集めて、紡いで、自分の作品に仕上げていくのはとても楽しいことです。
ー日本に来てからの経験を教えてください。東京の他にも訪れた場所はありますか?
日本に来て、柑橘類やマンゴーをはじめ多くのフルーツを初めて使いました。使用しているフルーツの生産者にお会いするべく、原産地である九州の鹿児島県や宮崎県のくだもの畑も訪れました。使っている果物がどこから来ていて、どのように育てられているのかを目にするのは素晴らしい経験でした。特に宮崎マンゴーの完璧と言える美しさには思わずうっとりしてしまいましたね。フルーツの他にも様々な種類のお茶も勉強していて、それも徐々にお菓子に取り入れています。
お菓子作り以外では、東京での発見が多くありますね。世界でもトップクラスの人口を誇るにも関わらずとても平穏で、リラックス出来る場所がそこら中にあるのが気に入っています。街の雰囲気も好きです。きれいで整頓されていて、人もとても礼儀正しい。職人技の宝庫でもある東京では食べ物に限らず、和紙や陶芸など多くの技や伝統を目の当たりにできるのも新鮮ですね。
ー日本ですでに様々な経験をされてきたホールハウスさんですが、これからの展望や計画を教えてください。
ホテルのペストリーショップでチョコレートでウィンドウディスプレイを作るのがやりたいと思っていることの一つです。その他にも、これから夏の季節限定メニューをご提供する予定です。私が訪れた九州のフルーツを用いたスイーツもこれから作り始めるので、皆様にもぜひ、味わっていただきたいですね。