第13回 国際結婚の日本語保持は母親の責任?|カエデの多言語はぐくみ通信
海外に定住する日本人は52万人です(2019年)。その内32万人が女性で、男性の1.6倍となっています。私の住んでいるカナダでも、日本人女性の定住者が日本人男性より多く、既婚者の大半は日本人男性以外と国際結婚しています。
国際結婚の場合、子どもの日本語保持という問題が出てきます。では、カナダ人、またはそれ以外の外国人の夫は、妻の子どもに対する日本語教育に積極的なのでしょうか。在加20年の私から見た印象を書いてみたいと思います。
夫の態度は、「君がやりたいなら」
カナダ人の夫は家事育児を分担し、積極的に子育てに参加している、という印象があると思います。事実、日本の男性に比べると、社会のプレッシャーもあり、男性が家事育児を分担しないという選択肢はほぼないと言ってよいでしょう。
しかし、国際結婚に付随するマイナー言語の習得については、家事育児分担ほどカナダ社会からプレッシャーはありません。それゆえ積極的に協力してくれる夫はそれほどいないかもしれません。いえ、協力していないのではなく、「妻の日本語教育に対する熱量と差がある」と言った方が良いでしょう。
海外で子どもに日本語を教えることは、夫婦に多大な負担を強います。日本語学校で週末の家族の時間が潰れ、現地校の宿題にプラスして日本語の宿題をさせるのに時間を取られる。週末、子どもにスポーツを十分にさせられない。お金がかかる、等々、数え上げたらきりがありません。
外国語を習得した経験のないモノリンガルの夫は、最初こそ、「外国語が話せるのは良いことだ」と、日本語教育に賛成していても、その大変さに気付くとだんだん不満が出てきます。そして、「反対はしないし邪魔もしないけれど、僕の生活は変えたくない」というレベルの協力にシフトしていきます。妻とは絶対的に熱量が違うのです。
(ヨーロッパ圏出身者は複数言語を話す人が多く、英語を含むヨーロッパ言語は似ているので、習得は比較的楽です。その経験から、日本語も大人になってから勉強しても遅くないと言う父親がいますが、それは正しくありません。)
妻は自分の責任と思う
日本人妻も、中々子どもの日本語教育を夫婦2人の問題と捉え難いようです。夫に対して申し訳ないという気持ちがあるように感じます。
「無理してやらせてもらっているのだから、夫にこれ以上迷惑はかけられない」、「日本語学校の送迎をしてくれるだけでも協力してもらっている」、「日本語はカナダの主要言語ではないからやっぱり英語の方が大事」と、日本語学習はおまけだから、カナダ人夫に多くを要求できないと考えがちです。
また、金銭的な負い目もあるでしょう。移民である妻は給与が十分な仕事に就けない場合が多く、その場合、子どもの日本語教育にかかる費用を夫に頼ることになります。そこに負い目を感じる妻も多く、お金のかかること、ましてや自分の我儘とも見える日本語教育に出費させることも、憚られるのかもしれません。
そして、つらい日本語教育の愚痴を言っても、モノリンガルである夫には理解してもらい難いでしょう。悪くすると、これ幸いと「じゃ辞めれば?」となるかもしれません。日本人妻は子どもの日本語教育の責任を全部背負い込み、つらいと思っても、夫に愚痴を言うことや、より以上の協力を求めることができず、かなり追い込まれた気持ちになります。
日本語保持には夫の協力が不可欠
私の夫は、英国系の義父が「フランス語なんて役に立たない」と常に言っていたので、それを信じて、学生時代フランス語をしっかり勉強しなかったことを今も後悔しています。
それゆえ、子どもたちの外国語教育にはとても積極的でした。日本語教育に加えて、フレンチイマージョン(カナダの英仏語バイリンガル教育)に子どもを入れようと言い出したのは夫でした。私は日英仏の3言語は無理ではないかと躊躇しましたが、夫の熱意に説得されました。
その後、夫は変わることなく子どもたちの3言語教育にたいへん熱心でした。日本語保育園や補習校などに子ども2人を長年通わせると高額になります。よって贅沢な物は一切買わず、その費用を子どもたちの言語教育や日本への里帰りに使いました。
モントリオールでのフランス語のサマーキャンプが現地申し込みだった時には、夫は片道500キロ車を走らせました。私が日本語教育に何度か気弱になり、「もう無理!」と叫んでいた時に、その都度励ましてくれたのも夫です。夫の協力なしに、子どもたちに日本語やフランス語を身に着けさせることは無理だったでしょう。
外国人夫も当事者意識が必要
日本人を妻にはしたけれど、その後ろにある妻の言葉や文化に、それほど興味を示さない外国人夫はたくさんいます。しかし、子どもは親の態度に大きく影響を受けます。父親が日本人である妻本人や日本語、日本文化を軽んじる態度を取ると、子どもがそれを感じて日本語学習のモチベーションが下がります。子どもにとっての日本というブランド力が下がるのです。
外国人夫に、父親と母親どちらの国や文化、言葉も大事という態度を貫き、子どもの日本語学習に当事者意識を持ってもらうことはとても重要です。日本人の母親が1人で背負うには重すぎる荷物なので、夫婦2人で分け合う気構えを夫に持ってもらうのです。そのためには、日本語教育を始める前に、夫婦で十分話し合い納得し合うことが大事でしょう。
参考: 海外在留邦人数調査統計(令和2年版)
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